最後の笑顔
目が覚めると木目の揃った天井が見えた。
携帯を見る、眩しく光る画面から13:20の表示が見えた。体を起こそうとするが力が入らない。
そうだ、もう、桔乃はいないんだ。
元々この世界にはいない存在の人なのになんでここまでショックを受けているのか正直、自分も分からないままだ。でも少し気を緩めると涙が出そうになって、胸が痛くなる。そこまでぼくは彼女を大切に思っていたんだ。
無理やり体を起こして階段を降りる。リビングには置き手紙が置いてある。
「ごはんはここにおいてあるの食べてね」
母さんの字だ。買い物に行ったのかなーとぼんやり思った。
やけに部屋が寂しくてテレビをつける。
テレビの後ろのホコリが舞っている。
部屋の電気をつける。なんとなく暗く感じる。
キッチンから水の垂れる音がする。
いつもは気づかないようなことに今日はやたらと気づく感じがある。土曜日のお昼ということもあり、まだ平日の昼よりはマシな番組がやっている。
面白い番組のはずなのに僕にはモノクロのように見えてしまう。それからはとにかく、だらだらテレビを観て、母さんたちが帰ってきても、おかえりなんて言わず、ただ廃人のように居座っていた。
夕食を済ませ、部屋に戻ろうとすると、母さんが声をかけてくれた。
「もしなにか困ってることがあるなら言いなさいね」
ほんとに僕は優しく、あたたかい家庭に生まれたのだと実感した。
「ありがと」
それだけ言って部屋へ戻った。でもこれはいくら家族といってもどうすることの出来ない問題で、僕にもどうすることも出来ないのだと無力感を覚えた。
布団に入ってから考える。
僕はこの先どうすればいいのだろう。考えているうちに疲れが一気に押し寄せてきて目を瞑ってしまう。まぶたの裏に桔乃の笑顔が映った。まるで映画のクライマックスのような鮮やかさで。
ネットにこのような記述があった。
「もし異世界で現実にも影響するような問題が発生した場合、異世界での記憶は失うとされています」
まぶたの裏に桔乃が映った。それを最後に僕の脳から、桔乃という存在は真っ暗な暗闇に姿を消した。