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人外転生  作者: 雪鼠
19/21

19・埋葬

 穴を掘る。

 もともと家があった迷宮内には、地面が柔らかい土でできているところもある。

 残念ながら、家の周りには、畑ぐらいしか土でできた地面がなかった。

 その畑の土も、他のところから持ってきただけで、十分な深さがあるわけではない。

 仕方なく、家から離れた、迷宮の更に奥まで行って、土をほっている。

 これは、アイリスの墓だ。

 遺体を野ざらしにしておく訳にはいかない。

 そんなことはしたくない。

 だから、墓をつくってる。


「………………………」


 黙々と、ただ土を掻く。

 使うのは、両手で持つサイズのスコップだ。

 ……………そう言えば以前、アイリスがこれと同じようなスコップを、畑作業の時に壊していた。

 妙な方向に全力で力を加えてたから、根本からではなく木でできた柄の部分が壊れていた。

 のみならず、折れたスコップの刃がついている方を無理やり使い続けたことで、更に刃の平らであるべき部分が90度に折れ曲がっていたっけ。

 気づいたときにはもう遅く、我が家では修復不可能な段階まで破壊されていた。

 鍛冶屋の親父さんも、どうして土を掘って、あのスコップが折れたのか理解できなかったようだった。


「………………………」


 鍛冶屋の親父さんには、本当にいろいろ世話になった。

 いかにも堅気な職人さん、って感じで、最初は威圧感を感じたが、少し話してみれば本当にいい人だとすぐ分かる。

 本業は金属の加工であるにも関わらず、トイレの修理、壁の修理、窓の補強、垣根の作り方まで、様々なことを教わった。

 そのほとんどがアイリスが調子にのって壊した家具、または家そのものだったな、

 何やら、今から1年ほど前までは、こんなに頻繁に鍛冶屋さんにお世話になることはなかったそうだが。

 1年前…………。

 ちょうど、俺がアイリスに世話になり始めた時だな………。

 もしや、俺のせいか?

 いや、それはないな。

 俺の存在はあんまり関係ないだろう。

 多分。


「………………………」


「よし、できた」


 しっかりとした穴を掘ることができた。

 これなら、広さは十分だろう。

 アイリスの遺体を、中に入れよう。


 ゆっくりと。

 本当に、そっと静かに。

 アイリスを、そこに寝かせる。

 彼女の体に触れた手から、冷たさを感じる。

 ああ、死んでいるのだと、改めて思う。

 泣きはしない。

 涙腺がないから。

 正確に言えば、再現していないからだ。

 やろうと思えば目付近に体内の水分を抽出して取り出す器官を作れるが、そんなことをする意味はないので、しない。

 彼女はこれから、土に還る。

 ゆっくりと、だが確実に。

 もう二度と外に出ることはない。

 顔を、最後にしっかりと目に焼き付ける。

 忘れないように。

 深く深く、記憶して。


 そっと、土をかけた。




   ■ ■ ■




 簡単につくった墓の前で、手を合わせる。

 こんな簡素な墓しか作ってやれなくて、すまん。

 人に頼めば、もっと立派なものも作れたかもしれない。

 すまん。

 でも、俺自信の手で、作りたかったんだ。

 墓石は、あとから作る。

 名前も入れる。

 村の英雄、って彫ってやるよ。

 アイリスなら嫌がりそうだけど。


「……………さて、と。一旦、帰るか」


 そろそろ腹が減ってきた。

 気分もだいぶ落ち着いたし、腹ごしらえをするのも悪くない。

 というわけで、家まで歩いて帰る。


「…………………」


 家は………何度見ても、やっぱりボロボロだ。

 かろうじて台所は無事だが、修理は必須だろう。

 調味料とかの瓶も、砕けていたり、割れていたり。

 また買い出しに行かなくては。

 …………そう言えば、アイリスが料理したときも、こんな感じで台所が悲惨な事になってたな。

 あの時は、確か焼き魚を作ろうとしてたんだっけか。

 塩は床に散らばってたし、天井が焦げていたり。

 その努力の結晶である物体は、何故か液体状に溶けてたけど。

 黒焦げでも、生焼けでもなく、液体状。

 液体状。

 何度もいうが、液体状である。

 何があったんだろう。

 何を入れたらああなるんだろうか。

 俺の観察眼を持ってしても分からなかった。

 ………よし。

 魚を焼こう。


「………………」


 魚の焼ける、いい音がする。

 水分が一気に蒸発しているのだろう。

 それとともに、油の香りが立ち込める。


 ……………訂正。

 壁に空いた大穴から吹き込む風が容赦なく室内の空気を外に流し、さして香りが感じられない。

 やはり家の修理をしなくては。


 出来上がった料理を皿に載せ、食卓に置く。


「いただきます」


「………………」


 もぐもぐ。

 うん、我ながら、美味しい料理を作れたと思う。


「……………」


「……………」


「……………」


 …………視線が気になる。

 俺に対して、ではない。

 料理に対して、だ。


 先程からずっと、目の前の生物が俺の作った料理を虎視眈々と狙っている。


「……………食べる?」


「………………」


「………………」


「………………」


「……………欲しくないの?」


「………………」


 始終こんな感じである。

 食べたいのか、いらないのか。

 その生物の見た目は、人間。

 頭がひとつ、腕が2本で足も2本。

 顔面にはちっちゃな鼻とつぶらなひとみ。

 身長は俺とそう変わらない。

 多分、女。

 なかなか美形だ。

 成長したら、立派な美人になるだろう。

 ただ、身にまとっているのはボロだし、なんというか………顔が死んでるし。

 なにか事情があることを匂わせている。

 俗に言う訳あり、ってやつだろう。





 そして、驚くべきことに。

 その少女の額には、決して人間のものではない、可愛らしい角が生えていた。

 ちょっと視線をやれば、背中から生えたコウモリのような羽が目に入る。

 うん。

 こいつは、少なくとも人間じゃねえな。




 さて、こいつはどっから来たのだろうか。

 ファーストコンタクトは、墓を掘っていたとき。

 俺からほんの十数メートルほどしか離れていない場所で、じっとこっちを見ていた。

 俺はそれほど接近されるまでそいつの存在に気づかなかった。

 で、気づいたあとも特と言って何もしてこなかったので、無視を決め込むことにした。

 害を与えるつもりはなさそうだったし、俺は墓掘りで忙しかったからだ。

 そしたら、いつの間にか近づいてきてたんだよね。

 1分で1メートルくらい。

 それでもずっと無視を決め込んでた。

 そいつとの距離が1メートルにも満たないほどになっても、無反応でいた。

 そいつも俺と同じく無表情で、何考えてんのか分からなかった。

 ずーっと無言で、じーっとこっちを見て。

 ………俺の顔に変なものでもついてるのか?


 顔面なでなで。

 いや、何もついてないな。

 なんなんだ、こいつ。


 その後も俺についてきて、今こうして勝手に席についているわけだが………。

 なんなんだろう。

 何故こいつは俺についてきたんだろう。

 何故魔物の巣窟であるこの洞窟にいるのだろう。

 そも角と翼が生えたこいつの正体は?

 もしや魔族。

 でも敵意はなさそう。

 いやここは人間の領域、魔族がいるはずがない。

 俺を観察していた意味は一体。

 いつから。

 はっ、もしや神に向かって魔法爆撃してたときから?

 第三者から見たらあのときの俺は、死体を抱えながら叫びながら暴れる精神異常者にしか見えないぞ。

 うわあちょっと恥ずかしい。

 いや、そこを見てたら今こんなふうについてきてないか?

 


 そんな感じで答えの出るはずのない問を頭の中でぐるぐると考えて。

 焼き魚を食い終わる頃に俺の出した結論。


「貧血で今にも死にそうな顔色してるからとりあえず栄養と水分と休養を取れ」


 若干思考放棄気味ではある。

 事実、思考放棄である。

 こいつの素性等は聞き出すべきだったろう。

 だが、このときの俺は既に、アイリスの死やら勇者やら神との不毛なやり取りやらで頭が疲れていた。

 俺は、(中身は)一般的な高校生男児だ。

 スーパーコンピューターみたいに情報処理に優れた脳みそを持っているわけじゃない。

 小動物の保護、くらいの感覚で拾ってしまった。








 拾ってしまったのである。

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