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矢口の小さな物語置き場【なろう版】  作者: 矢口愛留
隣の国から山をぶち抜いて現れた少女に気に入られて迷宮探索をすることになりました〜魔物よりその子の方が怖いのでとりあえずついていきます〜【にじそらスピンオフ】
5/11

4 怒らせちゃ、ダメ、ぜったい



「落とし穴から出られて良かったね、おじさん」


「トマスだ。おじさんではない」


 三人がかりで何とかトマスを引っ張り上げ、僕たちは岩壁に空いた大穴から、迷宮ダンジョンの中へと足を踏み入れていた。

 トマスはずっと不機嫌だ。


 一方、アリサはすっかりご機嫌である。

 何故なら、僕が彼女を褒めて褒めて褒めちぎったから。


 彼女に逆らってはいけないという防衛本能。

 貴族としてつちかってきた社交スキル。

 更には、持って生まれた優しい風貌から繰り出される渾身の笑顔。


 余すところなく、十全に発揮した。

 僕、グッジョブである。


 結果、アリサ曰く「ビリっときた」らしく、ずっと隣についてくるようになってしまったのだが。


「ねぇねえデイビッド、本当に迷宮ダンジョンを閉じるの、手伝ってくれるの?」


「ああ、もちろんだよ、アリサ」


「わぁ! 嬉しい!」


 アリサはそう言うと、僕の腕にしがみついてきた。

 僕はかなり驚いたが、引き剥がすのが怖かったのでそのままにした。

 内心、冷や汗だらだらである。


「おい、金髪女。馴れ馴れしく坊ちゃんに触れるな」


「うるさいよ、おじさん」


「まあまあ、いいじゃないかトマス。アリサも仲間とはぐれてしまって不安なんだろう」


「いやそんなタマじゃないだろうに」


「――ビリッとしていい? おじさん」


 アリサの声が低くなり、僕の腕を離した。

 ――マズい。


「俺はいくら脅されてもそんな不可思議な現象信じな――むぐっ!?」


「ほ、ほらほらトマス! もう迷宮ダンジョンの中なんだから静かにね!」


「むぐっ!? むぐむぐ……!」


 僕は、トマスの口を慌てて手で押さえた。

 トマスはさっきアリサの魔法を見なかったから、平気でそんなことが言えるのだろう。

 だが、僕の心の平穏のためにも、せめて彼女たちが国に帰るまでは悪態つくのを我慢してほしい。


「――トマス。アリサは怒らせちゃだめだ。まじで、だめ、ぜったい」


「ぷはぁっ! わ、分かりましたよ。坊ちゃんがそう仰るなら」


 僕はトマスの耳元で忠告を口にしてから、手を離す。どうやら納得してくれたようである。


「あ、あの、デイビッド様、トマス様、巻き込んでしまってごめんなさい。それに、アリサが無理強いを――」


「いやいや、いいんだ、ソフィアさん。この迷宮ダンジョンを放置しておいたら、僕たちの国にも被害が及ぶかもしれないからね。どっちみちこの領地を治める者の息子として、見過ごせないよ」


 実際、迷宮ダンジョンの外にまで毒茸トードストゥールが広がっているし、さっきの魔物化した鹿だって、森によくいる種類だった。

 僕たちが迷宮探索のお供をしているのは、アリサが「もうちょっと一緒にいてほしい!」と駄々をねたからではないのである。決して。


「デイビッド、何話してるの? あたしとも、もっと話そうよ!」


「あ、ああ、もちろんだよ」


 僕は慌てて笑顔を貼り付ける。

 ――アリサには逆らえない。



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