3 まるで青天の霹靂のごとく
「あの、アリサ、そろそろ戻らないと……迷宮内ではぐれてしまったオリヴァー様たちも心配ですし」
ソフィアがおずおずと申し出ると、アリサはあっと小さく声を上げた。
「そうだった! ごめんね、お兄さんたち。私たち、もう行くね!」
「え? お、おい! ちょっと待て、俺をこのままにして行くつもりか!?」
トマスが喚いている。確かに、この深い落とし穴から脱出させるのは、僕一人ではちょっと辛い。
ソフィアは頭を下げ、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
「あ、あの、ごめんなさい、実は――」
「!? ソフィアさん危ない! 後ろ!」
「へ?」
その時、ソフィアの後ろから、興奮した鹿――いや、鹿の姿をした《《何か》》が、猛スピードで突進してきたのだった。
だが、ソフィアの反応はあまりに遅い。
間に合わない――そう思った刹那。
「雷精!」
バチィッ! バリバリバリッ!
アリサが鋭く一言発すると、その手から雷が迸り、鹿へと命中する。
魔物に成り果てた鹿は、一瞬ぶるりと震えたかと思うと、そのまま動かなくなった。
「……あ、アリサ、助かりましたぁ。ありがとう」
「ふぅ、間に合って良かったー。あたしの反射神経も大したもんね」
「あ、ああああの!?」
「なんですか、お兄さん」
「な、ななななんだったの!? 今の、なんだったの!?」
「んー、鹿が魔物化しちゃったみたい。こりゃ、早く迷宮閉じないとだなぁ」
「そ、そうじゃなくて、いや、それもびっくりなんだけど、バチって! バリバリって!?」
「あぁ、そっち? さっきのがあたしの魔法。あたしは雷の精霊トールに加護をもらってるの」
「ほえぇ……」
この子には逆らわないでおこう。僕は心底そう思った。
ちらりとトマスの方を見ると、トマスの位置からはちょうど見えなかったようで、ちょこちょこと背伸びをしていた。
だが、結局どう足掻いても見えなくて、諦めたようだ。
イケおじが台無しである。
「ちなみにソフィアはもっと色んな種類の魔法を使えるんだよ。その代わり発動が遅いのと、一度使うとしばらくチャージタイムが必要になるのよね」
「じゃ、じゃあトマスの埋まってる落とし穴、もしかして……?」
「はい、先程は地の精霊に力を借りました。だから、その……しばらく地の精霊の力は借りられないので、私の魔法では出してあげられないんです……」
「……はぁぁ!? 何だとぉぉぉお!?」
トマスの絶叫が、青空に響き渡ったのだった。