1 遮断
「…………」
無言でスマートホンを操作する。
ネットワークを通じて、対象との切断を選択。
これで対象と接触しない方法を選べるようになる。
ソリの会わない人間。
嫌いな人間。
できれば会いたくない人間。
そういう者は誰にもいる。
そんな人間と顔をあわせないようにする。
可能な限り接点を無くす。
それが可能な世の中になっていた。
ネットワーク社会がこれを可能とした。
AIが気に入らない相手との接触を避けられるように案内。
さらに発展して、人は外に出歩かないようにもなった。
在宅勤務が更に進んだ結果、これも可能となった。
人はソリのあう人間とだけ出会う事ができるようになった。
生まれたのは快適な世界。
気の合わない人間と出会う事がないのだ。
無用なストレスが消える。
暴力的・乱暴な人間ならなおの事。
暴言・悪口を言う者も次々に遮断されていく。
これにより、人々は無用な騒動を避けて生きていけるようになった。
これが世の中に広まっていった。
会社もこれらをもとに、採用する人間を決めていった。
入社希望者から接触拒否してる者達の情報を提供してもらい、あまりにも拒絶の多い者を排除していった。
これが不可能でも、在宅勤務が当たり前になっている。
嫌な奴がいるなら、出社しないで仕事をする。
おかげで企業の効率はそれまでより上がった。
学校でもこの流れが押し寄せた。
拒絶したい人間のいる所に誰も通わなくなった。
在宅学習で充分事足りるのだ。
無理して学校に通う必要がない。
多くの者に排除されてる人間のいる学校は廃れていった。
それ以外の日常でも同じだ。
隣近所でも、嫌いな相手が出歩く時は外出を控える。
趣味の活動でも気に入らない者がいる所には所属しない。
誰もが無駄な騒動を避けるようになった。
これだけに止まらない。
事前にそりの合わない人間をAIが伝えていくようになる。
それまでの言動や行動などから、そりの合わない人間を予測。
出会う前に伝えるようになっていった。
この予測がほぼ完璧なので、人は通知される者達を出会う前に拒絶するようになる。
人々は気の合う者だけと顔を合わせるようになった。
それで世の中は上手く回るようになった。
様々な活動を滞らせるのは、人間関係の争いだ。
それが無くなるのだ。
効率が良くなるのも当然。
特別良いことが起こるわけではない。
だが、騒動で滞る事がない。
それと知らないうちに、人々は平穏と安全がもたらす恩恵を受けていった。
もっとも、どんな良いことにもケチを付ける者は出て来る。
むしろ、良いこと・良い状態を破壊し、最悪の状況に陥れるのを好む者がいる。
そういった者達は手にした平穏を毛嫌いし、破壊しようとする。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を