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93 婚約者と魔女2

 シンっと静まりかえった会場でフェリクスは、周りの動揺している雰囲気など気にも留めない様子で、エディットを招き寄せた。


 困りながらもエディットは、フェリクスの隣へと立ち。リズとフェリクスの婚約を祝う宴だというのに、三人が並ぶという奇妙な構図が生まれた。


「エディット。そなたを、俺の側室として迎えたい。受け入れてくれるだろう?」

「あの……。父に相談してみませんと……」


 エディットにとっても、側室の話は寝耳に水だ。

 いずれ、フェリクスと結婚したいとは思っていたがそれは当然、リズとの婚約が破棄となった後であり、正妻以外の形でなど夢にも思っていなかった。

 それにエディットはフラル王国の王女。王女が側室として嫁ぐなど、父である国王が許すはずもない。


「今は、そなたの気持ちが知りたい。俺を受け入れてくれるならば、国王が納得できる交渉材料を用意しよう」


 幾多の女性を虜にしてきたであろう甘い微笑みを浮かべたフェリクスは、それからエディットの耳元に顔を寄せて囁く。


「岩塩抗の採掘権を取り上げられたくなければ、おとなしく従え」


(うそっ! 今、脅したの?)


 横でそれを聞いていたリズは、驚いて二人を交互に見た。

 リズと違いエディットとフェリクスは、本当に心惹かれ合っているように見えたが。そのような相手にも彼は、圧力をかけるようだ。


「……王女殿下」


 心配しながらリズが声をかけると、エディットは弱弱しく微笑んだ。


 母国にいた頃のエディットは、岩塩抗が国民にとってどれほど重要なものか知らずにいたが、アレクシスによって常識を叩き込まれた今のエディットなら、その重要性を理解できる。


 これは愛がある求婚ではない。単に利益のための政略結婚だ。

 そしてフェリクスがこの結婚で得ようとしている利益は、リズからの嫉妬心。ただそれだけのために、フェリクスはこれだけの騒ぎを起こしているのだ。

 彼とベッドを共にしたエディットは、嫌と言うほどそれを実感していた。


 けれど、アレクシスが明かしてくれたことが事実なら、リズとフェリクスの婚約は破棄される。アレクシスは詳しく話してくれなかったが、魔女の力によるものだと従者が感心していた。


 アレクシスの言葉は常に正しい。そう思っているエディットは、側室は逆に有利ではないかと判断した。

 リズとの結婚が叶わなかった日には、フェリクスは側室であるエディットを正妻に据えるはずだと。


「フェリクス様のお望みのままに」


 エディットは吹っ切れたように、柔らかな微笑みを浮かべて側室の提案を受け入れた。

 そんなエディットを抱きしめつつ、フェリクスはリズへと視線を向けた。


「寛大なそなたなら、側室に異存はないだろう?」

「はい……。お好きにどうぞ」


 ここまでしてエディットを繋ぎとめておきながらも、彼は来世のためにリズとの結婚を望むようだ。

 こんなことをしても、エディットの心すら手放してしまうかもしれないのに、不憫な人だ。


 リズはこの状況に同情心を抱きながら了承すると、やはりフェリクスは不満の色を滲ませる。

 それを振り払うように、彼が次に視線を向けたのは公王とアレクシスだった。


「公国側も構わないだろうか。そういえば公子は、エディットと親しかったようだが……。もしかして俺は、公子の邪魔をしてしまったかな?」


 勝ち誇ったような態度のフェリクスに怒りを覚えたのは、アレクシスよりも公王だった。

 事情を知らない公王は、アレクシスはエディットと婚約するつもりで公国に連れてきたと思っていたのだから、当然のこと。


 しかし、側室を否定することは公王にはできない。それをしてしまえば、アレクシスとアレクシスの母を否定することになってしまうのだから。


「……公国としても、王太子殿下が側室をお迎えになることを、心よりお祝い申し上げます」


 公王は(うやうや)しく頭を下げたが、それに倣う貴族は一人もいなかった。

 アレクシスに恥をかかせながら、エディットを奪ったように見える今の状況は、公国を侮辱されているに等しかったからだ。

 今までは貴族達も私生児のアレクシスを侮ってきたが、皆が敬愛するフェリクスに公国ごと侮辱されるのは、裏切られたような気分だ。


「公子も何か言いたいことはあるか?」


 意地悪くわざわざ尋ねるフェリクスに対して、アレクシスはこの会場にいる誰よりも冷静に見えた。


 予定とは随分と異なってはいるがアレクシスの思惑どおりに、フェリクスはエディットを奪いにかかったのだから。

 ただアレクシスとしては、エディットの今後が心配ではあった。


「エディット殿下は、僕の大切な友人です。不幸にだけはさせないでください」

「言われずとも、誰よりも(・・・・)幸せにするつもりだ」




 このような状況でも、リズとフェリクスはファーストダンスを踊らなければならないようだ。貴族達の冷ややかな視線を浴びながら、リズとフェリクスは会場の中央へと移動した。


(さっきの言葉って、私よりも幸せにするって意味だよね)


 フェリクスは何をしたいのか、ますますわからなくなったリズは、ぼーっと考えごとをしながらフェリクスとのダンスを踊っていた。

 すると突然、振り付けには無いタイミングで腰をぐいっと引き寄せられたので、リズは驚いてフェリクスを見上げた。


「急に何するんですか」

「おい……。そなたはなぜ、俺の足を踏まないんだ」

「はいっ?」


(まっまさか、フェリクスにもそんな趣味が……?)


 リズと踊る男性は揃いも揃って、なぜ足を踏まれたがるのか。

 小説には書かれていなかったが、この世界の男性にはそういった嗜好が標準装備されているのかもしれない。リズはぶるっと身震いした。


「えっと……。ご希望でしたら、お鍋のお礼に踏みましょうか?」

「……わざとは止めろ」


 どうやら偶然に踏まれるのが良いらしい。特殊嗜好すぎてリズはついていけない。


次話は日曜の夜の更新となります。

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