昔むかしのお話
昔むかしのお話です。
天照大御神が世界を統治し、明るい世界が訪れたとき、どこからか紅と白の光が現れました。
紅い光は狐の形へ、白い光は猫の形へと変わっていき、天照の膝下へと飛んでいきました。
紅狐と白猫はどちらも天照になつき、天照もその2匹をとても大切にしておりました。
けれどそんなある日、天照は岩戸を閉め、閉じこもってしまいました。
そう、天岩戸伝説です。
紅狐と白猫は戸が閉まる前になんとか天照の元へと向かおうとしました。
紅狐の足は早く、戸が閉まる直前で何とか飛び込みました。
けれど白猫は紅狐より足が遅く、目の前で戸が閉まってしまいました。
天照が閉じこもったことにより世界は暗闇に包まれ、魑魅魍魎が増えていき、清らかな魂を持つ者ほどその魂を穢されてしまいました。
白猫もその例外ではありません。
それどころか、快晴の青空よりも澄んだ魂だった白猫は簡単に穢されてしまい、白かった毛並みを漆黒へと変えて黒猫となり、その力は魑魅魍魎を従えて陸を破壊しながら百鬼夜行の先頭で歩くほどでした。
その進行を抑えようと様々な神が立ち向かいましたが、皆穢されて百鬼夜行の中へと入っていきました。
困った八百万の神々はあの手この手で天照を岩戸から出そうとしました。
興味が出た天照が岩戸を少し開け、覗くと神々の声が止まり、目の前には魂を穢された黒猫が青年の姿へと変え、こちらを睨むように見ていました。
黒猫だった青年は「何故、何故その狐だけを……」と呪詛を吐き続け、少しだけ開いていた戸を勢い良く開け放ち、持っていた剣を天照へと向けた瞬間、天照の輝きをその身に蓄積していた紅狐が娘の姿へと変わり、近くに落ちていた枝を剣へと変えて黒猫の剣を弾き返しました。
外の様子が不安になった天照が外に出ると途端に周囲が明るくなり、穢されていた神々は元に戻り、弱い妖は浄化されて行きます。
天照は紅狐と黒猫を勾玉の形に変化させ、
真面目すぎる紅狐が適度に休むように
穢に染まった黒猫が平和な心を取り戻せるように
という想いで勾玉の一部をくり抜き、入れ替えて皆が知る勾玉の形にしました。
そして紅い勾玉を鬼門の方角、北東へ
黒い勾玉を裏鬼門の方角、南西へと置きました。
その紅い狐を祀るのが紅狐寺
黒い猫を祀るのが黒猫寺
その間で紅狐寺と黒猫寺の秩序を守るのが八方神社と言います。
昔むかしのお話でした。