6・Let's 質問
神様、質問その1です。
『何だ』
あなたは神様ですか?
そう、今更だが、俺はこいつが神なのかどうかは知らない。
こいつが俺たちを転移させたようなので勝手に神と呼称していたが、もしかしたら天使枠かも……。
あるいは悪魔か。
性格から言ってそっちのほうが可能性高そうだ。
『ああ、私は神の一柱だ。断じて悪魔とかの邪悪な輩ではない。貴様の悪言癖はなんとかならんのか』
どうにもならんな。
そもそも人間の心の中なんて、みんなこんなもんだと思うけどね。
ええと、神の一柱と言ったのは、他にも神様がいるから?
『そうだ。私はその中でも、上位に位置している。』
へー。
すごいですねー。
そういやまだ名前聞いて無かったな。
おまえ、名前は?
『うむ。私は、時空を超え空間を渡りし時空神、名をクロノスと言う。それをお前呼ばわりしたり、媚びへつらう事なく悪意を見せてきたニンゲンは貴様が初めてだ』
いやでも、不遇な扱いを受けたらそりゃ悪意湧くでしょ。
しょうがないって。
もともとは、俺をなんかよく分からない化け物にしたお前が悪いんだから。
諦めろって。
じゃ、質問2な。
クラスメイトのみんなも、異世界に転移させたんだよな?
『ああ、そうだ』
人間のまま?
『ああ、そうだ』
なんで俺だけモンスター?
『知らん』
そうかー、知らんかー。
じゃねえんだよゴラ!!
知らんですむと思ってんのかテメエ!!
ああ、殴りたい。
胸ぐら掴んで罵声を浴びせたい。
でも手がないからできない!
どれもこれもお前のせいだ!!
違うか!?
違わねーよなぁ!!
ああ!?
『違う』
いや違うんかーい。
え?
お前のせいじゃないの?
絶対そうでしょ?
だって、お前が俺らを転移させたんでしょ?
『確かに私が貴様らを転移させた。だが、貴様がその姿になった経緯は知らん。むしろ、何故貴様が転移ではなく転生しているのか、私が聞きたいくらいだ。』
俺が聞きたいんだが。
『時空神たる私が、あの程度のことで失敗するとは思えん。貴様の方こそ心当たりは無いのか?転移直前で死んだりした覚えは?』
はあ?
そんなのあるわけ……。
……
あるわけ……。
あるわ。
そういや殴られてたわ。
『殴られた?その程度のことで、ニンゲンが死ぬとは思えんが』
いや、その殴ってきたやつは、ちょっと例外かな。
確か、松田……いや松岡……ああ、そうだ、松川だ。
その松川ってやつは、それなりに有名な不良らしくてさ。
ケンカに置いて負け知らず。
地元で無類の強さを誇っていたそうな。
『ほう、では十分人が死ねる威力をもった拳を振るえると』
そゆこと。
でも、そうか。
俺、死んだのか。
ちょっと残念。
■ ■ ■
地球に居た頃、俺はいわゆる陰キャだった。少なくともそう自覚していた。
クラスではほとんど喋らず、1人寂しく隅の方に座っていた。
委員長とか言うやつが、時々話しかけてきた程度か。
特段コミュ障というわけでは無いのだが、なんとなく積極的に人と会話する気が起きないのだ。
そのせいか、高校生活でできた友達は1人。
その友達も、急な引っ越しとかでどこか遠くに行ってしまった。
今では顔もあまり覚えていない。
クラスに一人はいる、典型的なボッチ。
それが俺だった。
昔は良かった。
6、7歳の頃は、年相応に同年代の奴らと遊んでいた。
男女の見境もなく、みんな仲良く。
でも。
いつからか、人と一緒に行動することがとても億劫に感じられるようになった。
どうやら俺は、生来の自己中心的な人間だったらしい。
小学校では読書ばかりだった。
同級生の支離滅裂な話よりは断然理屈が通っていて、面白い。
サッカーのクラブチームなんかにも通ってみた。
しかし、一年もしないうちにやめてしまった。
協力プレイというのがなかなか出来なかったからだ。
どうやったら、パスをもらえるくらいの信頼を得られるだろうか。
謎だった。
中学校ではもちろん帰宅部。
授業にはしっかり出たし、課題もサボらなかったが、そこまで勉强が楽しかったわけではない。
むしろ、その時間を大好きなゲームにあてたい。
ゲームは良い。
NPCに気を使う必要はないし、現実世界のように会話で疲れない。
ネット上なら、多少発言が独りよがりでも問題ない。
当時の俺にとって、これほどの救いはなかった。
高校では、そのゲームすらやめてしまった。
特段なにかがあったわけではない。
なんとなく、やる気が失せてしまった。
その代わりに、アニメやマンガを鑑賞し始めた。
ネットを漁ればいくらでもある。
そういったものを見るのは面白かった。
でも、時間を無為に過ごしているかのように感じてしまうことが、よくあった。
家族は、そんな俺にとって唯一の理解者だった。
というより、唯一話すのが面倒でない人達だった。
長い間一緒に過ごしたから、というのもあるだろう。
でも、俺の家族は、なんというか、話しやすかった。
何故だろうか。
わからない。
もしかすると俺は、家族にしか興味がなかったのかもしれない。
他人に興味がなかったから、他人と関われなかったのかもしれない。
時々、そういうふうに思った。