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16.緑の国

緑戦士フォレストの出身国マラカイト国は、全体的に緑色の国だった。

髪色は緑系統の者が多いし、その者達が身につけている衣装も緑をどこかに効かせたものが多い。

まさに緑戦士の国だった。


街の中心地にあるというフォレストの親族の屋敷に、戦士の皆でお世話になりながら、買い出しをする事になっている。数日間の滞在予定だ。

マラカイト国に到着した初日の今日は、ひとまず滞在先となるお屋敷に向かう事になった。



「わあ、緑戦士さんの親戚の方がいっぱいだねえ」

街の中の人々を見て呟いたハルに、フォレストが問う。

「クロイハルの国では、髪色が同じだと皆親戚に当たるのですか?」

「違うよ。色が同じだけだね」

「……この国もそうですよ」


そんな残念な会話をしながら、五人の戦士とケルベロスに乗ったハルが街道を歩いていた。

街の中心地に近づくにつれ、街の人達のざわめきが大きくなる。皆が国宝級美貌の戦隊ヒーロー達に見惚れ、熱い視線を送ってくるのだ。


「熱いねえ」

「テメェはケルベロスの上で寝てただけだろうが。暑くなる要素ねえだろう」

ハルの呟きに、赤戦士のフレイムが言葉を投げつけてきた。


この赤い奴は、王子様のような爽やかな顔をして口が最悪に悪い。

周りで熱い視線を送ってくる街の人にも、赤戦士の言葉を聞かせてやりたい。皆、この男の声が聞こえないから、そんな羨望の眼差しを送る事が出来るのだ。


「赤戦士さんはもっと腹から声を出しなよ」

「ああ?ふざけるなよ」

――まだ街の人には声は届かないようだ。

熱い視線が変わることは無かった。




そこに街の女性達の声が響いた。

「キャーッ!フォレスト様!お帰りなさい!」

「シアン様!素敵です!!」

「フレイム様!こっちを向いてください!」

「キャー!メイズ様がこちらを見たわ!」

「マゼンタ様!お綺麗です!!」



突然の女性達の叫び声に驚いて、ハルはケルベロスの背から落ちそうになる。

隣で歩いていたフォレストが、落ちそうになったハルの手を引き、元の体勢に落ち着かせた。


途端。

キャー!キャーー!イヤー!!

と絶叫が響き渡る。それはもう怖いくらいだ。

女性達のハルに向ける視線も怖い。


『この場所で圧倒的人気を誇る、国宝級美貌のヒーロー戦隊達に近づくのは危険だ』

危険を察知したハルが、ケルベロスに指示を出す。


「ケルベロちゃん、逃げよう!!」

「クロイハル!」

「テメェ!待てコラ!」


戦士達の声も聞こえないふりをして、ハルはケルベロスとその場から走り去った。





街の外れの野原が広がる場所まで出て、ハルはケルベロスに止まるように指示を出した。

魔法のカバンからジュースとお菓子を取り出して、ケルベロスと半分こする。


魔法のカバンは収納自在なもので、ドンちゃんがたくさんのパジャマをこの袋に入れて送ってくれた物だ。

この中にハルの私物と非常食を入れている。



ケルベロスがハルを窺うようにクウンと鳴く。

ハルはケルベロスの背を撫でながら、優しく声をかけた。

「大丈夫だよ、ケルベロちゃん。数日分の食料はあるし、みんなの買い出しが終わるのをここで待っておこうね。緑戦士さんの呼び出しは無視しときなよ」






そうして、いつものようにケルベルソファーにもたれながらタブレットを見ていると、少し離れたところに立つ男の姿に気づく。男はこちらを窺う様子を見せていた。


ハルはソファーにもたれた背を起こし、その男を警戒する。

相手は緑の髪をした大柄な男だ。そしてその傍には二つの頭を持った獣を従えている。

――二つの頭?


ハルはケルベロスにそっと視線を送る。

ケルベロスとその獣は、どこか似ている。向こうの獣は頭が二つだ。三頭目の子は、別の場所にいるのだろうか。


飼い主仲間として、ハルは男に声をかけてみることにした。

「こんにちは。可愛いケルベロちゃんですね。もう一頭の子はお留守番ですか?」


男が近づいてきて挨拶をした。

「こんにちは。君がクロイハルだね。僕はフォレストの叔父のセージという者だ。君を迎えに来たんだよ」


――フォレスト?

不思議そうな顔でセージを見るハルに、セージが更に言葉を続ける。

「みんな心配しているよ。とりあえずみんなには先に屋敷の方に向かってもらったから、クロイハルも行こう。…ああコイツは僕の使い魔のオルトロスだ。ケルベロスと違って、二つの頭を持つ魔獣なんだよ」


その言葉で、フォレストが緑戦士の事だとハルは気づく。普段仲間内の会話を聞く時は、誰の事を話しているのか見当は付くのだが、関係のない場所で聞くと分かりにくい。

そんな事よりも。


「オルトロスちゃんはケルベロちゃんと、数が違うんだね。あの、ちょっと撫でてみてもいい?噛まないかな?」

「僕の使い魔だから大丈夫だよ。クロイハルはオルトロスを見ても怖がらないんだな。どうぞ、触っていいよ」

「ありがとう」


ハルはオルトロスの前に出て、顔をじっと眺める。

この子もなかなか迫力のある顔をしている。ケルベロスで慣れているので、それを怖いと思うことはない。

そっと手を伸ばしてオルトロスを撫でる。


瞬間、ハッと目を見開いた。

『ケルベロちゃんと違う!』

ケルベロスは、以前のハルの部屋に置いていた程よい具合のビーズクッションソファーだ。身体を包み込みながらもサラサラとした感触が気持ちいい。

対してこの子は、低反発のもっちりとした感触を持つ。このもっちり感にも包まれてみたい。


ハルは無心でオルトロスを触り出す。 

座らせて少し横に撫でながら伸ばして、そっともたれてみる。ハルは身体を動かして、丁度いい感じの姿勢を見つけ、タブレットも取り出して操作してみる。

――これもケルベロソファーに匹敵する快適さだ。



「オルトロスちゃん、最高だよ!ケルベロちゃんに負けないくらいの、素敵なオルトロソファーだよ!」


はしゃぐハルを眺めながら、フォレストの叔父セージはなるほどと納得していた。

甥っ子がクロイハルについて話していた、『自由人過ぎる人』という説明は本当だったようだ。


そしてハルがオルトロスを堪能し終えるのを待つことにした。










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