21・ワケワカメ
「ええい、情報量が多い!」
思わず叫んでしまった俺は悪くない。
だって、本当に訳がわからない。
元クラスメイトとの会合。
アイリスが元勇者?
アイリスの死。
神、クロノス参上、からの勇者(謎)任命。
そして謎に角と翼を持つ少女。
サンカント村が焼けてる。
そしてポータル的なナニカを通って村に現れた元クラスメイト等←new!
0.2秒の無◯空所並みに頭が痛い。
現状を整理しよう。
俺はある高校の一般男子高校生で、ある日突然異世界に転移、もとい不慮の事故で転生してしまった。
んで転生した先はスライムらしき生き物。
初期は目も口もなくまともな生命体として生きていくことすら困難であったが、アイリスに拾われて一年ほど寝食を共にし、人の形を得た。
今では人間そっくりに変身できる。
そして本日、サンカント村で転生前の元クラスメイト達を発見。
尾行して彼らの話を盗み聞きした結果、よくわからんがアイリスが恨みを買っている事がわかった。
戦力的に彼我の差だと判断し、俺はアイリスを連れて逃げようとした。
が、俺が家に帰った頃には時すでに遅し、アイリスは既に重傷を負っており、俺の腕の中で息絶えた。悲しみに暮れる俺の前に現れたのは憎きオッサンクロノス。
俺たちを異世界に転移、転生させた神だ。
二言三言言葉を交わし、どうしてか俺を勇者任命。
なぜ。
アイリスの埋葬してたらいつの間にか隣にいて一言も発さないまま飯を食った角娘プリティダービー。
誰。
そして後日サンカント村に行ったら村が燃えてる。壊滅状態。
何故。
そしてそして村人は俺を拒絶し、突如空間に空いた穴から元クラスメイト達がひょっこりはん。
なんでやねん。
現状を整理してもさっぱりワケワカメまじ意味文子。
「麗しいお嬢さん。どうかそう嘆かないでおくれ」
「ええい、空間の向こう側から話しかけてくんな気が散る」
「ふむ、確かにお嬢さんの話し相手になるというのに、このような隔たりがあるのは紳士的な態度じゃないか。ツッキー、もう少し穴を広げてくれるかい」
ツッキー、と呼ばれたある男子生徒。
名前は確か月島颯太とか言ったか、が応え、ポータルを大きくし、軽薄な野口正義がこちら側に足をついた。
こっちに来いと言ったわけではない。
「見覚えのある顔だ。名前を伺っても?」
「ちょっと待て。考えさせろ。いや、やっぱり質問に答えろ」
「なんなりと、お嬢さん」
「……お前らが、この村を壊したのか? 村の人々を、殺したのか? 罪なき一般人を」
「そうなるかね。ただ、罪なき、というのは少し違うな。彼らは人間でありながら魔族軍に与する裏切り者さ」
「は?」
「それは違う!」
冒険者ギルドの、もうぼろぼろな村の中で、唯一まだまともに建物として機能するその建造物の中から、誰かが叫んだ。
「俺たちゃただの村人だ。魔族軍とつながってなんかいない。この村は確かに国境線は近いが、魔国とは山で隔てられている。物理的に無理なんだよ」
「そもそも魔族軍が私達に協力を求めるわけがないでしょう?山の麓の小さな村です。鉄も多く取れるわけではないし、魔石の産出地でもない。特段なにかの作物が育つわけでもない。自分たちが生きるので精いっぱいなんです。毎年の税を工面するのにどれだけ苦労しているか……」
ギルドの中から、野口の言葉を否定する声が上がる。
全くそのとおりだ。
このサンカント村は魔国と人間の国々を分ける山脈の南側、人間側の範囲にある人間の村だ。
当然人間の国に所属しているし、戦線は遠く離れた地にあり魔族との接触を持ったこともない。
少なくとも俺の見ていた限りでは、戦火から離れた、平和で、ごく真っ当な人間の村でしかない。
「ふむ。何と説明したものか。先ずは先代勇者のことから話そうか」
先代勇者。
アイリスのことだ。
俺は一言も聞き漏らすまいと、調子よく喋る野口の言葉に耳を傾ける。
「彼女は数年前に人類同盟に所属する勇者だった。勇者足りうる存在だったから、人類同盟からも絶対の信頼を置かれ、英雄として扱われた。実際、彼女の戦績は実に素晴らしいものだったらしい。人類同盟軍の一隊を率いて数多くの敵軍を打ち倒し、人間を守り、戦線を大きく北に押し上げた。彼女の力は優れた体力と魔力を持つ魔族ですら止め得ない業火だったのさ。俺たちからすれば希望の火とも言うがね」
初耳だ。
あらゆることが初耳だ。
魔族と人間の戦争については、アイリスの家にあった本で学んだ。
いわゆる勇者の存在もそこで知った。
が、アイリスがまさにそれで、魔族を相手取って戦い、英雄とされていた?
知らない知らない知らない。
確かにアイリスは恐ろしく強かったし実力の底も見えなかったが。
「そして彼女は裏切った。機密ゆえに詳しいことは言えないが、人類同盟にとって致命的なことをやらかしてくれたのさ。しかも故意に。明確な利敵行為だ。後の調査で魔族との繋がりも明らかになった。彼女は英雄ではなく、悪魔の手を取る鬼畜だった。裏切りを果たした後、彼女は相当長い間逃げ回っていた。そう、つい先日まではね」
野口正義がしゃべっている間に、他のクラスメイト等もポータルからこちら側にやってきた。
ぞろぞろと、数えてみれば十四人。
俺と、俺にくっついている角娘プリティダービーの周りを囲む。
「彼女の名前はアリス・アグノロフ。この村ではアイリスと名乗っていたようだが。聞き覚えはあるかな、お嬢さん?」
「……もう一つ質問だ。お前たちが、アイリスを殺した。それで間違いないな?」
「ああ。心苦しいことだが、容姿端麗な彼女は、俺達が殺した。そして裏切り者である彼女に手を貸していたこの村も、罪がある」
薄々、というか、はっきり分かっていたことだが、彼ら自身の口から聞いて、確定した。
アイリスは転移者に殺された。
俺の元クラスメイトは殺人者だ。
そして、そのことを悪しき行いだと思っていない。
「……糞だな」
「そんな暴言は似合わないぜ、レディ。さて君、可愛いお顔をしているが、よく見れば裏切り勇者アリス・アグノロフとそっくりじゃないか。君がアリスの娘だな?」
「糞に名乗る名は持ち合わせていない」
「酷い言いようだ。それは肯定と受けてもいいんだろうね。では委員長。どうする?」
野口正義の後ろに控えていた、委員長___俺も覚えている。黒髪のたなびく美少女だ___が答える。
「昨日決めた通りです。私達に同行してもらいましょう」
「断る」
「……手荒な真似はしたくありません。大人しく私たちについて、王城まで来てください」
「裏切り者の娘をどうするつもりなわけ? どうせろくでもないことになるに決まってる」
「私たちとしても、まさか先代勇者に子供がいるとは思いませんでした。王城に持ち帰って、国の判断を仰ぐつもりです。しかし、貴方に罪はありませんから、重い罰を受けるということもないでしょう」
「へえ。罪なきサンカント村を、アイリスと関わりがあったという理由で蒸し焼きにした皆さんのお言葉はとても信頼できますね」
「そ、それは」
寝言は寝て言え。
とは言え、どうするか。
今はまだクラスメイトたちも大人しく動向を見守っているが、すっかり囲まれてしまったのも事実。
怖がっているのか、表情筋は動いていないが角娘プリティダービーが俺の服の裾をギュッと掴む。
……そういえば、じゃあこいつは本当に何?
「……で、さっきから気になってたんだけど、君の後ろで震えている魔族の子はどうしたんだい?」
知らん。
俺のほうが聞きたい。
「君も知っていると思うけどね。今、人間と魔族は戦争中なんだよ。その子も引き渡してもらおうか」
やっぱり魔族か。
実物を見るのは初めてだな。
「村長、みんなを連れて逃げてください」
「リリー、それは……」
「コイツラは私がのします」
「……できるのか?」
「やります」
顔が見えた村長に指示を出す。
こうして元クラスメイトたちと顔を合わせてしまった以上、そして俺に投降する意志がない以上、戦闘は必至だろう。
ならせめて。
人的被害だけでも減らしてもらおう。
クラスメイトたちは村の中にいたアイリスに攻撃を仕掛けました。
アイリスは極力村に被害が出ないように庇いましたが、転移者たちの力は強く、どうにもならないと判断したアイリスは村を飛び出し、洞窟まで走りました。
せめて村の被害を少なくしようとしての判断でした。
ですがその頃には、アイリスと転移者との戦闘の余波で村には大きな被害が出ていました。




