4・未知との遭遇のあと
神は私を見捨ててしまわれた。
聖書かなんかでそんな文言があった気がする。
まさか、自分で使う日が来るとは思わなかったけど。
ああ、でも待て。
あいつ、「私は神です」とは言ってなかったな。
なんなんだろうか。
正体は分からんし、神でいいか。
あのクソ神との接触で分かったこと。
1つ、俺は人間じゃない。
もろくそあの野郎も「こいつ人間じゃねえ」って言ってたし、まず間違いないだろう。
この前までは、学校にいた時までは確かに人間だった。
それは間違いない。
でも今は人間じゃない。
何故だ?
原因はおそらく、あの神だ。
転移させたとか言ってたし、それでなにか不具合が起きたとしか考えられん。
「私に限ってありえない!」とかほざいてたが、ああいうのは自分のミスを認めたがらないことがよくある。
きっとあいつのせいだろう。
うん、そうに違いない。
そういうことにしておこう。
じゃあ俺は今何なのか。
それはまだ分からない。
というか、神にも分かっていなかったように見受けられる。
しかし、ある程度予想は立てられる。
これも神の言っていたことだが、「スライムでもない」という言葉から、俺はスライムに似ている何かになっているのだろう。
ここで、改めて自分の体を意識してみる。
手足の感覚はない。
殴られたからかと思っていたが、どうやら手足が付いていないようだ。
次に、感覚器官。
目、見えない。
耳、聞こえない。
鼻、嗅げない。
味覚は、そもそも口があるかすら怪しい。
かろうじて全身の触覚だけはあるが、それだけだ。
体の触れている部分しか認知できない。
すごく不便だ。人間ってのは恵まれてやがる。
体を動かしてみる。
人間の体と違って、骨格がないのか、全身が流動的に動いている。
自分のことながら、かなりキショい。
いや、自分のことだから気持ち悪く感じるのかもしれないな。
見た目は、俺の想像するスライムの体と大差なさそうだ。
クソ神はスライムじゃないと言っていたが、認識としてはスライムで構わないだろう。
生態がどうかは知らんが。
2つ、ここは日本じゃない。
目が見えないのですべて推論になるが、間違いないと思う。
なんてったって、目も耳も鼻も口もないくせに時折動く物体が、体感で丸一日放置されているのだ。
地面の感覚からすると、おそらく屋外に。
インターネットの発達した日本の情報社会なら、そんなやつすぐネットで拡散され、物好きなやつに捕獲されるか、公共機関に駆除されるかするはずだ。
……自分で言ってて悲しくなってきた。
うん、もう化け物なんだよな……。
人間に戻れっかな……。
日本でも人目につかない場所はいくらでもある。
山奥とかな。
でも、俺がいたのは東京の高校だ。
それこそ転移でもしない限り、人目につかない場所への移動はできないだろう。
そして何より、俺の知る限り日本国内には人の心を読み漁って脳内に直接自分の声を届けられるような超人は居なかったはずだ。
居たとすれば、ユリ・ゲラーか、そいつは。
分かったこと3つ目。
俺だけじゃなく、おそらくクラスメイトたちも転移させられている。
「転移させたニンゲンたち」と言っていたし、気を失う直前に見えた魔法陣は教室全体に広がっていた。
絶対、クラスのみんなもこっちに来てる。
はず。
多分。
いかんせん、情報源があの神の発言しかないので、これだけしか分からなかった。
いや、これだけ分かれば万々歳か?
神の独り言を必死に解読して、推理したのだ。
十二分に成果を上げたと言っていいだろう。
結局、目は見えないが。
チートはないが。
今俺がいる場所がどこかは分からないが。
今の種族がなにか分からないし、なに食べれば良いのか分からないし、そもそもこの体でどうやってものを食べれば良いのか分からないが。
うん、十分十分。
これから俺が生きていくのに必要な情報意外は、だいぶ出揃ったね!
クソが!
異世界に来て分かったこと:
生きていく上で不要な情報