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18.セージさんは良い人認定


人が動く気配に、ハルが目を覚ます。

目の前に戦士5人とセージが立っていた。

「おはよう、みんな。朝ごはんに呼びに来てくれたの?」

ハルが寝起きのぼんやりとした頭で皆に挨拶する。



「クロイハル。獣舎は寝室では無いのですよ。常識を考えなさい」

シアンの小言を聞いた瞬間、ハルはハッと意識を戻した。すぐに目をギュッと瞑り、寝たふりをする。


フレイムの怒りを含んだ低い声が響いた。

「……テメェ。目ぇ開けろや」



ヤバい。赤い奴がキレている。

『私だって私の常識があるのに!』

そう言いたいが、さすがに怖くて言えない。昨日、街で逃げ出した事もあって、更に怒っているのだろう。


ハルはそっと細目を開けて、戦士達の横に立つセージに視線を送る。じっと見つめる。



「………」

明らかに庇ってほしそうに自分を見つめてくるハルに観念して、セージは皆に声をかけた。

「さあ、クロイハルも無事見つかった事だし、朝食にしようか」


戦士達が諦めたようにため息をついて、ハルに背を向けて歩き出した。


その様子を見てホッとするハルにも、セージが声をかけた。

「クロイハルも着替えてダイニングにおいで」

「私は着替えなくても大丈夫だよ。この服は部屋の外ににも出れるパジャマだから」

「……そうか」

へへへと笑うハルに、セージはそのまま何も言わない事にした。



朝食の席はもちろんセージの横だ。

ハルは自分の席を決められる前にテーブルの端に座り、その横にセージを呼ぶ。

「セージさんの席はここだよ」

「…そうか。悪いな」


セージは自分の大きな身体の陰に隠れようとするハルの意図に気付いているが、わざわざ口に出す事もなく大人しく席につく。


昨夜はハルの言い分を、セージから戦士達に伝えたが、彼らに通じる事は無かった。戦士達はハルの子供のような主張を受け流すには若過ぎるし、ハルを心配し過ぎているのだろう。

そしてハルの方は、戦士達とはどこか距離を取っているように見えるし、彼等の心配する気持ちを素直に受け入れるようには見えなかった。


『国の英雄とされる戦士達も、クロイハルの前では形無しだな』

セージは苦笑するしかなかった。


『戦士達も討伐地では緊迫した日々を送っていただろうし、この休息地でお互い離れてみれば、少しは落ち着くだろう』

そう考えて、それぞれが自由に過ごせる時間を作ってやる事にした。






朝食後に、それぞれに買い出しに行くという戦士達がハルを誘ってくれた。


「クロイハル、私と一緒にお買い物しない?お昼もお洒落なお店で食べましょう?」

「うーん、止めとくよ」 

マゼンタの誘いを断る。桃戦士も昨日は女性達に騒がれていた。


「次の討伐他の食料の買い出しだが、一緒に好きなものを選ぶか?市場で色々食べれるぞ」

「うーん、止めとこうかな…」

美味しい食べ物に興味はあるが、黄戦士も昨日は騒がれていた。


「街には色々面白い場所がありますよ。私の国ですし、買い出しついでに案内しましょうか?」

「それは止めとくよ」

緑戦士なんかと一緒にいたら、女の子達にまた睨まれてしまう。


「後でオルトロスの訓練に出るが、散歩を兼ねて一緒に来るか?」

「行く行く!オルトロちゃんと出かけるよ!!」

セージの誘いにハルが即答する。



「……セージさん、あまりクロイハルを甘やかさないでくださいね」

冷ややかな声でシアンがセージに声をかける。


「テメェも甘えて、好き勝手してんじゃねえぞ」

フレイムの言葉に、ハルがセージの背に静かに移動して、じっとその背を睨んでやった。

今日の赤戦士はいつもより機嫌が悪い。セージを挟んで睨むくらいにしておかないと、また怒らせるだろう。




「………」

セージは背中からハルの睨む視線を感じ、前からはフレイムとシアンの鋭い視線を受けていた。

セージはやれやれという思いで息をはきだす。


『クロイハルに懐かれたいなら、まず彼女を受け入れてやれ』というセージのアドバイスは、なかなか実行出来ないらしい。

こんな状態で一緒にいても、更に関係が悪くなるだけだろうと、部屋の中の不穏な空気を断ち切るようにハルに声をかけた。


「クロイハル、用意して出発しよう。着替えておいで」

「セージさん、これは外出も出来るパジャマなんだよ」

「……そうか」


ハルの言葉を受け止めるセージに、へへへと嬉しそうに笑うハルと、ハルの言葉を注意しないセージに、冷たい視線を送る戦士達がいた。





ハル達は昨日の野原にやってきた。

セージがボールみたいな物を二個同時に投げると、オルトロスが二手に分かれてキャッチする。


「オルトロちゃん、頑張れー!!」

ベルソファーにもたれながらハルがオルトロスに声援を送る。

天気が良く、空も澄み渡っていて、風も心地よい。とても気持ちの良い日だった。


ハルは手に持っていたジュースをゴクリと飲む。

その瞬間、突然にまたタピオカドリンクの事を思い出す。


こんなにも脈絡もなく、記憶はいつも掘り起こされる。いつか今日のこの日も、元の世界で突然思い出すのだろうか。





賑やかに応援していたハルの声が止まったことに気づき、セージはハルの様子を伺った。

ハルは何かを思い出すようにぼんやりと宙を見ていた。


「………」

戦士達は、『ハルはいつも飄々としていて元の世界を恋しがる様子は見られない』と話していたが、それでも元いた場所を忘れる訳ではないだろう。

表情なく宙を見つめるその顔で、何を感じているかは分からないが、想いに浸っていてもハルの現状が変わるわけではない。


少しでも気晴らしになればと、セージはハルに声をかける。

「クロイハル、訓練も終わったし、少し街に出てみないか?

そのパジャマも素敵だが、せっかくマラカイト国に来たんだし、この国の服も着てみたらいいんじゃないかな?」


「……え。服?服はドンちゃんに一生分もらったから」

意識を目の前に戻してハルが応える。


「今は動きやすい服も流行っているみたいだし、黒い服も良いが、緑の服もハルに似合うと思うぞ」

「緑の服かあ。今まで選んだ事がなかったし、見てみようかな」

「そうか。じゃあこのまま行こうか。お昼も街で食べよう」




『街でケルベロスの背中に乗せてもらうこと禁止令』がフォレストから出ている為、オルトロスの背中に乗せてもらって街へ向かった。

もっちり手触りのオルトロソファーを喜ぶ今は、元の世界の思いへ引かれる事はなかった。


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