98 魔法薬と魔女4
それから、作業を分担して魔花を探しに行きたいリズと、護衛としてリズの傍を離られないカルステンとの間で、誰が公宮へ報告に行くかについて大いに揉めた。
最終的にはカルステンが折れて、報告は御者に任せることにしたが、重大な報告を御者に任せることには、かなりの不満があるようで。
「もしかして……公女殿下。アレクシス殿下と顔を合わせたくなくて、逃げているんじゃないでしょうね?」
ほうきに二人乗りしている後ろで彼は邪推を始めたので、リズの操縦は大きく揺れた。
「ちっ……違う、そんなんじゃないよ……!」
「そうですか? かなり動揺していらっしゃいますが」
「そう……じゃなくて……。これはアレクシスを思い出しちゃっただけ……で……」
しどろもどろにリズが理由を話すと、後ろからくすりと笑い声が聞こえる。
(もう……。絶対に遊ばれてるっ!)
ぶすっとリズが頬を膨らませると、それが見えていないであろうカルステンが、リズの頭をポンポンとなでる。最近は護衛騎士としての距離を適切に守っている彼としては、珍しい行動だ。
「そういえば、ローラントから聞きましたよ。我が家の養女になってくださると」
「……話が進みすぎだよ。まだ、どうにかなるとも決まっていないのに」
この兄弟はどうしてそこまで、リズとアレクシスをくっつけたがっているのだろうか。
「それを抜きにしても、俺は殿下の兄になりたいですね」
「どうして?」
「俺達は気が合うと思いませんか? きっと何でも話せる兄妹になれると思いますよ」
カルステンとは本音をさらけ出す機会が多かったせいか、込み入った話もできる仲になった。カルステンが兄となれば、きっとリズの良い理解者になってくれるだろう。
「ふふ。そんなこと言ったら、アレクシスが妬いちゃうよ」
「残念ですが、夫と兄は両立できませんから、アレクシス殿下はどちらかを諦めなければなりませんよ」
もし仮に、フェリクスとの婚約を破棄した後で、その二択を選ぶ日が来たなら、アレクシスはどちらを選ぶのだろうか。
知りたいけれど、知りたくない。リズはその答えを考えないようにしながら、ほうきの操縦に専念した。
到着した湖は、普段は常駐している者がいないのでとても静かだ。
「おそらくこちら側は、ローラントも探していないはずです」
あの日、ローラントはやはり魔花を探しに行っていたようで、小さなブーケ程度の魔花をリズにプレゼントしてくれた。そのローラントが探していないであろう辺りを、リズとカルステンは捜索しようとしたが。
遊歩道に入ろうとした二人は、ぴたりと動きが止まる。
「遊歩道が舗装されてる……。アレクシス、本当に実行したんだ……」
「さすが公子殿下。仕事が早いですね」
仕事が早いどころの話ではない。この広大な敷地の遊歩道を全て舗装したなら、かなりの人員を投入したに違いない。
(アレクシスの過保護が加速してない?)
リズがすぐに、ここを再び訪れるとも限らないのにやりすぎだ。
しかし実際にリズが訪れる前に、舗装工事は完了している。アレクシスには、リズの行動を予知する能力でもあるのかもしれない。
遊歩道に入って魔花を探し始めた二人だが、見つけたのは枯れた魔花ばかりで咲いているものはなかなか見つけられない。カルステンは枯れた魔花を拾い上げて眉間にシワを寄せた。
「ピクニックへ来た日は、もっと見つける頻度が高かったのですが。数日でこれほど変わるものですか?」
その疑問は当然のことだが、魔花を見つけられない理由もリズには推測できる。
「本当なら魔力の減少期は、魔花がたくさん咲いている時期に起こるの。そして魔花は、空気中で足りなくなった魔力を補うために、地中から吸い取った魔力を、空気中に放出して枯れるって言われているんだぁ」
「それじゃ、これらは魔力を放出して枯れてしまったのですか?」
「たぶんね。今まではあまり気にならなかったけれど、魔花が少ない時期だとやっぱり目立つね……」
そして魔花が魔力を放出することで、魔力の減少期は収束すると言われている。
今のように魔花があまり咲いていない時期では、いつ収束するのだろう。リズは先の見えない不安に駆られる。
(もっと遠くへ、探しに行ったほうが良いかも……)
魔力の減少期はそれほど広範囲で起こるものではない。せいぜい大きな領地ひとつ分程度。公国にとっては国がひとつ分だが、国境付近までいけば影響は小さくなっている可能性がある。
それをカルステンに伝えようとリズが口を開きかけると、遠くからリズを呼ぶ声が聞こえてきた。
「リズ!」
「わぁ、アレクシスだ!」
頼りになる兄の登場に、リズは嬉しくなって駆け寄ろうとした。が、馬車でのカルステンとの会話を思い出して、急に顔が熱くなる。
おろおろしながら隠れる場所を探したが、あいにく遊歩道の脇は草地。なす術がないリズは、ふよふよと浮いていたメルヒオールを掴みとって穂先で顔を隠した。
「リズ……? メルヒオールがどうかした?」
急にメルヒオールを見せられる恰好になったアレクシスは、首を傾げながらリズの顔を横から覗き込んだ。
「へっ? メッ……メルヒオールの穂先は今日も可愛いでしょ?」
なんだかよくわからないが、穂先を褒められている。メルヒオールは自慢するように穂先をふりふりさせた。
「うん、そうだね。メルヒオールの仕草にはいつも癒されるよ」
穂先をアレクシスになでられたメルヒオールは、甘えるようにアレクシスに飛びつく。
せっかく隠れ蓑にしていた相棒がリズから離れてしまったので、リズは「あっ……」と声を上げた。
不思議そうにアレクシスに観察され、リズはますます居場所に困る。
すると後ろからカルステンが、楽しそうな声色でアレクシスに話しかけてきた。





