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人外転生  作者: 雪鼠
20/21

20・サンカント村

 羽と角の生えたそいつに飯を食わせて―――もとい口にねじ込んで―――寝かせた。

 ベッドは俺のものを使わせた。

 普通ならここはアイリスのものを使わせるべきなのだろう。

 見た目はあれでも、俺は男だ。

 女子を寝床に案内する勇気はない。

 だから、アイリスのものを使わせるつもりだった。

 が、それはできない。

 アイリスのベッドは今、瓦礫に埋まっているからだ。

 くっそ、元クラスメイトめ。

 ベッドまで使えなくしやがって。

 ………クソが。

 今更、改めて憎悪が沸々と。

 おっといけない。

 冷静冷静。

 罪を憎んで人を憎まず。

 落ち着こう。


 翌日。

 幾分か顔色が良くなった角娘と一緒に、サンカント村に行ってみた。












 燃えてた。

 建造物が。

 火事だ。

 血肉の焼ける匂いがした。

 壊滅だ。

 もうこの村は、人の住めるような場所じゃない。

 ひと目でそう分かる。


「………………はっ…………」


 笑える。

 もういっそ笑える。

 不幸の連続。

 アイリスに続いて、村の人たちまで。

 いや、この言い方はよくないか。

 不幸なのは俺じゃない。

 実際に被害を受けたのは、俺じゃない。

 一番不幸なのは、アイリスとか、村の住民とか、だ。

 いや、それでも、だ。


 俺だって、ムカつくし、悲しい。

 ああ駄目だ。

 考えがまとまらねえ。

 

「はー…………あー…………よし」


 決めた。

 生存者確認をしよう。

 門をくぐる。

 門と言っても、それは半壊していて、門としての役割を果たせていないが。

 サンカント村を囲む塀も、半分以上倒れている。


「おーい………誰かいませんかー」


 門番のアルバートさんはいない。

 いるはずもないか。

 こんな状況だ。

 門を守る必要もない。

 もしかすると…………

 死んでるかもかもしれない。


「だれかー…………いないのかー…………」


 鍛冶屋さんが、崩壊していた。

 ひどい有様だ。

 屋根が真っ二つに割れて、そのまま地面に落ちている。

 壁なんかは、もともと脆い素材だったのか、粉々になって散らばっている。

 どうしてこうなったのか。

 それは多分、剣によるものだろう。

 漫画・アニメでよくある、あれ。

 剣を振るい、剣先から衝撃波のようなものを飛ばすやつ。

 そう、ソニックムーブだとか呼ばれている、あれだ。

 あれを現実世界で再現することは可能なのか。

 結論から言えば、可能だ。

 というか、アイリスがやってた。

 何度も見たことがあるから分かる。

 この鍛冶屋は、剣撃による衝撃波で壊されている。


「だれも…………おーい…………」


 農場は丸焼けだ。

 芝生だった地面は灰と化しているし、ところどころに焼け焦げた家畜の死体のようなものが見える。

 臭い。

 死んだ家畜を横目に進む。

 すると。


「…………ルイスさん…………」


 牧場主の、ルイスさんがいた。

 死体になって。

 焼け焦げて。

 確実に、死んでいる。

 脂が焼ける匂いがする。

 臭い。


「…………はー…………ああ…………」


 ルイスさんには、だいぶお世話になった。

 アイリスは大食漢なのだ。

 食料がどれだけあってもすぐになくなってしまう。

 だから時々、買い物におまけをつけてもらったりもした。

 思わず、両手で顔を覆う。

 涙は出ない。

 少しして、顔を抑える意味などないことに気づく。

 俺が悲しんでどうする。

 悲しんだ所で、何も起きないではないか。

 死体が蘇って生者になったり、とか。

 起きるはずもない。

 ………とりあえず、捜索を続ける。


「誰かー………」


 大抵の建物は火事になっていた。

 既に鎮火しているものもあるが、いまだに燃え続けているものもある。

 派手に煙を上げているものも。村の外から見えたのは、これだろう。

 その中に散らばる、死体の数々。

 臭い。

 怖い。

 俺は、どこかおぼつかない足取りで村を進んだ。




 人の姿が見えた。

 ギルドだ。

 奇跡的に、建物の被害が少なかったように見える。


「おーーーーい!!そこの人ーーーー!?」


 叫んで呼んでしまった。

 ここに来るまでにどれだけ死体を見たと思ってる。

 ルイスさん含め、皆ひどい有様だったんだ。

 もしかしたら全員死んでいるかも知れないと思ってたんだぞ。

 だから、生きている人がいると知って嬉しかったんだ。


 だが、現実は非情であった。


「来るな!!」


 聞こえたのは、拒絶の声。

 聞き間違いじゃない。

 あれは、本気の拒絶だ。

 ギルドの近くにいた人物は、ちらりと俺の姿を見ると、恐怖の表情を浮かべた。

 そして、身を守るように1箇所に固まって、俺に相対するように身構えた。

 人々のざわめきの音。

 何か、噂されている。

 俺は混乱した。

 非常に混乱した。

 何故俺が拒まれなくてはならないのか。

 思わず、駆け寄る足を止める。


「私です!リリーです!」


 そう、俺は『リリー』だ。

 アイリスの娘。

 村の仲間。

 そのはずだ。

 なのになんでだ。


 何で、そんな目を向ける。

 なんでそんな、嫌な顔をする。

 何故だ。


「来るな!この村から、出ていけ!」


「なんでですか!?私が、私は、私はなにか、やりましたか?なにか、いけないことを、やってましたか?」


 俺を拒む理由はないはず。

 何故。


「………っ、とにかく出ていけ!ここに顔を出すんじゃない!二度とだ!」


 何故。

 訳が分からない。

 理由が説明されてない。


「どうしてですか!私は、この村の一員で、皆は、皆は、いつも優しくて、こんな、こんな………なんで……」


「どうしても、だ。早くしろ!」


 叫ぶ男の声に同調するような、その後ろの人々の声が聞こえる。

 そうだ、早くしろ、出ていけ。中にはいってくるな、絶対に。来ないで、来るな。

 とにかく俺を村の外に出したいようだ。

 だがその中に、一部、俺を心配するような、そんな声が混じっていることに気がついた。

 来ちゃいけない。ここに居るのは、駄目だ。

 外に、()()()んだ。早く。

 まるで助言か何かのように、言っていた。


 話が読めない。

 何故、サンカント村はこんな無惨な姿になっている。

 何故俺は入っちゃいけない。

 なんでそれが、俺にとってもいいこと、みたいになってる。


「理由が、理由がないと、私が!私が納得できる理由が、無いです!わからないです!」


 大声を出す。

 半ば怒りをにじませて、問い詰めるように数歩前に進む。

 混乱は収まらない。

 収まらないが、今度は怒りも感じた。

 俺の知らないところで、俺の排斥が決まっている。

 そして、それに対して、誰も異議を唱えない。

 当然のように、俺を追い詰める。

 それが『良い事』のような言い方をして。

 それが絶対に正しいのだと信じて。

 何故。

 私は、俺は、何もしてなくて、それなのに、そのはずなのに、どうして皆は、こんな、なんで、こんなふうに俺に、私に


 どうして。

 どうして―――

















 急に光が差した。

 比喩じゃない。

 文字通り、何かの光が現れた。

 まるで光が拡散せずに留まって、何かを形作るように、それは現れた。

 穴だ。

 地上から30センチほど浮いた、半径1メートルほどの円形のそれの中には、本来見えるはずのサンカント村の景色は見えなかった。

 その代わりに、鬱蒼とした暗い森と、いくつもの、こちらを覗き込むような顔が、有った。


「お邪魔だったかな?」


 宙に浮いた穴の中から男が―――癪に障る事に―――意気揚々と、騒ぎ合っていた俺たちに声をかけてきた。

 日本語だった。






 転移者達(元クラスメイト)だった。

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