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03.地獄の番犬ケルベロス


部屋を出て建物の外へと皆で歩いていると、緑戦士のフォレストがハルに話しかけた。

「クロイハル、外に出たら僕の使い魔を紹介しますね。他の皆はこの討伐隊が組まれる前からの知り合いですから、皆はすでに僕の使い魔を知ってます。

初めて見ると驚くと思うので先に説明しておきましょう。クロイハルの世界には魔獣がいないようなので、会わないと分からないかもしれませんが、名はケルベロスと言って―」

「ケルベロス?!」


ハルはフォレストの言葉を遮って叫んでしまった。

ケルベロスってあのケルベロスか。地獄の番犬ってヤツ。


早速タブレットで検索してみる。――携帯の方が手慣れているのだが、残念ながら部屋の外は圏外になっていた。

検索して出た画像で確信する。

ケルベロス――やはりこれだったか。


「こんな感じですか?」

「……何も見えないですが。クロイハルには何かが見えているのですか?」

「……え?」

タブレットに出ている画像をフォレストに向けたが、フォレストには画像が見えないらしい。

念のために、私の様子を隣でみていた桃戦士のマゼンタにも見せてみる。同じように首をひねるマゼンタを見て、タブレットが万人用ではない事を知った。

まあそれはそれでいい。


「地獄の番犬……ケルベロスは噛んだりしないです?」

「僕の使い魔なので大丈夫ですよ」

そんな話をしながら外に出た。





「……………」

実際にケルベロスを目の前に見ると、その迫力に言葉も出ない。身体が硬直して、逃げるどころか声をあげる事も出来なかった。

ただぼんやり突っ立っている事しか出来なかったのだ。


「クロイハルは僕の使い魔は大丈夫そうですね。これから旅を共にするのですから良かったです」

そう言ってフォレストがハルに笑いかける。


違う。そうじゃない。怖い。めっちゃ怖い。

そう切実に思いながらも、恐怖のあまりに現実逃避をしてぼんやりし続けた。



「いつまでボーッとしてんだ。早くしねえと目指す村に付かねえぞ。野宿が嫌ならさっさと歩け」

赤騎士のフレイムの声で我に返る。


――大丈夫。緑の男は噛まないと言っていた。今はそれを信じるしかない。

ハルはもう目の前の現実を見ないことにして、皆と歩き出した。






ハアッハアッハアッ

歩き出して五分もしないうちにハルはその場に座り込む。

ハルは皆と足の長さが違うのだ。この国宝級美貌の戦隊ヒーロー達は、見上げるほど背の高い連中だし、桃戦士のマゼンタも、そんな彼らと同じくらい背が高く足も長い。

彼らの二歩はハルの五歩なのだ。歩くのも早い彼らに合わせたら、ハルはほぼ走っているのと変わらなかった。



「もう無理。もう歩けない。…もういい。私はここで寝ておくよ」

出だしからこんな風では、先に未来はない。それなら今すぐここでリタイアすれば無駄な労力を使わなくて済む。



黒戦士の旅は終わりを告げた。

――この息が落ち着いたら、タブレットにそう記録しよう。

そんな思いで、ハルは地面に寝転んだ。目も瞑って寝たふりをする。

もうどうでもいいや、と投げやりな気分だった。


5人の戦隊がハルを囲んで皆で見下ろす。

「コイツ…五分も持たねえのかよ」

――この声は赤い奴だ。


『チキショウ。お前はいいよな、戦隊レンジャーのヒーローで。どうせハイスペックな野郎だろう?そんなヤツに一般人の気持ちが分かる訳がないじゃん』

ぎゅうっと目に力を込める。


「この子起きる気ないですね」

「まだ五分も歩いてないわよ」

「流石に体力なさすぎじゃないか」


――皆が自分をディスってくる。こっちが寝てると思っていい気になりやがって。

こんな失礼な奴ら、二度と敬語で話してやったりしない。お前たちなぞタメ語で十分だ。私の旅は既に終わってるんだ。さっさと行けばいいだろう。


ハルはそんな思いで寝転び続ける事を選ぶ。


「すごい不満顔して寝てますよ。……しょうがないですね。ケルベロス、クロイハルを乗せてやってくれ」

緑の男の声がしてヒョイと持ち上げられたかと思ったら、ケルベロスの背中に乗せられた。



「!!!!」

ケルベロスの背中になんて、そんな恐ろしい場所に耐えられるはずがない。

ヤバい!と目を開けると同時に、ケルベロスの背中の意外なくらいの乗り心地の良さに気づき驚愕する。


これは、この感触は――

私の部屋にも置いてある、ヒトをダメにしちゃうソファーだ。


私はそのソファーで、いつもダメになっていた。休みの日は、一日中そこで携帯を見ながらだらける事が出来る。

コーヒーを飲みながら携帯を見て、気付いたら眠りに落ちる、そんな時間をこよなく愛していた。

こんなに素敵なソファーを譲ってくれるなんて!


緑の戦士に礼を言う。自分に誓ったように、早速のタメ語だ。

「ケルベロスちゃん、最高!本当にありがとう!これなら移動も頑張れるよ!」

元気にお礼を言ったハルに、フォレストはただ笑顔を返しておいた。座って移動するだけのハルの、頑張るという言葉に何を話せばいいか分からなかったのだ。



テクテクとケルベロスが歩くその優しい振動が心地よい。

『ケルベロスちゃん、最高よ…』

温かいし、うちのソファーよりも遥かに上質だ。

あっという間に眠りに落ちてしまいそうだ。


そしてハルは五分もしないうちに爆睡し出した。

今日は朝早くからバイトだったし、休憩入ったそのままにこんな世界に来ちゃったし、運動不足なのに走らされたし、もう眠るしかなかったのだ。



建物を出て五分もしないうちにゴネて地面に寝転び、ケルベロスの背に乗ってまた五分もしないうちに眠る黒戦士。

そう言えばあの部屋に入った時から、あの緊迫するべき場所で、やたら主張する食べ物と飲み物を飲んでいた。

皆が、出会ってからのハルを思い返して、ハルの存在を位置付けた。



『黒戦士は常識という言葉を知らない自由人だ』

皆の中でそう認識された。



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― 新着の感想 ―
3ページ目にしてめちゃくちゃ笑いました。 続きを読むのがすごく楽しみです! あと100ページ以上もある・・・。 うふふふふ♡
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