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13.あの鳥は侮れない


「うわ、このお肉凄く美味しい!こんな美味しいお肉、初めてだよ。黄騎士さんは本当に料理が上手いよね」

ハルが夕食の肉料理に歓声をあげる。


「口にあったようで良かったよ」

そんなハルの絶賛にメイズは笑顔を見せた。


メイズは今まで、討伐隊の料理人として色々な隊に呼ばれて来たが、ハルほど素直な反応を見たことが無かった。

討伐という過酷な環境の中で、疲れ切った者達の体調管理という役割を持っていたので、褒められる事を期待したことはないが、ハルの言葉はメイズにとって新鮮で、嬉しく思ってしまう。

だから『記録能力を上げるために』というふざけた名目で、オヤツをねだるハルのリクエストを、メイズはついつい聞いてしまっているのだ。



今日は、以前ハルが怖がったナキドリを捕まえて夕食に出したのだ。

あの啜り泣きのように鳴く鳥が、この美味しい肉だと分かれば、怖がることはもう無いだろうという、メイズなりの配慮であった。


「それはナキドリの肉だ。見た目が可愛いいから、捕まえても逃してしまう者も多いが、この肉は絶品だろう?」

「うん!これ本当に美味しい!あんな怖い声で鳴く鳥がこんなに美味しいなんて…!もう夜中に聞いてもお腹が空くだけで大丈夫になったよ」

嬉しそうに話しながら食べるハルに、メイズは笑みを深めた。



ハルは食べながらふと気づく。

「逃してしまうくらい可愛い鳥?ナキドリってどんな鳥なんだろう?…後でタブレットで調べて見ようかな」

最後はひとりごとのように呟くと、メイズが言った。


「まだ調理していないナキドリがいるから、見てみるか?」

「え!本当に?見る見る!」


ハルの希望を受けて、メイズはナキドリを入れた鳥籠をハルの前に持ってきて見せた。

「え…この子がナキドリなの?え。何この子、めちゃくちゃ可愛い!!」

ハルの顔が輝く。


鳥籠の網の隙間に指を差し入れて触ってみる。

「うわあ。この子フワフワだ。小さいボールみたいにまん丸で可愛いねえ。ポケットに入れておきたいくらいの可愛さだよ。そう。この子がこのおいしいお肉なんだ。お肉……」


ハルは衝撃の事実に気付いた。

もしかしなくても、今目の前にある美味しいお肉は、この可愛い子だ。私はこんな可愛い生き物を、美味しく食べているのだ。


その事実に気付いた瞬間、ハルが泣き出す。うわあああと、それはもう激しく号泣する。

「うっ…うっ…こんな可愛い子を食べちゃったよ。うっ…うっ…ごめんね、ナキドリちゃん。お友達を食べちゃったよ。うっ…もしかしてお母さんだった?うっ…うっ…」


戦士達の皆が食べにくくなる事を言い出した。

メイズは、ハルにナキドリを見せた事が失敗だった事に気づくが、今更だ。

とりあえず鳥籠をハルの手から取り、ハルの目に入らない元の場所に戻しておく。

 

他の皆は、泣き続けるハルの前で食事を続ける事が気まずくなり、食事の手を止めた。

そんな中、ハルが再びナイフとフォークを握り、泣きながら食べ始める。

「ナキドリちゃん、ちゃんと美味しく食べるからね。だから安心してね。…美味しい。すごく美味しいよ、ナキドリちゃん、ありがとう」



ハルは泣きながらもぐもぐと口を動かし、感謝しつつ美味しそうに食べている。

「………」

微妙な気持ちになりながら、皆も食事を再会し出す。

カチャカチャという音と、ハルのしゃっくりが響く夕食となった。

結局ハルはナキドリ料理を綺麗に完食していた。



食後のお茶を飲みながら、メイズがハルに話しかける。

「ナキドリ料理は悪かったな。これからは控えるよ。さっきの鳥も後で放そう」

「あの子は私が飼おうかな、すごく可愛かったし。それにナキドリ料理はすごく美味しかったから、また食べたいな。

さっきは動揺して泣いちゃったけど、もう大丈夫。お肉はお肉、ナキドリはナキドリだし。感謝して残さず食べる事が大事だよね」



ハルの主張はよく分からなかったが、料理人としては安心できる言葉だ。絶品とされるナキドリの肉は、栄養も豊富だ。『可愛いから食べない』という選択肢は、皆の体調を管理する者としては受け入れられない。


クロイハルという者は、目の前の物事にどんな反応をするのか予想もつかない者ではあるが、メイズに取っては好ましい反応をする者だった。

「そうか。それなら良かった」

そう言ってメイズはハルに笑いかけた。







夜中。

ハルは啜り泣く声に目を覚ました。

部屋に置いた鳥籠にいる、ナキドリの鳴き声だ。


『怖い!』

ハルは近くにいるベルにしがみつくが、まだ安心する事が出来なかった。

以前聞こえてきた啜り泣きより、聞こえる泣き声が大きいのだ。耳を塞いでも聞こえてくる。

部屋の中で鳴く鳥が、近すぎる。


「ベル、逃げよう。ケロとスーの所に行こう」

そうベルに囁くと、ベルを連れて部屋を飛び出し、ログハウス隣の獣舎に入り込む。ケロとスーの間に入り、ベルを前で抱きしめる。

震えながらケルベロスの分身に囲まれていると、温かさに安心して眠りに落ちた。






翌朝ハルが目を覚ますと、目の前に戦隊達が立ち並んでハルを見ていた。

「おはよう、みんな。ケルベロちゃんに会いにきたの?」

ハルが寝ぼけた声で皆に挨拶をする。



「……クロイハル、パジャマで外に出るのは非常識だと教えたでしょう?」

青戦士シアンの低い声で告げる言葉に、ハルはギュッと目を瞑る。


青い男は朝イチから小言を言ってきやがった。

『二度と目を覚ましてやるもんか!』

そんな決意で眉間にシワを寄せながら、ハルは寝たふりをする。


固く目を瞑ったまま動かないハルに、赤戦士の更に低い声が響く。

「テメェ…どういう事か説明しろ。夜中に外に出るのは危険だとついこの前言ったよな」



確かに『夜中に外に出ない』という約束も、『パジャマで部屋の外に出ない』という約束も破ってしまった。

自分の落ち度を自覚しているので、渋々ながらハルは口を開いた。


「昨日は本当に緊急事態だったの。あのまま部屋にいたら大変な事になっていて、逃げるしかなかったんだよ…」

「ケルベロスの分身が側に付いてて、どんな緊急事態があるってんだよ」


ハルは赤戦士と目を合わせ、真剣な顔で話す。

「知ってる?部屋の中でナキドリが鳴くと、耳を塞いでいても啜り泣きが聞こえちゃうんだよ。

どれだけナキドリが可愛くても部屋が暗くて見えないから、本当に怖い思いをさせられるの。あのまま部屋にいたら、震えて朝を待つ事しか出来なかったんだよ?

そういう時は逃げるしかないでしょう?」


『当然の選択だった』というような顔をするハルに、低い声でフレイムが言い放つ。

「……テメェにナキドリを飼う資格はねえ。没収だ」


「わかったよ」

これから獣舎に泊まる事になるだろうと覚悟していたハルは、フレイムの言葉にホッとしながら素直に頷いた。



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