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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第一章 

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17.緑戦士の叔父


「そろそろ屋敷に向かおう」

そう声をかけたセージの言葉に、ハルは躊躇した。

「またみんなが小言を言ってくるかもしれないし…。もうしばらくここにいるよ。数日後に会おうって、みんなに伝えてくれる?」


『無茶な事を言い出したな…』

そう思いながら、セージがハルを説得する。

「みんなには僕からちゃんと説明するよ。小言は言わせないから安心して」

その言葉にハルはホッとしたような表情を見せる。


そんなハルを見ながらセージは思う。

『何を考えているか分からないヤツと英雄達は怒っていたが、意外と分かりやすいじゃないか』


「行こう。帰って夕食だ」

そう声をかけて出発した。




ハルはケルベロスの背に乗りながら、セージと話をする。

街でたくさんの人が戦士達を見ていたこと、緑戦士フォレストに助けてもらった時に多くの女性に絶叫されたこと、睨まれて危険を感じたこと、ケルベロスにフォレストの呼び出しに応じないように頼んだこと。

それらをセージの質問に応える形で、ハルはポツポツと話した。


「フォレストもそうだが、今回の討伐に選ばれた戦士達は国の英雄だからな。昔から周りが放っておかないんだ。だけどクロイハルも、そんな戦士達の一員だろう?クロイハルへの注目も凄く大きいものだよ」

そんなセージの言葉に、ゲエエとハルは舌を出す。


「私はただの記録係だし。英雄にはなれないし、なりたいとも思わない。国宝級美貌のヒーロー戦隊達を仲間に持つと、本当に苦労するよ。

アイツらはいつもイケメンだからって、私に小言を言ってくるんだよ。非常識だって。…小言を言い過ぎる、アイツらの非常識さの方が問題なのに」


ケルベロスの背中に目を落として睨みつけるハルに、セージが笑う。

「そうか。それは確かに嫌だよな。まあ買い出しは英雄達に任せて、クロイハルはゆっくりしていたらいい」



どうやら緑戦士の叔父は良い人のようだ。

この世界に来て、初めてハルの意見を肯定してくれた人物だ。この人の名前なら覚えてもいい。

「ありがとう、セージさん」

ハルはやっと笑顔を見せた。





屋敷に着くと、戦士達がハルの前に立った。


『勝手に隊を離れた私も確かに悪いけど、お前たちがイケメン過ぎるのが一番悪い。街の女性達に人気があり過ぎる方に責任があるはず』

そんな思いで、睨んでくる戦士達をハルは睨み返す。


「テメェは―」

「まあまあフレイム。クロイハルにも事情があるんだし、とりあえず夕食にしよう」

「いえ、ここはちゃんと―」

「まあまあシアンも落ち着いて。クロイハルも無事だったんだし」

そう話しながら使用人達に合図をして、戦士達をダイニングに移動させた。



セージは約束通り、ハルを庇ってくれた。

ハルはホッと安心した顔を見せて、一番安全な場になると確信して、セージにくっついておくことにした。

勿論夕食の席もセージの隣だ。



戦士達が逃亡の件を話そうとする度に、セージが圧を送ってくるため、戦士達は口をつぐむ事しか出来なかった。そんなセージの態度に、ここへ連れ戻すのに何らかの約束をしたんだろうと見当も付いた。

夕食後に、ハルのいない場所で話を聞くことになるだろうと、戦士達はハルに注意することを諦めた。


ただしこれだけは伝えておきたいと、フォレストはセージに視線を送ってからハルに話しかける。

「クロイハル。討伐地以外のケルベロスの貸し出しは、これから一頭までです。特に街中ではケルベロスに乗ることは禁止します」

「……わかったよ」

ハルは少し不満そうな顔を見せたが、素直に了承した。



ハルは思う。

『ケルベロちゃんは二頭没収されちゃったけど、オルトロスちゃんがいる。日中はオルトロスちゃんと合わせて三頭にして乗り越えよう」

寂しい気持ちに蓋をして、もぐもぐと口を動かした。



「わあ!これ凄く美味しいね!」

「それはマラカイト国特産の野菜だよ。これも食べて見るか?」

「ありがとう、セージさん!」


楽しげにセージと食事を取るハルを見て、他の戦士達は気づく。

『クロイハルの奴、言おうと思えば名前を言えるのか』


ハルの楽しい時間は、戦士達の微妙な時間でもあった。





戦士達とセージは以前からの知り合いだったらしい。夕食後は、久しぶりの再会を祝って男同士で飲むと聞いたため、ハルは用意された部屋に向かった。

別に仲間に入りたい訳でもない。



夜。寝る準備を整えてベルと一緒にベッドに寝転んでいると、夕方に堪能したオルトロスの手触りを思い出した。もちろんベル一頭だけでも幸せだが、みんなにも囲まれてみたい。


『あの子達だって再会を祝うと言って遊んでる訳だし、私だって初対面を祝ってみんなで遊んでもいいんじゃない?』

ハルはそう思い、ベルを連れて屋敷を出てオルトロスのいる獣舎に向かった。残り二頭のケルベロスもその獣舎に一緒にいるらしい。


獣舎の扉をそっと開けて中に入る。中は薄暗い。

獣舎の奥で、身を起こす影達が見えた。ハルはその影に向かって囁く。

「ケロ、スー、オルトロスちゃん。私だよ。ベルも連れて来たよ。みんなで遊ぼう」


ハルは自分の周りにみんなを寄せて、囲まれてみる。

それは今までにないくらい素晴らしい空間だった。


「屋敷にはケルベロちゃんのうちの一頭しか入れちゃ駄目なんだって。…あの子達はみんな集まって今頃遊んでいるくせに。国宝級美貌のイケメンだからって酷いよね。

みんなが屋敷に入れないなら、私がここで過ごそうかな。みんなあったかいね…」


全方向に温かくて、ハルはすぐに眠りに落ちた。

今日は本当に色々あったのだ。


翌朝、ハルが部屋にいない事に気付いた使用人に騒がれ、戦士達が獣舎で眠るハルの前に立つまで、ハルは熟睡し続けた。





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