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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第一章 

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14.一応彼は王子様だが


今日は雨だ。

この森の討伐も終わりが見えてきた事もあって、今日は討伐はお休みして、各々で好きに過ごす事になった。


ハルは、リビングでケルベロスの分身を並べて、一緒に過ごす事にする。

ケルベルソファーにもたれ、タブレットを触っていると、ひとつのアプリに気がついた。


「ドンチャ…ヴィン…チェス…ラオ?…なんだろうコレ」

「ドンチャヴィンチェスラオ王子がどうしたの?」

同じくリビングにいる桃戦士マゼンタが声をかける。


「あ、ドンちゃんか。そんな感じの難しい名前だったよね。なんかさ、このタブレットにドンちゃんアプリを見つけたんだよ」


「アプリ…?何ですか、それは」

マゼンタと同じソファーに座っている青戦士のシアンが尋ねた。


「何だろう?よく分からないけど、開いてみよう」

ぐっとドンちゃんアプリを押すと、ドンチャ王子の顔が画面に映った。

「あれ?ドンちゃんじゃん。ドンちゃーん、こっちだよ」

「その呼び方は、クロイハル様ですか?」


ハルの声に戸惑った様子を見せるドンチャ王子に、ハルはこっちこっちと声をかけた。

どうやらハルの声は届くけれど、ドンチャ王子からはハルの顔は見えないらしい。


ようやく、なんとなくこちらを向いているドンチャ王子が「ここでしたか…」と小さく呟いた。


「クロイハル様、この水晶玉を通じてお話されているのですね。この水晶は、神とも通じるとされる高貴な物なのです。クロイハル様は異世界からではなく、天界から来られたのでしょうか」

「違うよ」

ハルは即否定する。



青戦士シアンが声をかける。

「クロイハル?ドンチャヴィンチェスラオ様と話されているのですか?」

「うん。このアプリ、ドンちゃんと繋がるヤツだったみたいだね。聞こえるでしょう?」

「……聞こえませんが」

「ええ?」


シアンがおかしな事を言い出した。耳は大丈夫だろうか。

「ねえ、ドンちゃん。青戦士さんの耳の調子が悪いみたい。ドンちゃんは青戦士さんの声が聞こえたでしょう?」

「……聞こえませんが」

「ええ?」



なんと。このアプリは自分にしか声が聞こえないらしい。

「クロイハル、王子に今までの成果を報告したいのでお伝えください」

「クロイハル様、討伐状況はいかがでしょうか。お聞かせ願えますか?」


ドンチャ王子と青い男が面倒くさい仕事を押し付けようとしてくる。

『これはヤバい。一度引き受けたら、ずっと引き受けなくちゃいけなくなるやるヤツだ!』

瞬時にハルは危険な状況を悟り、何とか逃げられないかタブレットを調べ出した。


『これだ!』

ハルはスピーカーマークを見つけた。即座に押す

「これでどう?ドンちゃん、何か話してみて。ここに青騎士さんがいるの」


「…シアン様、私の声が聞こえますでしょうか」

「ドンチャヴィンチェスラオ様!はい。私はシアンです。ご報告したい事がございます。――」

「そうですか。では――」


無事2人が会話を始めた。良かった。これで解決だ。

ハルはホッとして、ケルベロスの上に寝転んだ。

『焦ったから疲れたよ…』

ケルベロソファーの心地よい体温と柔らかさに、春は眠りに落ちた。



以前会った時はハルはドンチャ王子に敬語を使っていて、ギリギリの敬意を見せていた。

だけど戦士達へのタメ語使いに慣れてしまって、司令官でもあるドンチャ王子にも、当然のようにタメ語になってしまっている事にハルは気付かなかった。

そしてあまりにも自然に話すので、ドンチャ王子もシアンも、その無礼さに気付くことは無い。






「……様」「……ハル様」

遠くでドンチャ王子が自分を呼ぶ声がする。

「クロイハル、起きなさい。ドンチャヴィンチェスラオ様の前で居眠りをするなんて非常識ですよ」

青い男が小言を言ってきた。


ハルはギュッと瞼に力を込めて目を瞑る。

「……クロイハル」

青い男の声が、低く怒りを含んだものに変わったので、渋々ハルは目を開けた。


「ドンちゃんから見えてないから大丈夫だよ」

ハルの言葉に、シアンの目が鋭くなる。


「……クロイハル様、お休みのところ申し訳ありません。クロイハル様のこの能力は、国としてとても助かるものです。これからもご協力お願い出来ますでしょうか」

どうやら見えなくとも、ドンチャ王子は二人の会話でハルが寝ていた事に気が付いたようだ。


控えめな王子の頼みは、快く聞いてあげることにする。

「分かったよ。ドンちゃんからは連絡出来る?誰にでも繋げてあげるよ」


「ありがとうございます。ですが残念ながら、私の方からは連絡する術がないのです。どうか定期的にクロイハル様からご連絡いただけませんか?」

「いいよ。連絡頻度は青戦士さんと後で決めてね」

面倒くさい相談は、青戦士に丸投げした。



ドンチャ王子が控えめにハルに申し出る。

「クロイハル様の功績を讃えて、何か贈り物を差し上げたいのですが…。何か欲しい物はありませんか?何でも仰ってください」

「え?本当に?ありがとう、ドンちゃん。…欲しい物。…欲しい物。何かあった気がするけど…」

ハルはうーんと考え込む。


「あ!あった。すごく欲しい物」

「何でしょうか」

「部屋の外を歩いても、非常識にならないパジャマが欲しいな。なるべく急ぎで」

「………」


ドンチャ王子の声が聞こえなくなった。

「あれ?切れちゃったかな?ドンちゃん、ドンちゃーん。…聞こえなくなっちゃった」


「…………いえ。聞こえておりますよ。至急、王家専用デザイナーに用意させましょう。少々お待ちください」

ドンチャ王子の気のいい返事に、ハルの機嫌が良くなる。

「ドンちゃん、ありがとう!楽しみに待ってるね。じゃあ青戦士さんに代わるね。決まった日に連絡するね」



そう話すと、ハルはシアンに視線を送る。

『これでパジャマで歩いても文句は言えまい』


勝ち誇ったようなハルの表情に、シアンは静かにため息をついた。






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