2・颯太視点
その日は、ジメジメとした雨が降っていた。
テストの翌日ということもあり、みんな疲れた様子で授業を受けていた。
「おいオタク。ちょっと付き合えよ。」
「……ん?いや、俺男色家じゃないから。男と付き合うのはちょっと無理。」
こんなおかしな会話が聞こえてきたときはびっくりした。
声をかけたのは松川泰牙。
ケンカが強いことで有名な不良で、最近ボクサーにスカウトされたらしい。
声を掛けられたのは……名前は忘れたが、僕の前の席の生徒だ。
人と話している姿はめったに見ない。
そのせいか、クラスでは若干孤立気味になっている。
「……颯太。あれ、どう思う?」
これは、友達の佐河悠大だ。
いいやつなんだけど、こういういざこざを面白がる癖がある。
「どうって、知らないよ。逆に聞くけど、悠大はどう思うの?」
「俺か?そうだな……。多分だが、あいつは松川を怒らせるぞ。」
「へえ。なんで?」
「あいつの目を見てみろ。目の前の男など、眼中にないみたいだ。」
……確かに、はやく帰りたそうな顔をしている。
というか、すごく眠そうだ。
「松川みたいなタイプは、自己顕示欲が大きいからな。ああいった態度で接していると、きっといつか……。」
「……怒っちゃう?」
「そゆこと。」
なるほど、たしかに一理ある。
あの二人は、噛み合わない会話を続けている。
「ちょっと来いや」と言われれば、「長くなる?明日にしてほしい。」と言ったり、「昨日の話の続きをしてえんだけどよ。」と言われれば「誰と話すか知らないけど、頑張って。」と返したり。
天然なのかなんなのか、すごく煽るのが上手だ。
そんなこんなとしているうちに、ついに松川がキレた。
「ッてめえ!マジ殺すぞ!ふざけてんのか!?」
遠巻きに眺めていたクラスメイトでさえ、怯んでしまうような怒声。
しかし、その怒声を真っ向から浴びた彼は、迷惑そうな顔でこう言った。
「ふざけてんのは君の頭の方だろ?さっきから遠回しに帰りたいって何度も言ってるのに、なんでわかんないかな……。ほんと、バカなんじゃないの?」
これはやばい。
クラスメイトのほとんどがそう思った。
そして案の定。
松川はブチ切れ、渾身の右ストレートをそいつの首筋にきめた。
それと同時に。
教室の床が光りはじめ、僕達の姿は光に包まれるようにしてかき消えた。