表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/117

86 ピクニック魔女3


 しばらくして、アレクシスとエディットは、仲良く手を繋いで湖へとやってきた。

 それをいち早く迎えたのはフェリクス。彼はアレクシスをけん制するかのように、エディットの空いてるほうの手を握った。


「エディット。湖の周辺を散歩へ行かないか?」

「わぁ! 嬉しいですわ。フェリクス様」


 喜んだエディットがフェリクスの方へと歩み寄ろうとすると、アレクシスが引き止めるようにエディットの手を引く。


「エディット。ここに詳しいのは僕だよ。僕が素敵な場所へ案内してあげる」

「あっ、ありがとうございます。アレクシス殿下」


 二人に誘われて、困った様子のエディット。彼女は皆で行こうと提案するも、フェリクスとアレクシスは不満な様子で、お互いをけなし合い始めた。


(わぁ……。本当に『鏡の中の聖女』みたい)


 そんな様子をリズは、敷物に座ってクッキーを頬張りながら、ぼーっと見学していた。まるであの小説が、実写化されたような気分だ。


 アレクシスよりもフェリクスのほうが体格が良いせいか、こんな時はやはりヒーローである彼のほうが、存在感があり、映える。

 それでもリズが目で追ってしまうのは、兄であるアレクシスだ。


(アレクシスのあれは、演技なんだよね……?)


 フェリクスがいる間、アレクシスはエディットと恋人同士を演じるつもりだと、リズは聞いている。

 小説の内容を全て把握しているアレクシスの分析によると、フェリクスは当て馬役のものを欲しがる傾向にあるらしい。そんなフェリクスの性格を利用して、エディットに興味を持たせるつもりなのだとか。


 アレクシスの作戦は順調そうだが、あまりに彼の演技が上手いので、本当にエディットのことが好きなように見えてしまう。


 少しばかり心のモヤモヤを抱えていると、エディットはちらりとリズに視線を向けた。


「あの……。公女殿下も、ご一緒に散歩へ行きませんか?」

「私は少し休みたいので、お構いなく」

「そうですか……」


 この三人に混ざるのは、普通に遠慮したい。リズは厄介事を避けるように断った。

 すると、残念そうな表情を浮かべるエディットをかばうように、フェリクスが蔑むような視線でリズを見下ろす。


「そなたは聖女とは似ても似つかぬ、冷たい性格のようだな。それに比べてエディットの優しさは、聖女を思い出させる」


 やはり今日のフェリクスは変だ。いくらエディットに興味を持ったからといって、これほどあからさまにリズへの態度を変えるだろうか。


(やっぱりこの小説は、ヒロインらしくない私を見限って、エディットをヒロインにしようとしているんじゃ……?)


 それならばリズも、身を引きつつエディットを立てたほうが、すんなりと婚約回避できるかもしれない。


「私もそう思います」


 にこりと微笑みながらフェリクスの言葉に賛同してみると、なぜか彼は目に見えて怒りを露わにしながら、エディットを引っ張って散歩にへと出て行った。


(自分から私をディスっておいて、なんで怒るの?)


 頬を膨らませながら、三人が小さくなるのを見届けていると、ローラントが片膝を地面につけてリズと視線を合わせた。


「リゼット殿下の、今のお気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか」

「急にどうしたの?」

「殿下のお考えは、俺の予想をはるかに超えますので」

「ふふ。なにそれ、私は普通だと思うけど」


 リズは隣に座るようローラントに勧めるも、真面目な彼は「護衛中なので」と地面に膝をついた状態を崩さない。

 ならばとイタズラ心が湧いたリズは、ローラントの口にクッキーを押し付けた。


 彼は恥ずかしそうにそれを食べてから「皆の前で、困ります」と下を向く。連れてきた他の使用人達も、準備を整えつつもピクニックを楽しんでいる。誰も注目してはいないだろうに、人の目が気になるようだ。


 お酒を飲んでは自由奔放に振舞うローラントだが、いつもは人一倍恥ずかしがりな性格。


(やっぱり私の護衛騎士は、可愛いな)


 久しぶりにその姿を見られて満足したリズは、先ほどの質問に答えた。


「フェリクスってば王女殿下が気にいったなら、そう言えばいいのに」

「王太子殿下の伴侶は、聖女の魂を持つ方と決まっておりますから、そうもいかないのでしょう」

「それって義務的だよね。『鏡の中の聖女』は、魂同士が惹かれあうところが素敵だと思っていたんだけどなぁ……」


 お互いへの気持ちだけでは説明できないような、魂レベルでの繋がりを感じられるのがこの小説の魅力でもあった。しかし実際にヒロインとしてフェリクスと出会ったリズは、一度もヒーローに対して運命を感じるような感情は生まれていない。

 推しに出会えたことで初めこそドキドキしたが、すぐにフェリクスの言動にがっかりしてしまった。

 彼との婚約は不可能だと、初めから諦めていたせいもあるだろうが、本当に魂同士で惹かれあう関係だったなら、そのような感情など些細なことだったはず。


「ところでローラントに、聞きたいことがあったの」


 気分を変えるようにリズが話題を変えると、ローラントは爽やかに微笑んだ。


「俺に答えられることでしたら、誠心誠意お答え致しますよ」

「実は昨日……、ローラントがね。私に対する気持ちを、話してくれたんだけど……」


 ローラントの「慕っている」という言葉を、リズはずっと忠誠心からくるものかと思っていたが、さすがに昨夜のように吐露されては、意識せずにはいられない。

 真相を確かめようとして尋ねてみたが、ローラントは一瞬にして緊張したような表情を浮かべる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ