美形の微笑みは鼻血もの
「あの、えっと、その、うおおぅ…!」
妹のストーカーだと思っていたのが実はあたしのストーカーで。
しかもそのストーカーは信じられないほどの美青年で。
ストーカーは美青年。
美青年はストーカー。
あまりに非現実的な今の状況に、あたしの思考回路はショート寸前。
日本語すらまともに喋れないほど脳内パニックでありますですよぉう!
「あの、大丈夫ですか?」
「ほぎゃッ!?」
びっ、びびびびび美青年よ!
顔が近いッ!
そんなに綺麗なお顔を近づけられちゃうと鼻血出そうなんですけどぉぉぉぉ…っ!
「さっきより顔が赤くなってるみたいですけど……」
だからそれはあなたのせいなんですぅ!
うあああほんとそれ以上近づかないでえええ!
は、はな、鼻血が出ちゃうからあああ!
「もしかしてさっき頭打ったせいでどこか具合が悪くなっちゃったんですか!?」
むしろそうなってくれてたほうがどれだけ良かったことか…!
いくらなんでも男の人(しかもすごい美青年)の目の前で鼻血ブーはヤバイでしょ!!
そんなことになったらもう女としてこの先生きていく自信失くすわ!!
お願いだから誰か助けてヘルプミー!!!!
「透ちゃんっ!」
不意に背後から鈴を転がしたような可愛らしい声があたしの名を呼ぶ。
その声を聞いた瞬間、あたしは泣きそうになった。
待ち望んだ救いの手!!!
それはあたしの双子の妹だった。
「明ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」
振り向いて可愛らしい声の主の名を呼ぶ。
鼻血を噴出さないように鼻を押さえているせいで微妙に鼻声になってしまった。
自分の声ながらちょっと気持ち悪い…。
でも今はそんなの気にしてる場合じゃない!
このわけわからん状況(及び鼻血ブーの危機)から一刻も早く逃げ出したいんだ!
「助げでー!!!」
鼻を押さえたままあたしは全力で明ちゃんのもとへと駆け寄る。
あたしより背が高い明ちゃんの背中に隠れながら今の自分の状況を切実に訴えた。
「ズドーガーが美青年で美青年がズドーガーで頭バニッグで顔が綺麗ずぎで鼻血ブーになりそうで女どじでぞればヤバイげどもうどうじだらいいのがわがらなぐて」
「ごめん、透ちゃん。よくわかんない」
「え゛!?だがらね!」
「うん、とりあえず鼻から手を離そうか。それともう少し落ち着いて」
明ちゃんの冷静な声に促され、あたしはようやく鼻から手を離した。
そして「はい、息吸ってー。はい、今度は吐いてー」というこれまた明ちゃんの冷静な声に促され深呼吸をし、いくらか落ち着きを取り戻した。
……よし、鼻血ブーの危険はなんとか回避された。
「落ち着いた?」
「うん、なんとか…」
「それじゃあ、さっき言ってたこともう一度きちんと話して。それと……」
くるり、と振り返りストーカーである美青年を見つめ、明ちゃんは不思議そうに首をかしげた。
その様子を見て美青年がにっこりと微笑む。
まさに天使の微笑み。
眼福ですなぁ……とか思ってたらまた鼻血出そうなんですけどおおおおおお!
「何で聖くんがここにいるの?」
「こんにちは、明さん」
「明ぢゃあ゛ん!まだ鼻血があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
三人同時に話し出した後、一瞬の沈黙が辺りを包む。
あたしは今にも垂れそうな鼻血を押さえ込むためにあたふたしていたけど、ふと二人の会話に疑問を持って動きを止めた。
「え゛………ぶだりども知り合いなの?」
また一瞬の沈黙の後、明ちゃんはあたしの方を見ないで美青年を見たまま小さな溜息をひとつついた。
そして思わぬ爆弾発言を投下した。
「透ちゃん、彼はねあたしの事務所の後輩」
「事務所………っでまざがっ!!」
「そう。彼、これからデビューする新人モデル。あたしのお仕事仲間」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」
驚愕するあたしに美青年はさっきよりも威力を増した天使の微笑で笑いかける。
その微笑の美しさと、『ストーカーは美青年でしかもこれからデビューする新人モデル』なんていう事実に鼻を押さえていた手から力が抜けた。
どろり、とした赤い液体が間抜けな顔をしているあたしの鼻から垂れ落ちた。
一年も放置していてほんとに申し訳ありません………;
これからはちょこちょこと更新していきます。
呆れずにお付き合いいただけると嬉しいです。
本当にすいません!!