23.緑の国のお買い物
フォレストとメイズとマゼンタが、念入りに身なりを整えてダイニングに戻ると、既に四人は出かけていた。
使用人から渡された、セージからの手紙を受け取って中を確認すると、『街に買い物に出るから、良ければ昼食時に会おう』と予約を入れた店が書かれていた。
「驚くほどに冷たい対応だな」
メイズが手紙を読んで苦笑する。
「貴方達のお酒の匂いも悪いのよ。せっかくクロイハルがオシャレしてたのに、まともに見る事も出来なかったわ」
「確かに僕の色が似合ってましたよね」
そんな会話をしながら、三人は部屋で仮眠を取ることにした。一晩の徹夜明けなど大した事ではなかったが、皆を追いかけるほどの事でもない。
休日という事もあって、お昼に合流したければ行けばいいと、それぞれがゆっくり過ごす事にした。
その頃、ハル達は既に街に着いていた。
今日は馬車で出かける事にしたので、ベルもオルトロスも屋敷で留守番をしている。
いつも側に付いていてくれるベルもいないので、『ここで迷子にならないようにしなくては』と、珍しくハルは皆と離れることなく歩いていた。
普段は構おうとするほどに距離を取るハルが、ちゃんと二人の戦士の側について歩くので、フレイムとシアンは機嫌良くハルに気配りを見せ、ハルも小言を言ってこない二人に警戒する事なく接する事が出来ていた。
そんな三人の様子を見ながら、『今日の関係は良好そうだ』とセージは安堵していた。
屋敷に到着した日、セージには戦隊達の関係が危ういように見えたのだ。あの日の英雄達はハルに怒っていたし、ハルもそんな英雄達にウンザリしているようだった。
特に隊の中心となっているこの二人との関係が最悪そうに見えたが、こうしてお互いが一歩近づくと途端に穏やかな関係に変わる様子を見せた。
三人のそれぞれの性格を考えると、いつでも良い関係でいられるとは思えないが、こんな風になごやかな時間も持てるならば、これから先も大丈夫だろうと思う事が出来る。
『屋敷に置いてきた三人の英雄達のフォローは全く出来てないが、あの三人なら人当たりも良いし何とかするだろう』
そんな風に考えて、セージは不安が解消された思いで三人と共に歩いた。
「マカロンだ!」
お菓子屋のショーウィンドウを見て、ハルが歓声をあげる。
「このお店のマカロンの色揃えは凄いね!こんなに沢山の色のマカロンに囲まれてるなんて、お店のスタッフさんも毎日幸せに思ってるよ。街中から客が押し寄せちゃう前に、早く買い物しよう!」
目を輝かせてお店に入ってきた黒戦士に、店の主人が気を利かせてスタッフに閉店看板を表に出すよう指示を出す。
お店が気遣いを見せてくれたおかげで、ハルはゆっくりお店を堪能する事が出来た。
「本当にすごい色揃えだね、感動しかないよ…。お菓子の家ってこんな感じじゃないかな。もうこのお店に住んでみたい」
目を輝かせて浮かれるハルの様子に、お店の人も気を良くし、案内をした戦士達の目も優しい。
皆が何も言わずハルの好きなように店の中を回らせてくれたので、ハルは色選びを楽しみながら、同行者の三人の色でそれぞれのマカロンのグラデーションを作ってプレゼントした。
ハルの自分のお土産としては、好きな色詰め放題のカラフルバージョンを作ってみる。
もちろん支払いはハル持ちで、誰に気兼ねする事なく堂々とお買い物を楽しんだ。
「この国に来た時は絶対また来るね!」
店の者達は、そんな言葉をかける黒戦士に好印象を持ち、なかなか上手くハルはこの世界に馴染んでいっていた。
「クロイハルの色選びはセンスあるな」
「昨日に引き続いて贈り物をもらってばかりですね。私もお礼がしたいです」
二人の英雄達との関係も良くなっていく。
良いお店だったと、ハルもご機嫌で和やかな時間が過ぎていった。
雑貨店で、ハルは不思議な触り心地のネックレスを見つけた。それは驚くほど軽くて、肌馴染みも良さそうな物だった。
手に取って眺めていると、シアンが説明してくれた。
「そのチェーンの部分は、魔力を練り上げて作られた物なのですよ。金属では無いので、日常使いで使われることが多いですね」
「ふうん。魔力って形になるんだ…。魔力でネックレスが作れるなんて凄いよね。職人技だね、貴重な物なんだろうね」
「……私も作れますが」
「ええ!?」
「俺も作れるぞ」
「マジか!!」
なんということだ。
この国宝級美貌の戦隊達は、アクセサリーまで作れるというのか。
顔良し、スタイル良し、戦闘能力抜群で、アクセサリーまで作る男。……ハイスペックが過ぎるだろう。
性格と口に難ありと言えど、これは優良物件が過ぎる。こんなイケメン野郎の近くにいては、世の女性達の反感を買うに違いない。
『気をつけなければ…』
二人の戦士達の優しさに緩めかけていた気を、ハルは改めて引き締めた。
お店の優しそうな店主さんが説明をしてくれる。
「黒戦士様のお手元のネックレスは、アンティーク物なんですよ。かつてはどなたかに贈られたものでしょうね。
強い魔力を持ったお方は魔力を形にする事が出来て、そのようなお方はご自身で作られたアクセサリーを、特別な方に贈ることが出来るのですよ。想う相手に自分しか作り出せない物を贈る事が出来るなんて、本当に素敵ですよね」
「そっか〜それは確かに素敵だね、私には縁がないものだよ。アンティークでも想いが込められた物は重いから、これは止めておこうっと。こっちの髪留めをケルベロスちゃん達にお揃いで買っていこうかな」
アッサリと手に持っていたネックレスを元の場所に戻す。
「………」
二人の英雄は黙り込む。
セージも何も言葉が出ない。
会話の流れ的に、どう見ても二人の英雄達はクロイハルに自分達で作った物を贈ろうとしていた。
普通ならば、涙を流しながら歓喜するレベルの申し出だ。
『想いが込められた物は重い』と言われては、作ってみせる事も出来ないだろう。
このバッサリと取り付く島もないような切り捨て方は、選ばれし者の成せる技なのか。
セージは気の毒そうな視線を二人の英雄に向けた。
機嫌良くケルベロス達へのお土産を選ぶハルだけが楽しそうだった。




