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96 魔法薬と魔女2

 カルステンと馬車に乗り込んだリズは、早く夕方にならないかなと思いながら、窓から空を眺めていた。

 今はまだ、お昼前。夕方までにはたっぷりと時間がある。今からソワソワしているリズを見て、カルステンが不思議そうに声を掛けた。


「公女殿下、何か嬉しいことでもございましたか?」

「ふふ。実は今日の夜に、アレクシスとデートするの」

「ほう」


 リズを観察するようにしながら相槌を打ったカルステンは、「お二人の間に進展でもございましたか?」と尋ねる。


「進展? 兄妹としての絆は深まったかな? アレクシスが前に『お兄ちゃん大好き』なままでいてほしいって言っていたから、私も『妹、大好き』なままでいてほしいって伝えたの」

「それは、つまり。お互いに想い人への気持ちを、伝えあったことになるのでは?」


 真剣な表情でそう指摘され、リズは「へっ……?」と間抜けな声をあげた。


「でっでも……、兄と妹だよ。『大好き』って言い合っても、普通はそうならないでしょう?」


 焦るリズに対して、カルステンは「はぁ」と溜息をついた。


「お二人は血の繋がりはございませんが、現状は兄妹です。直接的な表現を避けなければならないご関係の場合には、遠回しに伝え合うんです。貴族の常識です」

「うそ……。そんなの知らないよ。バルリング伯爵夫人から習ってないよ……! それに、本当に兄妹としての愛情表現とごっちゃになっちゃうじゃない。見分けがつかないよ……?」

「それは、その時々の雰囲気でご判断ください。殿下はどのようなタイミングで、大好きでいてほしいとお伝えしたんですか?」


 カルステンがまるで恋愛の先生のようなので、リズは素直にその時の状況を説明する。すると、カルステン先生からの明確な回答があった。


「他の令嬢からのラブレターを読まれたくなくて、そのような発言をなさったのでしたら、そのまま愛の告白をしたようなものではありませんか」

「そんな……」


 あの時のリズは、単にアレクシスを独占したいという欲に駆られただけ。

 妹以上に見てほしいという気持ちが、なかったわけではないが、告白のつもりでの発言ではない。


「アレクシス殿下は、どのようなご反応でしたか?」


 さらに先生からの質問があり、リズはあの時の状況を思い返す。


「私の気持ちはしっかりと受け止めたと、いつものように過剰に喜んで……。それから私に抱きついてきて、デートしようかって……」


(あれ? これって、告白して両想いになった二人が、初デートする流れじゃない?)


 アレクシスがいつもどおりの反応だったので気が付かなかったが、流れだけをまとめると、リズにも理解できる。


「どうしようカルステン……。私、アレクシスに告白しちゃったの? アレクシスはそのつもりでデートに誘ってくれたの?」


 自分の気持ちも整理できていないのに、展開が早すぎる。リズは涙目になりながら先生に縋る。

 カルステン先生は、優しく生徒を見守るような視線をリズに向けた。


「これはあくまで、俺の推測ですから。本心は、ご本人からお聞きください」


(途中で生徒を見捨てるなんて、先生失格だよ……!)




 浮かれていたリズの心は、カルステンのせいで一気にハラハラ落ち着かないものへと変わった。


 リズは前世を含めて今まで味わったことはないが、初めて相手に思いが伝わった直後は、落ち着いて座ってなどいられないほど嬉しかったり、未知の関係になることへの不安などで、心の中がぐちゃぐちゃになるらしい。リズは今、その状態に近いと言えよう。


 しかもリズは、相手の気持ちを確かめていない。勘違いだった際のことを考えると、本当に落ち着いてなどいられず。

 こんな気持ちに誘導した張本人に向けて頬を膨らませていると、カルステンは窓の外を見て「おや?」と声を上げた。


「魔法薬店の前に長い列ができていますが……。今日はまだ、開店日ではありませんよね?」

「えっ? 違うけど。どこどこ?」


 リズはカルステンと一緒になって、窓の外を覗いてみた。彼の言うとおり、魔法薬店の外には長蛇の列ができている。あの人数を捌くには何時間もかかりそうだ。


「みんな、体調が悪そうだね。風邪が流行る時期には早いし、何かの病が流行しているのかな……」

「そういった報告は、公宮には上がっておりませんが……。とにかく、ここは危険です。公宮へ戻りましょう」


 カルステンが御者に引き返すよう合図を送ろうとしたので、リズは「待って!」と彼を止める。


「ミミも困っているだろうし、お店の様子を確認しようよ」

「しかし、公女殿下を危険には晒せません。どうしてもとおっしゃるのでしたら、俺が確認してまいります」

「大丈夫。魔法薬店に並んでいるってことは、きっと魔法薬で治せる病気なんだよ。ミミと直接話したいし、私も行くね」


 リズは立ち上がろうとしたが、カルステンに両肩を掴まれて元に戻される。


「いけません。ミミさんは俺が連れてまいりますので、殿下はこの馬車から一歩も出ないでください」


(カルステンの庇護欲が発動してる……)


 こうなると、リズではなかなか彼を止められない。

 忙しいところ悪いが、ミミには馬車に来てもらうほかないようだ。



 しばらくしてカルステンが連れてきたミミは、馬車の中へ入るなり泣いてはいないが泣き声を上げながら、リズに抱きついてきた。


「うぇ~ん、リズちゃんやっと来てくれたぁ!」


次話は、日曜の夜の更新となります。

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◆作者ページ◆

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