9・神 ×2サマッ!
『ではまず、感知系統からだな。肉体を乗り換えれば五感はどうにかなるが……しかし一応、感知系スキルは一通り揃えておくか。『光波感知』『音波感知』『臭気感知』『熱感知』『魔力感知』『万能鑑定』……すべて含めたスキルでも作るか。名前は、そうだな、『万能感知』とでもしよう。……情報量が膨大になるな。ふむ、加えて『高速演算処理』『超記憶』、それと『思考超加速』なんかも入れるか』
お、おお!
なんかすごいことになってる!
『移動は人間の手足があれば……否、どうせならば『歩行』『走行』『縮地』『空間機動』も……となると速度に耐える頑強さが必要だな。『鋼鉄体』『鉄壁』『岩龍の加護』……攻撃面も充実させておくか?……『剛腕』『攻撃強化』『剣術』『槍術』『弓術』『格闘術』………種族も『神人』にして……』
よ、よく分からんがすげえ!
ありがとう神サマ!
こんなに頑張ってくれるとは思わなかったよ!
悪いね!
『いや何。気にするな』
……え、あ、うん。
そう……。
なんか、すごく急に乗り気になってない?
さっきまで文句垂れてたのに。
どうしたの?
『気が変わったのだ。言ったろう、私は新生の神に良い感情を持っていない』
うん、それは聞いた。
『貴様が世界を危機にでも陥れれば、多少は彼奴等に意趣返しができると思ってな。世界が危機なら庇護するべき人間たちが危うい、しかし大きな干渉はできない。ククク、頭を抱える彼奴等の姿が目に浮かぶわ……』
うわお。
思ったより危ないこと考えてた。
いや、あんたも一応神なんでしょう?
人間滅ぼそうとすんなよ。
『人間なぞ滅んでも良かろう。また繁栄し直せば問題ない』
神らしからぬ発言で草。
『草?』
あ、知らないんだ。
なんでも無いっす。
でも確かに、強さってのはいくら持ってても良いもんだよな。
俺としても、この不便な状態から一刻も早く抜け出したいのは確かだし。
お願いしますよ、神様!
『うむ!どんと任せよ!』
■ ■ ■
てな感じで。
俺と神様は、俺の強化計画について楽しく話していた。
神様が俺の新しい肉体を作り、今にもそれは完成しようとしていた。
のだが。
『あ、ようやく見つけた!お父さん!』
突然、誰かの声が聞こえた。
顔は見えないが、声は美人だ。
ってか、「お父さん」?
てことはさっき言ってた……「常識人」の「娘」さん?
『ああ、こんにちは。私、この人の娘の、ヘラよ。……で、お父さん!こんなところでコソコソと、一体何をやってるの!?』
『ヘ、ヘラ、その、これは……』
『全く本当に、お父さんったら!あんなに軽々しく祈祷に応じて……それに、勇者召喚まで……どれだけ道草を食ってるの!はやく会議に戻ってちょうだい!お父さんのために開かれたのよ?』
『う、うむむ……』
うわあ。
自分の娘に叱られてる。
かっこ悪い大人(?)だなあ。
てか、勇者召喚?ってダメなことだったの?
さっき、例外的にOKとか言ってたけど……。
『それは……本当に、『例外的に』です。あの程度の規模の祈祷では、神どころか、中位の精霊ですら応じるかどうか……お父さん、決まりはしっかり守ってちょうだい!他の方々に顔向けできませんよ!』
『そ、その決まりは、お前たちの世代が勝手に決めたものであろう!我々に従う義務はない!』
『いいえ!あの会議には、お父さんたちも参加していました!大規模に施行される、重要なものだからと多くの神々が招集されて……決を採って採用された決まりなのよ?しかも!お父さんも賛成票を入れていました!』
『そ、そんな覚えは……』
『どうせ話も聞かず、よく考えなかったんでしょ!そういう適当なところがあるから世界のバランスがすぐ崩れて…………』
うわー。
かっこわる。
すごく、すごーくかっこ悪い。
勇者召喚も、仕事だから仕方なく、って口調だったのに、やる必要はなかったのか……。
自分がやりたかったのかな?
あんなに頼もしかったのが嘘のようだ。
『年甲斐もなくおもちゃなんか作っちゃって……捨てておしまい!』
……えっ?
『う、うむ。分かった……よし、消滅させたぞ。これで良かろう』
………………へっ?
『すぐ帰るわよ。お父さんのせいで、緊急の会議が開かれたんだからね。全く、なんと言えば良いのか……』
………………………………えっちょ、まっ……
待て待て待てまて!!
俺は!
俺はどうなるんだ!!
流石にこのまま放置は無いよね!?
ねえ!
ヘラさん!?
『ほら、何をグズグズしてるの。早くして、お父さん』
完全無視かよ!!!
なんかデジャブ!!!
『のう、ヘラよ。流石に、こいつをこの状態で放置するのはあんまりだと思うのだが……目も見えんし、ろくに移動もできんのじゃぞ』
そうだクロノス様!
言ってくれ!
『顔を見せただけで十分だわ。そんなことより、ゼウス様がご立腹よ』
こっちの神も大概だった!!
顔見せだけじゃなんも変わんねーよチクショー!!!
『うむむ……ではせめて、ユニークスキルの再付与だけでも……』
『はあ……本当にそれだけよ。早くしてね』
おっおお、クロノス様!
どうにか……どうにかヘラ様を説得して……。
せめて五感を……。
『すまんがそれは無理だ……見ての通り、娘には頭が上がらんでのう』
情けねーオヤジさんだな!!
そんなんで恥ずかしくないのかよ!?
『…………返す言葉もない……しかし、言った通りにユニークスキルの再付与をしてやろう。ユニークスキルは総じて強力なものが多く、文字通り世に2つとない希少なものだ。転移者にユニークスキルを付与する慣例は古くからあり……』
『お父さん?』
『わ、分かっておる!疾く済ませる!さあ、付与するぞ』
クロノスがそう言った直後。
俺は、何かを感じた。
視覚でも、聴覚でもない。
触覚ですらなかった。
しかし俺は確実に、なにかを感じた。
俺のなにかが、確実に変わった。
『貴様に授けた権能は…………『契約』、だ』
おお!
……ん、え?
えーーっと、契約?って言った?
ちなみにそれはどういった事ができる……?
『簡単だ。契約ができる』
……………は?
『だから、契約ができる』
いや言葉の意味がわからないんじゃなくて……。
契約ができる、だけ?
『そうだ』
………………………………は??
……………………………………………………え???
それで……………それで、生き残れ、と?
『終わった?なら、行くわよ』
『まあ、なんだ……生き残れるよう、奮闘するが良い』
そう言い残して、2人の神は去っていった。
呆然とした、俺を残して。
草っていうのは………面白いねって意味だよ。
『何故草なのだ』
さあ……