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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第一章 

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01. 社員食堂は異世界への扉


「黒井さん、今から一時間休憩ね。四階に社員食堂があるから、そこで休んだらいいわ。はい、これサービスよ」


そう言ってお店のオーナーは、商品のタピオカドリンクを渡してくれた。


「ありがとうございます。休憩入ります」


波留はタピオカドリンクを受け取り、四階に向かった。



今日から一週間、波留はこの大型ショッピングモールで催事出店しているタピオカドリンク店に、短期バイトとして入っている。


タピオカドリンクにかつての熱狂的なブームは見られないが、それでも行列が出来るほどには人気がある。

デパートの開店と同時に目が回るような忙しさを迎え、そのピークを越えた頃に一時間の休憩がもらえる。

休憩時にサービスのドリンクが付くという、そのバイト条件に惹かれての応募でもあった。


初日の今日は、ほうじ茶タピオカドリンクだ。

波留が一番好きとオーナーに話していたからだろう。




エレベーターで四階に上がり、「社員食堂」とプレートが貼られた扉を開ける。


そこはデパートの社員食堂にしては小さな部屋だった。だが、部屋全体には妙に高級感がある。


中に入ると先客が五人いた。

みんな派手な色に髪を染めている人たちだ。

赤、青、黄、緑、桃、の五色の髪色。

そのカラーは子供の頃に見たことのある、戦隊シリーズを思い出させた。


ショッピングモールの特別ステージでは、毎日何かのショーをしているらしい。今日のショーは戦隊モノで、その出演者なのかもしれない。


(戦隊モノの番組を見たのは小さい時だったけど、髪の色までカラーを主張してたっけ?)


じっと彼らを見ていると、赤色の髪の男と目が合った。

その瞳まで赤い。

カラーコンタクトを入れているようだ。赤が徹底されている。


男は無言のまま、鋭い目で波留を睨んだ。

ジロジロ見過ぎたようだ。

波留はスッと目を逸らす。


(でも見られるための赤なのに、睨まなくてもいいじゃん。主役のレッドなのに)


少し不満に思いながら、波留は一番端の椅子に座った。


その椅子は社員食堂には似つかわしくないほど上質で、驚くほど座り心地がいい。

スタッフへの配慮が半端ないショッピングモールだ。


(この短期バイトが終わったら、このモールのどこかのお店の仕事を探してみようかな)


そう思わせるくらい、寛げる椅子だった。


波留は目の前のテーブルに、カバンから出したお煎餅を置く。

これは隣のブースのお煎餅屋さんが、割れて売り物にならない商品をお裾分けしてくれた物だ。優しそうなおじいちゃんだった。


(さあ、今からタピオカドリンク×醬油せんべいのコラボレーションの始まりだ)


そんな風に考えながらストローに口をつけたとき、また新たなスタッフが部屋に入って来るのが見えた。


今度はとても豪奢な衣装を着た人だ。その姿はまるで、中世の貴族を思わせる。


(すごい人が来たな……)


そのまま眺めていると、貴族風の男が赤い髪の男と話し始めた。

どうやら戦隊ショーの出演スタッフ仲間のようだ。


戦隊レンジャー×貴族風の男。


(今の流行りは斬新だな〜。現代の子供は、こういう奇抜さを求めてるのか。もう昔とは違うんだな……)


波留は、人生の過ぎた時間を感じさせられた。


まあそれよりもひとまず休憩だ。

ジュースを飲みながら、現代戦隊シリーズでも調べてみようと携帯を取り出す。



ズズズズ…

携帯を見ながら飲んでいるジュースのタピオカが、ストローに詰まる。

意外と響いたその音に、皆の視線が自分に集まった。

皆が波留を見る目は、全員、髪色と同じカラーの瞳だ。

――プロ意識の高いスタッフたちだ。

五色のカラコンで波留を見つめてくる。


波留は皆にペコリと軽くお辞儀をしておく。

そしてまた携帯に目を落とした。




貴族風の男の、打ち合わせの声が大きくて気になる。

聞くつもりは無かったが、興味深いワードに釣られてつい聞き耳を立ててしまう。


「――と、そういう訳で、皆さんにはこれから魔物討伐へ向かってもらいます。

これが皆さんの衣装とマント、そして武器です。

あちらに更衣室があるので、この部屋を出る時に着替えてください。では衣装を配りますね」


貴族風の男がそう話しているのを聞きながらお煎餅を齧る。


バリッ!バリッ!ボリボリボリ


意外と響くお煎餅の音に、皆の視線がまた波留に向く。『スミマセン』そう言っておこうと、口の中のお煎餅を喉に流し込むために、タピオカドリンクを飲んだ。


ズズズズズ…

その音に戦隊スタッフたちの自分を見る目が、信じられないものを見るような目に変わった。


(なんて神経質な人たちなの…お煎餅とタピオカドリンクは、こういうものなのに。それにここは戦隊スタッフの貸切の休憩室なんかじゃない。お煎餅くらいがなんだって言うのよ)


そんな思いになり、謝るのは止めて『信じられないくらい神経質な奴らめ』という信じられないものを見る目返しをしてやった。



コホンと貴族風の男が咳払いをする。


「では、衣装を配りますね」


そう言って、各々の前に衣装を置いていく。


赤髪の男には赤を効かせた衣装に、赤マント。

青髪の男には青を効かせた衣装に、青マント。

緑髪の男には緑を効かせた衣装に、緑マント。

黄髪の男には黄を効かせた衣装に、黄色マント。 

桃髪の女には桃色を効かせた衣装に、桃色マント。


そう。女の子は1人いる。可愛い系というより、美人系の人だ。


配られていく衣装は、遠目で見てもなかなか上質そうだった。予算をかけている感がある。

良いスポンサーが付いているのだろう。


そんな風に感心して見ていると、貴族風の男が波留の前に立つ。そして黒を効かせた衣装と黒いマントを目の前に置いた。


「………」



波留も戦隊ショースタッフに間違えられたようだ。

確かに波留は黒髪で、瞳も黒い。 

ついでに言うと、タピオカ店で貸し出された制服は白いシャツに黒のロングカフェエプロンに、黒のキャスケットだ。

このまま黒いマントを羽織れば、黒レンジャーになっても違和感はない。

――だが波留は黒レンジャーではない。タピオカドリンク店の短期スタッフだ。


「すみません、私はレンジャースタッフではないですよ。これはタピオカドリンク店の制服なんです」


そう貴族風の男に声をかける。


「レンジャー?タピオカドリンク?……それは黒戦士様の国のお言葉ですか?」


「黒戦士?……よく分からないけどそういう事です」


「そうですか。ではこちらの衣装にお着替えください」


――全然話が噛み合わない。


「あの―」


再び声をかけようとした時、貴族風の男が皆へ向き直った。


「では、説明を続けます。黒戦士以外の皆様は、それぞれの国から選ばれた者ではありますが、お互い知っていらっしゃるようですね。

こちらの黒戦士様は、国というより世界を越えてお越しになられた方です。お名前は――」


そこで男の口が止まった。

波留の名前を聞いていなかった事に気づいたらしい。


「大変失礼致しました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


そう聞かれて答える。


「あ、私は黒井波留です」


「クロイハル様ですね。皆様、世界を越えて来られた黒戦士のクロイハル様も、この国のため魔物討伐隊に参加して下さいます」


「……え?」


名前を名乗る前にも何気に聞き流してしまったが。

黒戦士って私の事?

……いや、それは無い。

世界を越えて来た?

……世界?


ハルは勢いよく立ち上がり、自分が入ってきたはずの社員食堂の扉へ向かった。


だが、そこに扉は無かった。

あるのは壁だけだ。

そういえば貴族風の男は、ハルが入ってきた扉とは反対の壁の方向から入ってきた。


「え?あの、私もレンジャー隊員なんですか?」


ハルは震える声で尋ねる。

すると貴族風の男は、不思議そうに首を傾げた。


「レンジャータイイン?……その言葉はこちらにはありませんが、確かにクロイハル様は黒戦士様で間違いございません」



どうやらハルは黒レンジャーになってしまったらしい。


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