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人外転生  作者: 雪鼠
15/21

15・俺の1日(中盤)

 魔法を使った際に、蜘蛛の体液が思いっきり俺の体に降りかかった。

 そりゃそうだよな。

 至近距離で爆発させたら体液が飛び散るに決まってんじゃん。

 何で俺は近づいてまで爆撃魔法を使おうとしたんだろう。

 普通に遠くから遠距離攻撃系の魔法使えば良かったじゃん。

 おかげで服を着替える羽目になったよ。

 ほんと、なに考えてたんだろうか、俺。


「何でリリちゃん、近づいてまで爆撃魔法を使ったの?おかげで服がこんなに汚れて……」


 やめろ。

 俺と全く同じことを考えんじゃねえ。

 心が折れるだろうが。


「せめて、遠隔の岩魔法とかだったら砂埃ですんだのに」


 やめて。

 全く同じこと考えないで。

 もうとっくに自覚してるんだよ。

 ここでさらに心を折りに来ないで。


「あら、リリちゃん痩せてるわね〜。お腹周りなんて肋骨が見えそうよ〜?もうちょっと筋肉つけないと」


「いや……この体は擬態の結果だから筋肉とかはあんまり関係ないんだって。あと着替えの最中にこっち見んな。さっき言ったよね?見ないでって。言ったよね?」


「言ってたわね〜」


「じゃあ見ないで?一応男だからね?」


 少なくとも精神的にはな。

 生殖器の再現は流石に気が重いからやってない。

 だから股関節のところには何もない。

 女性器も、男性器も。

 ……よく考えたら俺が女だという可能性もあるのか?

 スライムの性別ってどうやって決まるんだ?


「スキあり!相変わらずリリちゃんの肌は潤ってるわね〜」


「うわっ、急に飛びつくなよ……ちょ、服着れないから離れて。そんなにべったりくっつくこともないだろ……」


 アイリスが俺に抱きつきながら、ほっぺツンツンしてくる。

 子供か。

 ずーっとツンツンしてくる。

 親の仇かってくらいツンツンしてくる。

 ……いい加減鬱陶しいな。


「どうやったらこんなモチモチ肌になるのかしらね〜。透き通るようなほっぺた……あ、透き通ってる……」


「どうだ、擬態は解いてやったぞ。こうすれば抜け出せるに違いない」


「あら〜、考えたわね〜」


「……なっ、抜け出せないだと!?」


「フッフッフ、私から逃げ出そうなんて百年早いのよ!」


「……え、マジでどうやってんの?俺は今、液体同然のはずなんだけど……」


「フッフッフ……」


「いやフッフッフじゃなくて。……いい加減放してくんない?服着れない」


「フッフッフ……」


 最終的には懇願して放してもらった。

 アイリス、なんと恐ろしいやつ……。

 おふざけはそこそこにして、出発しよう。




   ■ ■ ■




「おっ、アイリスさんと、リリーちゃん!今日は一緒に来たんだね」


「……こんにちはアルバートさん……」


「こんにちは〜」


「今日も素材の持ち込みですか?すごい大荷物っすね」


「いえ〜、今日は依頼の受注と買い出しのつもりだったんですけど……。道すがらカララルノートンがいたものですからね〜」


「……カララル?」


「ああ、ビッグスパイダーのことですよ〜」


「ええっ、ビッグスパイダー!?……を、道すがら倒されたんですか?さすが()()()()()()!」


 悲しいことかな、俺は顔なじみの門番にすら女の子として認識されているのだ。

 じゃあ違う顔に擬態しろって話なんだけどね、そういうわけにもいかんのよ。

 最初にこの村に来た時、俺の擬態能力はそこまで優秀じゃなかったから、アイリスの見た目に即した擬態しか出来なかったのよ。

 5分に一回はアイリスの顔を見ないと、すぐに形崩れちゃうくらい。

 だから、アイリスから離れないように必死についていったんだよね。

 当然モンスターだとはバレたくなかったし。

 その様子が人々の目には人見知りな少女として映ったらしく……。

 そこで何を血迷ったかアイリスが「私の一人娘だ」と紹介しちゃったから、今更息子としてやり直すわけにもいかず……。

 かと言ってアイリスと全く関係のない人間として生きていくのは気が引けるし……。

 そういうわけで、俺の姿はこの見た目で固定しているのだ。

 小学生低学年程度の年齢の、アイリスの娘にしか見えないこの姿で。


 ところで。

 俺は勘違い系のラノベの主人公じゃないから、自分の能力について正しく理解している。

 仮にもモンスターだ、一般人とは筋力腕力その他諸々も違うに違いないということで、必死になって他の子供やら冒険者やらを観察した。

 大人ばりの腕力を発揮する小学低学年として注目されたくないからな。

 で、観察と実験を繰り返した結果、俺はやはりモンスターだったことが判明した。

 例えば酒場でたむろしている冒険者たちが開催した力自慢大会にて。

 筋骨隆々な成人男性が、安売りされてそうな古びた長剣を取り出した。

 何をするのかと見ていると、その冒険者は両手で剣の端と端を持ち、なんと腕力にものを言わせて折り曲げたのだ。

 本人は肩で息をしながらも満足そうに曲がった剣を酒場に掲げた。

 野次馬精神旺盛な冒険者達もこれには称賛の声を送り、酒場は一気に盛り上がったのだった。

 パチパチパチ。

 うんすごいすごい。

 でも俺はこの細腕で固結びに出来たけどな。

 割と余裕で。

 頑張れば蝶結びにもできるかと思ったが、こねこねいじくり回してたら金属疲労的なアレで折れちゃった。

 いくら安物とは言え、流石に小学生が素手で壊す事のできる剣は作っていないだろう。

 よって俺の腕力は並の冒険者よりは遥かに上である。

 腕力がそんな感じだから他の身体能力も推して測るべきだ。

 ではイメージしやすいように、一般的な身体測定に置き換えて説明してみよう。

 握力!

 金属製の剣を軽く折り曲げられた点を踏まえると、余裕で100キロ超えているのではないだろうか!

 ボール投げ!

 この前、家の周りによくいる狼っぽいモンスターに適当な石を投げたら胴体を貫通した!

 多分300メートルくらいはとぶ!

 100メートル走!

 例の狼の全力疾走に追いつけた!

 前世よりも体重が軽いから速い気がする!

 よく分からんが体感5秒!

 もっと速いかも!

 シャトルラン!

 以前アイリスと全力鬼ごっこした時、1時間ほど走り続けた!

 身体的にではなく精神的に疲れたのでその時はもう終わりにした!

 おそらく300回は余裕!

 因みにその時はアイリスが珍しく料理をしたいというので任せてみたら何故か鍋が爆散し、天井に穴があいた上にそのままフェードアウトしようとしていたので追いかけた!

 捕まえられなかった!

 長座体前屈!

 伸ばそうと思えばいくらでも伸ばせますが何か?

 人の原型留めないくらい伸ばせるよ?

 以下略!

 もうね、なんだろうね、このバケモノっぷりは。

 ウサインボルトさんなんて目じゃねえわ。

 トップアスリート余裕で追い越してんのよ。

 で、まあそんな子供がいるはずもないじゃん?

 地元じゃ有名な冒険者アイリスの隠し子ってだけで知名度はお腹いっぱいなのよ。

 だから俺は至極まともな子供を装ってんの。

 もう目立ちたくないから。

 目立って良いことなんてないと思うから。

 前世で有名だったことなんてないけど。

 そういうわけで、村では一人称も「私」だし、子供らしからぬ言動は控えている。

 だから、俺が倒した魔物の功績も全部、アイリスのものにしている。

 むっ、前方にガキンチョ共を発見。


「あっリリーちゃん!久しぶり!今鬼ごっこしてるんだけど、一緒にやらない?」


「……ううん、今日は()()()()と一緒に買い出しに行かなきゃいけないから……」


「あらリリちゃん、少しくらいなら大丈夫よ?まだ日も高いし」


 くっ、この野郎、じゃなかった、女郎(めろう)、楽しんでやがるな……。

 あ、めっちゃ笑いをこらえてる。


「やったやった!じゃあ、もう一回鬼を決め直そう!みんな戻ってきて〜!」


「え、リリーちゃん?」


「リリーちゃんだ!」


「この前は全然捕まえられなかったけど、今日は負けないからねっ!」


「……うん!よろしくね〜」


 ハッハッハ、子供は純真だなぁ。

 ナチュラルに俺のメンタル削って来やがるぜ……。

 こんな見た目でも俺は男なんだよ……。

 アイリスそっくりの小学生女児みたいでも男なんだよ……。

 ちゃん付けしないでくれ……。

 メンタル削れるから……。

 お願いだから……。




   ■ ■ ■




「こんにちは〜」


「おっ、アイリスか!今日も来たのか!もう金はたんまり持ってんだろー!」


「ちげえねえ!」


 ギャハハ、と野次が飛ぶ。

 ここは相当な田舎だが、冒険者協会のギルドはいつでも賑わっている。

 人口の少ないこの村が経済を回していけるのは、冒険者協会が素材の買い取りや一般依頼の整理などをこなしているからだ。

 冒険という、誰しもが一度は憧れるもの。

 それが職業として定着していることを、アイリスは常々不思議に、そして面白く思っている。

 このギルドは本来ただのギルドでしかないはずなのだが、ギルド長が勝手にカウンターを置き、酒場を始めたことで昼も夜も冒険者共のたまり場になっている。

 こういうところが、田舎の良いところだなぁ。

 アイリスはいつも、そう思っている。


「お金はいくらあっても足りないのよ〜、最近うちの子も食べざかりだからね〜」


「ん?リリーは今日一緒じゃねえのか。残念だったな坊主!お目当ての女がいなくってよ!」


「「アッハッハッハ!」」


 笑いの渦中にいるのは、1人の少年だ。

 年の瀬は16、いやそれよりも少し大人だろうか。

 汗臭い田舎のギルドには似合わない、白を基調とした高級そうな服と装備で身を固めている。

 隣には、同じ年頃の女子がいる。

 こちらもやはり高級そうな装備をしており、美しさを意識しているようにも見える。

 年頃の女子だ、オシャレに気を引かれるのもうなずける。

 ただ、冒険という血なまぐさい業種でお洒落をするのはどうかと思うが。

 この二人は恋仲なのだろうか。

 アイリスはそんな邪推をした。


「嫌だなおじさん、今日は別に女を探しに来たわけじゃないんだよ」


「……()()()?もしかして、本当に誰か女を探したことがあるの?」


「あるわけないよ。だってほら、もう十分にきれいな女性がいるんだから」


「……!そ、それってもしかして……私のこと?」


「フフ……さあ、どうでしょう?」


 ……彼がそれなりの好青年であることは確かだが、流石にキザにも程があるだろう。

 若干の悪寒が背中を走ったくらいだ。

 これがリリちゃんの言っていた、『現実でキャッキャウフフしてる奴らは爆発すれば良いのに』っていうやつね……。

 言っていた当初は訳が分からなかったけど、こういう事なのね……。

 たった今理解したわ……。


「……うちのリリちゃんはまだ子供よ〜?このべっぴんさんにはかなわないわ〜」


 一応軽口を叩いておく。

 冒険者は、強いメンタルがないとやってられないのだ。

 この軽口には、まさか自分より更に幼い子供|(少なくとも見た目は)を恋愛対象に見ている訳ではないだろうという若干の希望があったのだが……。


「いえいえ、女性は年がいくつであろうと立派なレディですよ。僕は、年齢によって女性の扱いを変えたりしませんから」


 と、少年はまたキザぶって言う。

 おそらくこの少年はあまり深く考えずにこの言葉を言っているのだろう。

 ああ、気遣いのできるオレ、かっけぇ、と。

 身振り口調からも、この少年がうぬぼれているのが分かる。

 が、しかしその言葉はリリーの見た目と、(自称している)実年齢を知っている者たちからすれば、『私はたった8才の子供ですら恋愛対象として見ています』という宣言に過ぎない。

 だって、目の前の女性に対してそんな感じなんだから、リリーに対しても?と。

 本人にそういうつもりがなくても、そういう意味にしか取れなかった。

 アイリスも、流石にこれには閉口した。

 強いメンタルが凍りついた。

 ギルドでバカ話をしている冒険者たちも、若干、引いている。

 そして決めた。

 この男の子には、極力近づかないようにしよう。

 この村でこんな少年は見たことが無いし、この装備でギルドにいるということは、きっと魔物か何かの情報を聞きつけて飛んできた外部の冒険者だろう。

 数日すればすぐにいなくなる、それまでの辛抱だ。

 娘同然のリリーを危険にさらさないためには、関わりを持たないのが一番だ。

 必要最低限の礼儀として無視はせず、乾いた笑いを返し、ギルドの受付に並ぶ。

 素材の買い取りだけしてもらって、早くここから離れよう。

 しかしそうは問屋が卸さかった。


「へえ……なかなか大きそうな蜘蛛ですね。女性にしては、結構お強いんですね」


 少年が絡んできた。

 それも、友人に対してするときのような馴れ馴れしさで、肩を組もうと腕を広げて。

 先程のアイアム変態宣言を聞いた後だと、どうしよう、どんな感情よりも恐怖が勝る。

 間一髪肩組みは回避したものの、少年は離れようとしない。


「おいあいつ、アイリスに絡みに行ったぞ……」


「す、すげえ……いっそ尊敬する。村の英雄に、初対面であれだけ馴れ馴れしく……」


「おい見ろよ、あのアイリスが若干怯んでやがる……?」


「す、すげえ……いっそ尊敬する……」


 変な尊敬を抱いてないで助けてくれ……アイリスは割と切実にそう願った。

 そのまま少年はベラベラと喋り始める。

 そう言えば僕も以前こんな蜘蛛を倒しました、これはなんて種類ですか、僕は当時四人程度の仲間と一緒に討伐しました、ちょっとだけ大変でしたけど四人もいればなんとか、あなたはパーティーは何人いるんですか、十人くらいですかね、すごくきれいな素材ですね、どうやって討伐しましたか、などなど。

 質問と自慢と妙な謙遜が入り混じった一方的なトークに、アイリスは早くも音を上げていた。

 だめだ……こういう、直接自慢はしないのにのに他人にすごいですねって言わせてそれからもったいぶって謙遜する輩が一番苦手だ……。

 せめてリリちゃんぐらいストレートな物言いでの自慢なら良かったのに……。

 リリちゃんが自慢したことないけど。

 いつも一方的に私が褒めてたっけ……。

 ああリリちゃん、ママは早く帰りたいよ……。


「えーっと、アイリス様、受付空きましたよ?」


「……あ、ありがとう。今日はこの素材の買い取りを」


 多少は人が並んでいたと思うのだが、どうやらみんなが道を開けてくれたようだ。

 ありがとう皆……!

 この恩は忘れない……!

 受付のギルド員と話し始める。

 これでようやく開放されるかと思いきや、なんとなんと。

 少年は未だにアイリスの隣に居座っているではないか。

 どうしよう。

 これは本気で引く。

 魔物の素材の買い取りは、日常茶飯事のこととは言え立派な商売だ。

 そこに部外者が首を突っ込むのはお門違いも甚だしい。

 知り合いならともかく、完全な部外者、初対面の人間が首を突っ込むのは、もう甚だしいとかそういう次元じゃない。

 世間知らずな箱入りの貴族の坊っちゃんでもこんな事しない。

 いや、貴族なら礼儀をわきまえているか……?


「えーっと、こちら、ビッグスパイダーの顎部と、足が四本でよろしいでしょうか?」


「あ、ハイ」


 言外に、「早めに済ませて……!」という願いを込めて、即答で短い返事をする。


「あ、では料金の方ですが……ビッグスパイダーは相当な大物で素材の買い取り価格が規定されていませんので、本来ギルド長をお呼びして審査を行うのですが……ギルド長は本日いらっしゃいませんのでお預かりのみ、という形でよろしいでしょうか?」


 ちらっと、ギルド長の方を見る。

 いないもの扱いをされたが、さっきから冒険者に混じって酒を煽っているだけだ。

 先程の騒動も聞いていたようで、私の視線に気づくとグッとグーサインを出してくれた。

 少年のこの様子だと、厳重な審査にもついてくるのではないかと思ったのだろう。


「はいお願いします。ではまた後日」


「ありがとうございました……」


 ありがとうギルド嬢……!

 ありがとうギルド長……!

 ひとまず助かった……。

 流石にギルドの外に出れば、追ってこないだろう。

 そう思って出入り口に向かってあるき出したのだが……。

 なんとびっくり。

 まだついてくる様子である。

 これは流石に引く。

 いやとっくに彼の無常識さには辟易しているのだが、されにそれに拍車をかけられた。

 一応、私は結婚済みの御婦人という体で通っているのだが、これはナンパとして捉えて良いだろうか?

 狙われているのだろうか?私。

 性的な意味で。

 色々と混乱を引き起こす最終手段「本気で泣き叫ぶ」を行使しようかと考えていると、そこにとある紳士がやってきた。

 いい年の大人であるにも関わらず、村一番のマセガキと名高い男、エドガーである。

 実は彼も割とセクハラだ何だと言われているのだが、それでもまだこの少年と比べると常識をわきまえた紳士である。


「ああ、待っていたよアイリス、早く僕達の家に帰ろう。僕達の育んだ、愛の巣に」


 …………………………。

 …………言い方に怖気と若干の吐き気がするのは変わらないが、この場にいる地元の冒険者たちは皆、エドガーがアイリスの夫ではないと知っているので、彼がアイリスを助けようとしてこんなふるまいをしていることを分かっている。

 演技をしているのだと分かっている。

 それでも怖気と若干の吐き気は止まらないが。

 そしてエドガーは、少年にきっぱりとこう言ってくれた。


「君はさっきから、()()アイリスにご執心のようだが、はっきり言うと、そういうのは迷惑でしかないんだ。()()アイリスのことは諦めて、そちらの可愛らしいお連れの女子と一緒に、今日のところはお引取り願えないか」


 …………………………。

 ………………………………………………。

 その言い方にやはり強めの怖気と吐き気がしそうになったが、ぐっとこらえる。

 エドガーは、私を守ろうとしているのよ、ナンパしようとしているのではなく。

 そう自分に言い聞かせ、少年の反応を待つ。

 これでもまだついてこようものなら、足の速さに物言わせて全力で家まで帰ろう。

 そう決意したのだが、さすがの少年もこれ以上は何か空気がおかしいと気づいたのか、


「わかりました……」


 といって諦めたようだ。

 そしてそのままギルド内酒場の席につく。

 え?

 ちょっと二度見した。

 あんだけ言われて、ギルド内の人々の視線を集めておいて、まだ居座る気か?と。


「……行きましょう、エドガー」


「……あっ、そうだね、マイハニー」


 仕方なくエドガーとともにギルドの外に出る。

 ギルドから見えなくなるまではひとまず同じ方向に進んで行った。


「えらく非常識なボーイだったね、彼は」


「そうね……もう今日の出来事だけで男性不審になりそうだったわ。何はともあれ、ありがとう、エドガー。助かったわ」


「礼には及ばないさ。困った女性を助けるのは、紳士の役割だからねっ」


「……………ええ、ありがとう。にしてもあの少年……」


 彼、常に翻訳魔法を使っていた。

 本人は隠しているつもりなのだろうが、微量に漏れている魔力に、アイリスは気づいていた。

 大陸の南側で言語は人族語に統一されているはずなのに、違う言葉しか話せないのだろうか?

 もしや、魔国カリムの方から来たのだろうか?

 いや、姿形はまごうことなき人間のものだった。

 偽装魔法も使っていなかったし、間違いない。

 ではあの少年と少女は、一体どこから来たのだろうか?

 ……わからない。

 なんとなく不気味な気分になりながらも、最後にエドガーに一言いってやらねばなるまい。

 いかに自分がかっこよくアイリスを救い出し、いかにあの少年が非常識だったかを、饒舌に解析して放しているエドガーに向かって。


「ああ、あの少年の言った、『あなたには出来ないでしょうが』という言葉には憤慨したね、全く紳士にあるまじき行為だよ。紳士たるもの、常に女性に対しては礼節を持って……」


「ねえエドガー、今の貴方って、さっきの少年とそう変わらないわよ」


「…………へっ?」




   ■ ■ ■




「じゃあ今度はニールくんが鬼ね〜!目をつぶって十秒数えて〜!」


「い~ち、に〜い、さ〜ん、………」


「隠れろ隠れろ〜!」


「ねえっ、木の上に登れば隠れられるかなっ?」


「私、リリちゃんと一緒に隠れる〜!」


「こっちに、絶対見つからないとこあるよ!」


「ね〜、崖の下って行っていいの〜?」


「……はーち、きゅ〜う、じゅう!も〜い〜かい!」


「まだぁ〜!」


「私もまだぁ〜!」


「リリちゃん?はやくかくれないと!ほら、はやっく、はやっく!」


「ちょ、もう、(精神的に)疲れた………おr……じゃなかった、私、休んでていい……?」


「え〜、もうちょっと遊ぼうよ〜」


「……はーち、きゅ〜う、じゅう!も〜い〜かい!」


「まぁ〜だだよ!」


「おれもまだぁ〜!」


「ほらリリちゃん、はやっく、はやっく!」


「ちょま、まって、ちょっと……ああ……………助けてアイリス……誰か助けて………」

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