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人外転生  作者: 雪鼠
16/21

16・俺の1日(終盤)

「子供って怖いね。なんかこう、節度っていうものを知らないから、いくらこっちが引腰でも、グイグイ来るんだもん。開始2秒で全員見つけられるようなかくれんぼをよく飽きもせずに続けられるなって思っちゃう。すっごく楽しそうだったけど、すっごく時間を無為に過ごしたと思った。で、悪意なくそれを強要してくるもんだから、なおさら質が悪い」


「そうね〜……確かに子供って怖いわ〜。常識というものを知らないから、こっちが当たり前に守ってくれると思っているモラルも、ためらいなく破っちゃうものね〜……本人が迷惑を自覚していないのが、またなんというか…………ホント、子供って怖いわ〜……」


 期せずして両者とも子供の恐ろしさを思い知ったところで、ようやく買い物タイムだ。

 まずは商人のアルさんの店にいく。

 アルさんは様々な商品を取り扱う割と裕福な商人で、本来ならこんな片田舎でくすぶっている人材ではない。

 平民から大商人に成り上がった、本物の実力者、というやつだ。

 ただ、出身がここ、サンカント村であるため、ここにも店舗を置いてくれているのだ。

 都市部から離れていると本当に欲しいものが手に入りにくいから、めっちゃ助かってる。


「アルさん、こんにちはー」


「おお、アイリスさんのところのお嬢様ですな!今日はお母様はご一緒ではないのですか?」


「いえ、一緒に来たのですが、先に鍛冶屋へ向かわせました。新しい剣を買いたいと言うので、鍋も一緒に買わせてみようかと。流石に鍋1つ買うのに、大きな失敗はしないでしょうし……」


「ハッハッハ!そうですな、流石に鍋1つでは…………そうでしょうな、流石にそんな失敗は………どうでしょうな………うーん……」


「やめてください不安になる」


「いえまあ、きっと大丈夫でしょう。いざとなれば、町から良いものを見繕って持ってきますよ」


「母のために手間をかけさせるわけにはいきません……でも、お気遣いいただき、ありがとうございます」


「いえいえ。お客様は、神様ですからね。サービスの一環ですよ。困ったことがあれば、いつでもお声がけください」


「はい、ありがとうございます」


 彼は恰幅のいい老紳士だ。

 ポコンと出ているお腹ときっちりと着こなしたスーツの対比が、見ていてなんとも面白い。

 何より人格者だから、村一番の人気を誇っていると言っても良いだろう。

 よくお菓子とかサービスしてくれるから、子供にも大人気。

 これはもうサービスの一環というより、ただただいい人なのだろう。

 多大なサービスと売上を両立するのは、並大抵の努力ではなし得ないだろう。

 ていうか、子供にも敬語を使えるのって良いよな。

 本当に紳士だよな、アルさん。

 こういう人に対しては、子供ぶらず、ちゃんとした敬語を使いたくなってしまう。

 さて。

 胡椒、胡椒……。


「あれ……アルさん、いつもの胡椒は?そういえば、他の商品もなんだか品揃えが少ないような……」


「そうなんですよ………最近、戦争の影響が物流にも及んできましてね。いろんな都市やら村やらが戦いの場になっているそうで……この村が戦場にならないだけでも、儲けものですよ」


「………ええ、そうですか………」


「いつものノール産の胡椒はありませんが、代わりにラング村のものならありますよ」


「ではそれを……うん、大瓶1つ分、ください。あと塩も、大瓶一杯分」


「大瓶1つですか?いつもの小瓶ではなく?」


「次にいつ買えるか、わかりませんからね。戦争の影響も怖いですし。多めに買って損はありませんよ。特に、アイリスが何にどんだけ使うか分かったもんじゃないし」


「ああ………」


「あと洗剤とかもまだありますか?買いだめしときたいので」


 嘘である。

 なんか経営苦労してそうなアルさんのために、多少なりとも利益を上げるためである。

 すまんなアイリス、貯金切り崩させてもらうぜ。

 アイリスにとっても、本望だろう。

 多分。




   ■ ■ ■



「これ、いい剣ですね〜。おいくらですか?」


「鍋を買うんじゃぁなかったのか?」


「あら〜、鍋を買ったあとじゃ、剣は買えないでしょう?先に剣を買わないと」


「……?それは、お金が足りないから両方は買えないってぇことか?だったら鍋を買わなきゃいけないんじゃないのか?剣は別に必要ってわけでもないんだろう?今腰に下げているものもあるんだし」


「剣なんてものは、いくらあっても足りないものなんですよ〜。家では満足な手入れも出来なくて、すぐに駄目になっちゃうし」


「……?毎日のようにこっちに来てるじゃないか。剣の手入れなんていつでもしてやるぞ?」


「………いい剣ですね〜本当に」


「まあ、それはともかく、鍋を買うんだよな?」


「……剣を買うんです〜」


「…………ああ、そうかい……」


(こうやっていつも、嬢ちゃんに怒られてんだろうな……コイツ(アイリス)……)




   ■ ■ ■




「500!」


「100!」


「いくらなんでもそりゃ酷い!550!」


「いくらなんでも高すぎる!50!」


「それじゃ商売になんねえな!600!」


「こっちも生活費がかかっているので!0!」


「それじゃタダになってんじゃねえか!しょうがねえ、450!」


「もう一息!250!」


「んンーここらが限界だ、420!」


「そう言わずにお兄さん、きっかり300でどうだ!」


「しょうがねえ、べっぴんさんに免じて今回は390だ!これ以上はもう無理だな!」


「もうちょいと行けるでしょうに、ハンサムなお兄さん?320!」


「いーや、390!ここは譲れねえな!」


「ふむ……では、2つではなく4つ買う代わりに、値段は650!これでどう?」


「フーム、おいらも商売人なんでね、720ではだめかい?」


「よっしゃ買った!」


「うっしゃ売った!」


 やー、値切るのって楽しいな。

 前世の日本ではきっかり値段が決まった商品しか売られてなかったけど、こっちじゃ話し合いで値段を決めるからな。

 いやはや、楽しい!

 人と会話するのがこんなに楽しいものだったとは!

 前世じゃ、ずっと下むいてた根暗ボッチな陰キャだったからな〜。

 きっと話しかけた人に妙なプレッシャーを与えていたに違いない。

 なんかね、顔を上げて目を見ながらハキハキと、っていう小学生の頃によく言われるプレゼンのコツが本当に効果あったのかと驚いてしまったよ。

 めっちゃお買い得だったわ。

 ラッキー。


「じゃ、またね〜」


「おうまたな、リリー!」


 挨拶だけ済ましてすぐに次の店に行く。

 アイリスの方はまあ、多分、大丈夫だろう。

 大丈夫じゃないと困る。

 それでは木こりのハイルのところへゴー。

 丁度いい木材はあるかな?

 我が家は洞窟内にあるから雨漏りの心配はないのだが、風が通ると寒いからな。

 今はもう秋も終わりかかっている頃だし。

 確かハイルさんちは……こっちだったかな。

 南の方へ歩き出す。

 田舎で過疎過疎してるから、同じ街の中でもあるきじゃ時間がかかる。

 ホントは車なんかがあれば楽なんだけどなぁ……。

 あるわけ無いか、こんな世界に。

 などとくだらない妄想をしながら歩いていくと、冒険者ギルドが目に入った。

 このギルドには酒場がくっついているため、昼夜問わず人の気配が絶えない、賑やかな場所だ。

 冒険者共のむさ苦しい笑い声に耳をすませていると、酒場から誰かが出てきた。

 むっ。

 見かけない顔だな。

 この村の人たちは金髪金眼の人が多いのだが、この男と女……まだ子供か?高校生くらいか……の髪は見慣れない黒だった。

 どこからか来た冒険者かな?

 観光品とか買って金落としてくれないかな……。

 …………ん?

 なんか、見覚えが有るような無いような……。




 …………あっ。

 えっ!?

 あっ!?




 元クラスメイトの…………。

 えっと、なんだっけ、ああそうだ!

 野口正義(のぐちまさよし)と、川上愛奈(かわかみあいな)だ!

 なんでここにいるんだ?

 てか生きてたんだ。

 どうやって暮らしてるんだろ。

 ギルドから出てきたってことは、冒険者か?

 他のクラスメイトも無事なのか?

 やっぱりこいつらは転生じゃなくて転移だったのか……。

 羨ましいなチクショー……。

 ……………………………。

 …………どうしよう。

 名乗り、出るか?

 俺も、クラスメイトだぞーって。

 集団転移でばらばらになったら、合流を目指すのがセオリーだよな……。

 でも、信じるか?

 こいつら。

 こんな見た目子供が、「私もあなた方転移者と同じ仲間ですでも私だけ転生したんです」なんて言っても、信憑性ゼロだろ……。

 てかこいつら、今どういう扱いを受けてるんだ?

 転移者だって表明してんのか?

 それとも秘密にしてんのか?

 仮にそのことを表明しているのなら、俺が今更何を言っても無駄か?

 ああ、噂を聞きつけた子供なんだなーって思われて終わりか……。

 この村にはそんな話は一切届いていないがね。

 じゃあ一方で、転移者であることを世間に伏せていたのならどうだ?

 おまえらが転移者であることを知っているぞ、といえば、同じ転移者、ではないが元クラスメイトだと信じてもらえるのでは?

 誰も知らないはずの秘密を知っている子供……うん、これなら信じてもらえそうだな。

 あ、でも待てよ……。

 万が一、俺が言ってることを信じてもらえなかったら、俺が元クラスメイトではないと思われてしまったら、俺は企業秘密ばりの重大な秘密を言いふらす子供になるわけだから……政治的な色々で、俺、消されるんじゃない?

 スパイ映画でもよくあるあれだ。

 秘密を知るものは何者であろうと消す、みたいな。

 ああでも、この機会を逃せば次に元クラスメイトたちに会えるのはいつになるか分からない。

 今のうちにコネクションを持っておかないと、もう一生会えなくなるかもしれない。

 でも、転生者を名乗れば政治的な問題で消されるかも……。

 ええこれどうすんの!?

 てかフツーに陰キャ時代の俺を知ってるやつとは話したくないんだけど?

 こんな幼女になりましたー、なんて言ったら絶対に引かれる……ヤダ……だめだ久しぶりに人が怖い。

 どうしよう、ああどうしよう……。


 俺が人知られず葛藤を脳内で繰り広げていると、野口と川上が早足で歩き出した。

 ちょっと、お前等待てや動くなや、少なくとも俺がこの葛藤の答えを出すまでは。

 願いも虚しく、彼らは早足に去っていく。

 えっ、どうするのこれ……。

 とりあえず、尾行する?

 そうしよう、うん。

 尾行したあとなど考えず、とりあえず今のところはついていくことにする。




   ■ ■ ■




 彼らはずっと歩き続けた。

 どこまで行くのかと訝しんだが、彼らはこのサンカント村から出ていってしまった。

 この近くに他に村はないし、この村に泊まっていくのかと思ったがどうやら違うようだ。

 野宿でもするつもりだろうか?

 しかし、それにしては荷物が少ない……。

 どういうことだろうか。

 彼らがどこまで行くのかだけ見届けよう。

 そうすれば、会おうと思えば明日の朝にでも会えるからな。

 彼らは楽しそうにおしゃべりしながら歩いていた。

 ずーっとずーっと、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……。

 キャッキャウフフと笑うんじゃねえ。

 くっそリア充め。

 爆発すればいいのに。

 まあでもそのおかげで、尾行している俺には気づいていないようだ。

 アイリス仕込みの尾行術、いつ使う機会が来るのかと思っていたが、まさかこんなところで使うとは。

 流石に彼らの話し声が聞こえるほど近くに行けば気づかれてしまうので、ある程度の距離を保ったままの尾行となる。

 人混みに紛れる、なんてことも出来ないし。

 こんな山奥で、日も暮れかけているのに子供がついてきてるなんて、違和感しか無いから、絶対に気づかれたくない。

 てかあいつら、全然後ろ見ないな……。

 山の歩き方もなってないし……。

 ははぁ、さてはアウトドア初心者共だな。

 だったら、もう少し近づいても大丈夫かもしれない。

 というわけで、一気に話し声が聞こえてくる距離まで近づいてみた。

 アイリスだったら絶対に気づいてる。

 でも、あいつらは気づかない。

 ほんとに鈍いな、こんなんで冒険者やっていけるのか?

 かろうじて話している声は聞こえるが、まだその内容は判別できない。

 むむむ、もう一息近づいて盗み聞きしたいところだが、流石に厳しいかな……。


 太陽が、ゆっくりと山に沈んでいく。

 赤い光が山の葉を照らし、まるで山が燃えているようにも見える。

 とても幻想的な光景だ。

 木の葉と同じく照らされた二人は、なんかいい感じの雰囲気に……。

 …………。

 ってこの野郎この女郎、人の目の前でいちゃついてやがる。

 ああまじで爆発しないかな……。

 爆裂魔法使えばいけるか?

 いや、距離があるし無理か……。

 いやしっかし、本当に見ててイライラするぜ、リア充共。

 早くこの不毛な旅が終わらないかな。

 てかもう帰ろうかな。

 日も沈んだし、いい加減アイリスも俺を探している頃だろう。

 あまり心配はかけたくないし、そろそろ帰るか……?

 あー、どうしよう……。

 ……………うーん………。

 うん!

 あと十分!

 十分尾行して、どこにも着かなければ帰ろう!

 と、俺がそう決意したのとほぼ同時に、前方から何やらいくつかの人影が近づいてきた。

 念の為少し距離を置く。


「……………………!」


「……………………?」


「………………………」


 ああ。

 男が2人と、女が3人。

 また、元クラスメイト達だ。

 顔がよく見えないけれど、多分そうだろう。

 黒髪黒目の人間はあまり多くない。

 この世界では、何故か黒以外の髪色の人間が圧倒的に多いのだ。

 彼らは何かを話し合っている。

 さっきからいちゃついていた野口と川上が質問されて、それに答えている。

 何を話しているのだろうか。

 あ、また歩き出した。

 これは……他のクラスメイト達も、ここ周辺に来ているのか?

 ふむ……。

 ま、皆を一目拝んだら帰るか。

 元気にやってそうだしな。




 今度は五分もしないうちに着いた。

 テントが張られた、こいつらの宿泊するところ。

 やはりと言うか、他の皆もいるようだ。

 おーおー、懐かしい顔がたくさん。

 彼らは薪を割ったり水を運んだりと忙しそうにしていたが、戻ってきた野口たちをみて作業を止め、わらわらと集まってきた。

 むっ、これは盗み聞きのチャンスだな。

 人数が増えれば見つかる可能性も高くなるが、人の気配が増えた分、目線にさえ気をつければ気づかれにくくなる。

 皆が集まったところの近くの木にのぼり、じっと息をひそめる。

 ここなら話し声も聞こえる。

 皆、無事だったのかな。

 ここにいない人もいるようだが。


「………本当にいたのか?」


「ああ、居たともさ。どうやら正体を隠していたようだが、川上の『完全鑑定』は誤魔化せない!」


 おお、と、その場が沸き立つ。

 え、なんなの、何がいたの?

 正体ってまさか…………俺のこと!?


「ああ、ついに見つけたのか、()()()()()!まったく、手間かけさせやがって」


「ええ、そうね。まさかこんな辺境にいるとは思わなかったわ」


 え?

 勇者?

 そんなやつ、うちの村には居ないぞ?

 一体、誰のことだ?







()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()








 ………………………………は?

 アイリスが勇者?

 偽名?

 なんのために?

 国を売った?

 戦争と何か関係が?

 でも、なんで?

 どういうことだ?

 ………………………?

 本当に、どういうことだ?

 前代勇者って……じゃあもう勇者じゃないってことか?

 定年退職したってか?

 いやまだ20なんだろ?

 なんで裏切り者みたいな言われ方をしているんだ?

 なんでこいつらは、やっと見つけた、みたいな話をしてるんだ?

 アイリスを見つけに来たってことは…………。

 それはつまり………。









「じゃあ早速、殴り込みにいくか?」








 …………ッ!?

 やっぱり、殺しに行くつもりか!?

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