02. 国宝級美貌の戦士達と私
「そう言えばクロイハル様はつい先ほどの到着ですね。他の皆さんはもうお互いをご存知ですから、私から皆さんを紹介しましょう」
貴族風の男がこちらを見る。
「あ、よろしくお願いします」
「私は皆様の司令官となる、ドンチャヴィンチェスラオと申します」
「え…?ドンチ…?」
「ドンチャヴィンチェスラオです」
「ドンチャン…?」
「………」
貴族風の男にふうと小さくため息をつかれる。
「お好きに呼んでもらっていいですよ」
「あ、はい。…では間違えて失礼のないように、ドンちゃんと呼ばせてもらいますね」
コホンとドンちゃんが咳払いをする。
「そしてこちらが、赤戦士のフレイム様、青戦士のシアン様、緑戦士のフォレスト様、黄戦士のメイズ様、桃戦士のマゼンタ様です」
カタカナ名前は馴染みが無いから覚えにくい。
絶対覚えられないと言う顔をしているハルに向かって、ドンちゃんが困った顔になる。
「クロイハル様は異世界から来られていますし、こちらの世界の名前に馴染みがないのでしょう。まあおいおい覚えていけば良いと思いますよ」
「はあ…」
ハルの気の抜けたような返事に、更に困った顔になったドンちゃんは話を進める事にしたようだ。
「ではこの討伐の旅における、皆様の役割をお伝えしますね。まずは赤戦士のフレイム様と青戦士のシアン様。お二人は戦闘要員となります。こちらの剣をどうぞ」
ドンちゃんが赤戦士と青戦士に、派手な剣を手渡す。その剣は戦隊モノの剣を連想させるものだ。
子供達の憧れが詰まったヤツ。
ほほうと感心して見ていると、次にドンちゃんは細身の剣を緑戦士と桃戦士に手渡した。
「緑戦士のフォレスト様は魔獣使いでの戦闘要員となりますが、剣も使えますしこちらをどうぞ。そして桃戦士のマゼンタ様は治癒要員ですが、こちらは護身用としてもお使いください」
二人の騎士が剣を受け取る。
ドンちゃんがハルの前に立つ。
――次は私だ。
ハルは期待に胸を高鳴らせる。
「ドンちゃん、私は、――私も戦闘要員ですよね!」
嬉々として尋ねたハルに、ドンちゃんがおやと片眉を上げる。
「クロイハル様は魔物と戦った事があるのですか?」
「いいえ。私の世界に魔物はいません」
「では剣を扱えるのですか?」
「剣はないですけど、包丁ならいつも使ってます。自炊しているので!」
「……」
ドンちゃんは少し黙った後、コホンと咳払いをした。
「クロイハル様、魔物討伐には危険を伴います。剣を扱った事が無い者に剣をお渡しする事はできません。クロイハル様には別の形で討伐隊に加わっていただきたいのです」
どうやら剣での討伐を期待されていた訳ではないらしい。黒レンジャーって何をするんだろう?
黒と言えば黒幕?いやいや、そんな立場は荷が重い。
黒…黒といえば闇だ。私は闇魔法使いなのか?
「私は、闇の術師として呼ばれたのでしょうか」
「クロイハル様!魔術が使えるのですか!」
「いえ、使えません」
「……」
ドンちゃんが黙る。
周りの戦士達も何も言わないので、静寂だけが部屋を漂う。
――コホン。
ドンちゃんが咳払いする。
「クロイハル様はこの討伐の旅の記録係となります。討伐の記録を後に分析する事によって、これからに備えることが出来るのです。こちらは古代遺跡なのですが、使い方はお分かりになりますか?」
そう言って渡されたのは、タブレットだった。
「え…私の役割ってタブレットで入力する事なんですか?」
え〜〜〜〜とゴネた声を出す。
「こんなの誰でも出来るじゃないですか。私が異世界から呼ばれた意味ゼロじゃないですか?」
ハルの言葉を聞いた途端、ドンちゃんが驚愕の表情になる。
「流石…流石異世界の記録者様!今までこれがどういう物かも分からなぬままだったと言うのに!一目見て理解されたのですね!『渡すだけでいい』と神託があった神のお言葉通りでした。クロイハル様はやはり伝説の記録係だったのですね」
「いえ、それは無いと思います」
即否定する。そんな大袈裟な。
タブレットを渡された瞬間は、あまりに酷い役目にガッカリしたが、これも誰もが出来るものではないらしい。それならまあ許せると、ハルは思い直すことにした。
ブラックの役割は伝説の記録係。
――黒幕ではなく裏で皆を支える黒子だった。
そして最後にドンちゃんが黄戦士の前に立つ。
「黄戦士様のメイズ様は、皆の生活管理者となります。こちらに調理器具と野営の必需品が全て収められています。魔法の収納袋です。どうぞお受け取りください」
黄色の戦士がありがたそうに袋を受け取った。
こうして我々六人の役割分担が発表されたのだった。
ドンちゃんが最後のシメの挨拶をする。
「ではこちらで着替えてもらってから、あちらの扉から出発してください。これからが旅の始まりとなります。皆さまどうぞこの国の為、頑張ってください。よろしくお願い致します」
そう深々とドンちゃんは頭を下げ、そして静かに部屋を出て行った。
しばらくドンちゃんが出て行った扉を皆で見つめていたが、ここで赤戦士が声をかける。
「さあ、着替えて出発するぞ。そこに着替える個室があるってよ」
その声で皆が個室で身なりを整え、再び集まった。
それぞれの衣装を着た五人は、派手な髪色のせいか、わりと派手な物なのに、違和感なく着こなしている。
イケメン達と美人の成せる技だ。
イケメンと美人。
そう。こうして顔を合わせて皆を見ると、皆それぞれがとても美しい顔立ちをしていた。
外国人俳優顔負けの四人の男と、外国人女優顔負けの一人の女。その顔面レベルは、国宝級と言っても過言ではないだろう。
そんな国宝級に美しい5人と私。
「……」
私だって可愛いと言われた事はある。
私の顔は自分でも嫌いではない。決して飛び抜けた美人、いや飛び抜けなくても美人とは言えないが、悪くはないはず。
悪くはないはずた。
そう言い聞かせて、ハルは折れそうな心をなんとか奮い立たせる。
『国宝級美貌の戦士達と私』――これだ。
討伐記録のタイトルは決まった。