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87 ピクニック魔女4


「その件につきましては、兄から詳細を伺いました。俺はリゼット殿下を、ご主人様としてお慕いしております。混乱させてしまい、申し訳ございません」


 ローラントの心にあるのは、それ以上の恋愛感情。しかし、これからも護衛騎士を続けたければ、身の振り方をしっかりと考えろ。と今朝、カルステンに指摘を受けたばかり。


 ローラントとしても、リズの絶対的守護者であるアレクシスに、勝てるとは思っていない。だからこそ舞踏会の日は、アレクシスに気持ちをぶつけて、それで諦めるつもりだった。


 けれど、リズへの感情はそう簡単には消えてくれない。アレクシスと話せば対抗意識が湧いてしまうし、リズの言動に一喜一憂してしまう。


 それでもローラントは、決意を固める時が来たと感じながら、無理やり微笑んでみせた。


「そっか……。ローラントはもしかして、私のことが好きなんじゃないかと、ひとりで勘違いしちゃったよ」


 照れ笑いするリズを目にして、ローラントは思わず身を乗り出してリズの手を掴む。


「リゼット殿下は……! そう感じられた際に、どう思われたのですか?」

「えっ? もちろん、もしそうなら嬉しかったよ。でも……」


 リズは考え込みながら、言葉を続けた。


「私に恋愛はまだ、少し早いというか……。アレクシスがお兄ちゃんなだけで満足というか……」


 リズにとっての人生で最大の目標は、フェリクスとの婚約を無事に回避し、火あぶりにならないこと。本来なら恋に悩む年代だが、そんな心の余裕は今までなかった。


 けれどアレクシスと出会ったことで、知らず知らずのうちにリズの心にアレクシスへの特別な感情が芽生え始めていることは、自分でも気づき始めている。その感情すらも、兄として大好きなのか、それとも異性としての感情なのかも曖昧ではあるが。


 ローラントはゆっくりとリズから手を離すと、彼お得意のイケメンスマイルを見せた。


「リゼット殿下がアレクシス殿下と結婚なさるためには再度、貴族家の養女になる必要がございます。うちの両親は娘に恵まれなかったので、きっと喜ぶでしょう。もちろん俺も、リゼット殿下が妹になってくだされば嬉しいです」

「ちょっ……! ローラント何言ってるのよっ」


 リズはあたふたしながら、周りに人がいないか確認した。幸いにも近くで聞いている者はいなかったが、湖を回ってカルステンがこちらへ来るのが見えた。


「公女殿下ー! 魔花を見つけたので、採取しておきましたよー!」


 大きく腕を振っている先には、貴重な魔花の束が握りしめられている。それを目にしたリズは、大きく瞳を輝かせた。


「わぁ! ありがとうカルステン!」


 そろそろ魔花の咲く時期も、終わり頃。ここは人の出入りがあまりない場所なので、まだ残っていたようだ。

 フェリクスが魔法陣を付与してくれたお鍋のおかげで、これからは万能薬を大量に作れる。来年は魔花をたくさん採取しなければと思いながら、リズはカルステンから魔花を受け取った。


「剣にしか興味がない兄上が、魔花を知っているなんて……」


 ローラントは、非常に驚いた様子だ。カルステンがリズの護衛を始めた頃は、雑草とハーブの区別もつかない状態だったので無理もない。


「お前がいない間、俺が毎日のように公女殿下のためにハーブを採取していたからな」


 カルステンは得意げにそう話す。するとローラントは、すくっとその場に立ち上がった。


「兄上は見回りでお疲れでしょう。次は俺が見回りへ行ってきます。ではリゼット殿下、失礼いたします」

「あっ、うん。行ってらっしゃい」


 話の途中だったが、カルステンもいるし仕方ない。

 リズが手を振ってローラントを見送っていると、カルステンはぼそっと呟いた。


「あいつ……。魔花を探しに行ったな」

「まさか。ローラントは真面目だよ?」

「そうだと良いのですが」


 やれやれと呆れた表情でカルステンは弟を見送るが、リズは杞憂だと思いながらティーポットを手に取った。


「それより、見回りお疲れさま。お茶でも飲む?」

「公女殿下が淹れてくださるのですか? 今日は最高のピクニックですね」


 カルステンはニコニコしながら、リズが勧めるままに敷物へと座る。そしてリズが淹れたお茶を嬉しそうに飲み、リズが勧めたクッキーも遠慮なく食べ始めた。

 同じ兄弟でも二人は性格が正反対だ。その対比を面白く思いながらリズが見つめていると、カルステンはおかわりのお茶も飲み干して一息ついたのか、リズに視線を向けた。


「ところで公女殿下は、皆様と散歩へお出かけにならなかったのですか?」


 カルステンは到着してすぐに見回りへ出てしまったので、あのやり取りは見ていない。


「う~ん。なんとなく、別行動のほうが良いかなと思って」


 関わりたくないと、はっきりは言えないリズはそう答える。するとカルステンは、にかっと笑みを浮かべた。


「俺もこちらへは何度も来たことがありますので、よろしければご案内いたしましょうか?」

「わぁ。うれしい」


 日向ぼっこも悪くはないが、大自然に来たからには満喫したい。リズは期待を込めて、カルステンへとうなずいた。


年末年始は少なめの更新で失礼いたします。

次話は、日曜の夜の更新となります。

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