表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
矢口の小さな物語置き場【なろう版】  作者: 矢口愛留
ミーはノラ妖精、名前はまだにゃい【にじそらスピンオフ】
11/11

ミーはノラ妖精、名前はまだにゃい

ミーは黒猫の妖精。

野良妖精だから、名前はないのにゃ。

初めて来た大きな街をお散歩していると、いつの間にか変な場所に来ちゃったのにゃ。

そこには口の悪いフェンリルがいて……。



★当作品は、長編ハイファンタジー作品

「色のない虹は透明な空を彩る〜空から降ってきた少年は、まだ『好き』を知らない〜」のスピンオフ作品です。

時系列は本編の十九年前、もう一つのスピンオフ「隣の山〜」の一年後です。


*人語を「」、妖精語を『』で表記しております。



 皆さん、はじめまして。

 ミーは、黒猫の妖精ですにゃ。

 生まれたばかりってワケでもないけど、名前はまだないんですにゃ。


 ミーには親妖精がいないにゃ。

 闇の精霊様っていう親精霊はいるけど、闇の精霊様は自分も名前を持ってないから、ミーも名前を持ってないんだにゃー。


 それでも、ミーは不便したこと、なかったにゃ。

 一匹おおか……じゃにゃい、一匹猫だから、友達なんていないしにゃ。



 ある日、ミーは人間の街に出かけたんだにゃ。

 大きい街だにゃー。

 街の中央には世界樹ユグドラシルがそびえ立っていて、街全体を覆って悪しきものから守っているのにゃ。


 そんな街だから、妖精たちもいっぱいいるにゃ。

 魚の骨みたいな妖精が空を泳いでるのを見た時にはびっくりして、思わずそいつを投げ飛ばしたら生垣に頭から刺さっちゃったにゃー!

 今でも骨の妖精はそこが気に入ってて、生垣に刺さりっぱなしらしいにゃ。

 うんうん、気に入ったなら良かったにゃ。



 その後も気ままに散歩してたら、綺麗なお庭で、白くて大きいモフモフに出会ったんだにゃ。

 そいつはフェンリルっていう妖精で、真っ白い毛は目を隠すほど長いにゃー。

 妖精の言葉しか喋れないミーとは違って、人間の言葉も喋れる、賢い妖精なんだにゃ。


『おい、そこの野良妖精、ここは俺の縄張りだ。勝手に入るんじゃねえ』


『なんにゃ、縄張りって。ミーはこの街に来たばっかりだから知らないにゃー』


『ああん? ナマいってんじゃねえ』


 フェンリルは賢いけど、口はすこぶる悪かったにゃ。


 ミーがフェンリルとばちばち火花を飛ばし合ってると、飼い主らしき女の人が歩いてきたにゃ。

 フリフリしたたっぷりの生地を使った服、確かドレスっていうにゃ。重そうだし、歩くの大変そうにゃ。

 けど、女の人の銀髪銀眼によく映える、青いドレスはとっても綺麗にゃー。


『こらこら、フェン。意地悪言わないの』


『ああん? ハル、この猫野郎、俺の縄張りに――』


『いいから、黙らっしゃい。ほら、おすわり』


『クゥーン』


 フェンリルのフェン、飼い主には逆らえないみたいだにゃ。

 こうなるとただの大きい犬。ちょっと情けないにゃ。


『ねえ、野良妖精ちゃん。どうやってお城の中まで入ってきたの?』


『にゃ? お城?』


『ええ、ここはお城にある中庭のひとつよ。私の住む場所、外から隔離されてるから、入ってこれないはずだけど』


『そうなのにゃ? ミーは普通に塀の上を登って入ってきたにゃよ?』


『まあ! あんな高い塀、越えられたの? 流石猫ちゃんね』


 女の人はうんうん、と頷く。

 するとフェンが、すうっと目を細めた気がしたにゃー。目、隠れてて見えないけど。


『なあ、ハル、こいつ追い出してもいいか?』


『あら、ダメよ。せっかくお友達が増えそうなのに。……ねえ、猫ちゃん、お名前は何ていうの?』


『名前はないにゃー。ところで……人間のお姉さん、どうしてミーの言葉がわかるにゃー?』


『あらあら、人間のお姉さんだなんて。私の名前はハルモニア。ハルって呼んでね』


 ハルは、にこっと笑う。

 ミーも女の子だけど、ハルの笑顔はミーに負けないぐらい、とっても魅力的だにゃー。


『じゃあ、ハル、どうして妖精の言葉がわかるのにゃ?』


『うーん、私、ちょっと特別な子なの。私ね、妖精さんたちと話せる代わりに、人の言葉がわからないの』


『えっ? ハルって人間じゃないのかにゃ?』


『今は人間かなあ。本当は妖精になりたいけど』


『か、変わった子だにゃ?』


『ねえ、野良妖精さん。私とお友達になってくれないかしら? あ、そうだ。私がお名前、あげてもいい?』


『にゃん。可愛いの、頼むにゃ』


『やった! じゃあ、お外から来た野良妖精、黒猫の……ノラちゃんね!』


『……あ、安直』


『……おい。言うな。俺だってフェンリルだからフェンって――』


 ミーがぼそりとつぶやくと、すかさずフェンがこぼしたにゃ。


『だ・ま・ら・っ・し・ゃ・い』


『クゥーン』


 やっぱりフェンはハルに逆らえないのにゃー。


『ノラちゃん、いいわよね? 可愛い名前よねっ?』


『は、はいにゃ』


 こうして、ミーはノラっていう名前をもらったのにゃ。





 それから数日が経った、ある日。

 ミーは、今もお城にいるにゃ。

 ハルはふかふかの寝床も、新鮮なミルクも、美味しいご飯も用意してくれるにゃ。

 フェンは最初、ミーがここに住むのが気に入らないみたいだったけど、ミーはここが気に入ったのにゃ。

 それに出て行こうとするとハルは寂しそうな目を向けるから、フェンも諦め——


『おい、ノラ。お前、いつまでここに居座る気だ』


『ミーが飽きるまでにゃー』


 諦めてなかったにゃ。


 今は、ハルはどこかに出かけているにゃ。

 鎧を着た人間の男が、部屋の鍵を開けて、どこかに連れてってしまったのにゃ。


『ところで、ハルはどこへ行ったんだにゃ?』


神事しんじだろ。ハルは巫女みこだから、時々こうやって外に連れて行かれるんだ。神事の時以外はこの部屋にこもりっきり。ずーっと閉じ込められてこき使われてて、可哀想だ』


『ここから出ようと思わないのかにゃ?』


『ハルは自分に言い訳して、誤魔化し続けてるんだよ。どうせここからは出られない、逆らったって酷い目に遭うだけだ、それより自分の力をみんなのために役立てるべきなんだって、自分に言い聞かして。けど、本当は静かな森で妖精みたいな暮らしをしたいんだって、言ってたな』


『ふーん……』


 フェンは、本気でハルの心配をしてるみたいだにゃ。

 けど、そう思うならどうして何もしないにゃ?


『フェン、フェンはどうしたいにゃ?』


『ん? 俺か? 俺はハルのそばにいられれば、それでいいんだよ』


『それだけかにゃ?』


『それだけだよ。それで充分だ』


『……腰抜けにゃ』


『……あん?』


『だって、本当にハルのことを思うなら、ハルのためになにかしてあげたいと思うんじゃないかにゃ?』


『何かって、何だよ。ノラ、お前はここがどこなのか知ってるのか? 城の中だぞ。ハルは幽閉されてるんだぞ。簡単には逃げられないし、逃げたって、城の奴らは一生追いかけてくるんだ。ハルのいう安寧あんねいなんて、どうやったって望めないんだよ』


『でも!』


『でも、じゃねえ! 俺だって悔しいんだよ』


 そう言って、フェンは寝床に戻り、丸まってしまったにゃ。


 しばらくして戻ってきたハルは、少しやつれて、元気がないようだったにゃ。

 フェンは、ミーとの言い争いなんてなかったみたいに、尻尾を振ってハルを迎える――本当に犬みたいだにゃ。

 けど、フェンとミーの顔を見るなりハルの顔は綻んで、これならこれでいいと思うフェンの気持ちも、わかっちゃったのにゃ。



 ◇◆◇



 ミーはもと野良妖精、黒猫のノラ。

 名前は、今の飼い主、ハルにもらったにゃ。

 ハルがこないだプレゼントしてくれた、しましま柄の可愛いリボンは、ミーのお気に入りにゃ。


 ハルは、十五歳の頃からこの城にいるらしいにゃ。

 今、ハルは二十歳。

 もう結婚していて、二年前に男の子を産んでいるらしいにゃ。


 けど、旦那さんの姿も子供の姿もミーは見たことがないから、まだ信じられないんだにゃ。

 ハルの夫は、こんなところに奥さんを閉じ込めて子供にも会わせないで、どういうつもりにゃ?


 ハルに聞いたら、『子供には会いたいけど……でも、神事の時には会えるから、いいの。どうせ会っても、話も出来ないから、仕方ないよ』って寂しそうにしてたにゃ。

 フェンもハルも言い訳ばっかりで、自分で動かないにゃね。


 ハルもミーみたいに塀の上を通って、子供に会いに行けたらいいんにゃけど。

 ミーなら余裕で行けるから伝言だけでも……って思ったけど、ミーは人語を喋れないし、ハルの子供の顔も知らないし。

 ……って、これも言い訳だにゃぁ。



「ちわーーーっす!!」


『なんにゃ? 賑やかな人間が来たにゃ?』


『知らない人間だな。ちょっとやかましいな』


『フェン、通訳お願いね』


 フェンリルのフェンは賢い妖精だから、人間の言葉が喋れるにゃ。

 部屋に入ってきた人間は緋色の髪と瞳が印象的な、体の大きな騎士だったにゃ。


「初めまして! 今日からハルモニア殿下の近衛騎士になります、新人のカイといいます! よろしくお願いしまっす!」


『このやかましい人間は、今日からハルの近衛騎士を務めるそうだぞ。カイという名だそうだ』


 フェンはこの調子で、立派に通訳をこなしていくにゃ。

 ミーは、ちょっと羨ましく感じたにゃ。


『はじめまして、カイさん。聞いているかもしれないけど、私はフェンを通さないとお話しできないのよ。ちょっと不便だけど、よろしくね』


「よろしくっす! ハルモニア殿下、俺、何でもするんで、何でも頼って下さいっ」


 その後、ハルとカイは、フェンの通訳を挟んで、しばらく談笑していたにゃ。

 それを眺めながら、ミーはいいことを思いついたのにゃ。





『フェン、お願いがあるにゃー!』


『おいおい、なんだよ。面倒なことならやらねえぞ』


『そう言わずに。ハルのためにゃー』


『ハルのため? ふん、仕方ねえ。話ぐらい聞いてやるよ』


『ミーに、人間の言葉を教えるにゃー』


『はぁ? なんでそれがハルのためなんだよ』


『かくかくしかじか……』


 ミーは、フェンにミーの計画を話したのにゃ。

 身軽なミーなら、塀を越えてハルの子供に会いにいけること。

 ハルの伝言を子供に伝えて、子供の伝言をハルに伝えることが出来るように、人語を学びたいこと。


『…子供に、なぁ。確かにお前の身軽さなら塀は越えられるだろうが、ハルの子供に会えるかどうかは分かんねぇぞ。なんせ、外から嫁入りしたハルと違って、ハルの子供は生粋の王族だ。ハル以上にガードが堅いぞ』


『それでも、言い訳ばっかりして何にもしないのは嫌なんだにゃー。少しでもハルの気持ちを晴らすことができるんなら、ミーは頑張るにゃ』


『……お前、なんでそんなに頑張るんだよ? 猫のお前はこの場所が窮屈ならいつでも出ていけるし、ハルにそこまでする義理はないだろ?』


『ハルには、名前をもらったにゃ。可愛いリボンも、もらったにゃ。ずっとひとりだったミーに、初めてふたりも友達が出来たにゃ。何も返さないなんて、ミーには出来ないにゃ』


『友達……』


 フェンは、長い毛を床まで垂らして、何やら考えているにゃー。

 ふふん、少しは頑固犬の心に響いたかにゃ?


『……つーか、お前、猫っぽくねぇよなあ』


『ミーは猫だけど妖精だにゃ! 自由は好きだけど義理堅いのにゃ!』


『ふん、分かったよ。人語は複雑で、覚えるの大変だぞ。それでもやんのか?』


『もちろんにゃー!』





 それからしばらくして。


「こん、にゃち、は。みぃ、猫、ノラ」


「おっ! だいぶ上手になったな、ノラ」


『ん? カイは何て言ったにゃ?』


『だいぶ上手になったな、ってさ。ノラ、聞き取りはまだまだだな』


『にゃうーん』


「ノラ、その、ちょう、し」


「おいおい、カイ。お前までカタコトになることねぇんだぞ」


「あっ、つい。ははははは」


 まだ時間はかかりそうだけど、ミーは絶対、ハルの気持ちをハルの子供に届けるのにゃ。

 言い訳ばかりで動かないんじゃ、何にも変わらないのにゃ。

 ミーは、ハルに、諦めてもらいたくないのにゃ。


『ノラ』


『なんにゃ?』


 話しかけてきたハルは、優しく笑ってはいたけど、いつになく真剣な声色だったにゃ。

 髪の毛と同じ銀色の瞳が、真っ直ぐにミーを見て、ふにゃっと細まったのにゃ。


『ノラを見てるとね、私、もうちょっと足掻いてみようかなって思えるんだ。何か、私にも出来ること――今すぐじゃないけど、見つかるかもしれない』


『ハルに、出来ること?』


『自分のためじゃなくて、誰かのために頑張るって、とっても素敵ね。言い訳ばかりじゃ、何にも変わらないのよね。ノラ――』


 ハルは優しい笑顔を浮かべて、両腕を広げたにゃ。


『――教えてくれて、ありがとう。あなたは私に光をくれたわ。ノラ、私の、大切なお友達』


『にゃうーん!』


 ミーは、ハルの腕の中に飛び込んだにゃ。

 お日様みたいな、お花みたいな香りがして、それからギュッと抱きしめてくれて――フェンが拗ねて鼻を鳴らして、フェンは代わりにカイに撫でられて。

 ミーは、みんな大好きなんだにゃ!



 ◇◆◇


 それから十九年。


 ミーは、人間の言葉、ペラペラになったにゃ。

 努力の甲斐があったにゃー!


 ハルとハルの子供との距離は、結局思うようには縮まらなかったにゃ。

 けど、出来ることはやったと、胸を張って言えるにゃ。

 ミーの影響かは分からにゃいけど、ハルも、何やらやるべきことを見つけたみたい。


 そうそう、ミーはずっとハルと一緒だったんにゃけど、しばらく前から、お城を離れているのにゃ。

 けど、それも、数年前に王妃になったハルのお願いを叶えるため。

 今は、ちょっとオジサンになったカイと一緒に湖に来ているにゃ。



「あー、湖もいいけど、たまには海に行きたいよなぁ。知ってるか、カイって名前には『海』って意味があるんだぜ」


「ふーん。海はしょっぱいにゃ。ミーは湖でいいのにゃ」


「そんなこと言うなよー。そう言えばノラ、お前の名前って、王妃様にもらったんだよな?」


「そうにゃ。野良妖精だから、ノラ。ちょっと安直だにゃ」


「ん? 野良? 違うと思うぞ。『ノラ』は確か、『光』って意味だ」


「……にゃっ?」


「王妃様、外から来たお前が、眩しかったんだろうな。友達になれて嬉しかったんじゃないか?」


 ……そんなの、聞いたことないにゃ。

 野良、のノラでも気に入ってたけど、『光』かぁ。

 そうかぁ……。


「さ、さっさと仕事終わらせて、王妃様に思いっきり褒めてもらおうぜ」


「にゃん! 早く帰って、抱っこしてもらうのにゃ!」


「おう! 頼むぜ、相棒」


「ふふん、ノラは賢い猫にゃから、頑張るのにゃ」


「さて、仕事の前にちょっとだけ寄り道だ。せっかく近くまで来たんだし、墓参りしてっていいよな?」


「もちろんにゃ」


 ミーはカイの肩に飛び乗ったにゃ。

 そして――お墓の前には、先客がいたのにゃ。


「……殿下?」



 〜Continued on Episode 65〜


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ