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81 隣国での公子2


 翌日。アレクシスは日課となってしまっている、第三王女エディットとのお茶会の場にいた。

 綺麗に手入れされた庭園。二人だけのためにセッティングされた豪奢なティーセットと、溢れんばかりのお菓子の数々。それらを見ただけで、アレクシスは胃がもたれてくる。


 仮に相手がリズならば、いくらでも甘やかしてお菓子を食べさせたり、お茶を淹れたりする気にもなるが、実際の相手は傲慢な王女。彼女のためには、指一本動かす気にもなれない。

 アレクシスが機嫌悪く座っていると、エディットは扇子を広げて顔を半分隠しながらアレクシスを睨んだ。


「公子殿下はもう少し、女性を喜ばせる手段を学ばれてはいかがですの? 私はとても退屈だわ」

「退屈でしたら、お開きに致しましょう。赤の他人である僕のために、王女殿下が無理をなさる必要はございません」


 アレクシスが立ち上がろうとすると、エディットは急に顔色を変えて扇子を閉じる。


「私はただ、殿下ともっとお話したいだけですわ! お願いですから、席をお立ちにならないでくださいませ!」


 懇願する彼女を見下ろしたアレクシスは、小さくため息をつきながら席に座り直した。

 こうして冷たい態度を取れば、エディットは必死になってアレクシスを引き留める。父親同様に、それが彼女の任務のようだ。


 さっさとここから退席したい気持ちはあるが、ローラントが証拠を掴む前に、アレクシスも少しは情報収集しておくつもりでいる。

 エディットが動揺してくれたので、尋ねるなら今が良い機会だ。何から尋ねようかと思っていると、庭の奥からガサガサと、何かを引きずる音が聞こえてきた。


「アレクシス殿下。証拠を押さえてきましたよ」

「早かったね、ローラント」


 植木の陰からローラントが姿を現すと、次に彼が引きずっているものが目に入る。フードを目深にかぶった人物は、手足を縄でグルグル巻きにされており、文字通り引きずられなければ移動できない状態だ。


 お茶会に似合わぬ物騒な状況が作り出されたので、近くで待機していたエディットの侍女達が悲鳴を上げる。それに反応して、離れた場所で待機していた騎士達が慌てて集まり始めた。


 そんな状況を気にする様子もなくローラントは、引きずってきた人物をアレクシスの横に転がした。

 その直後、集まってきた騎士達によって、ローラントは取り押さえられてしまう。


「無礼な! この者は誰ですの公子殿下!」


 憤慨するエディットを面白そうに見つめたアレクシスは、フラル王国へ来て初めて、王女に向けて笑みを浮かべた。


「彼は僕の護衛騎士なので、離してやってください。それから、地面に転がっている彼について。僕はこのまま話しても構いませんが?」


 ひとまず開放されたローラントが、連れてきた人物のフードを剥ぎ取る。その顔を確認したエディットは、青ざめた表情で騎士や侍女達を下がらせた。


「ご理解が早くて、感謝致します」


 アレクシスはお茶を一口飲んでから、エディットに向けてにこりと微笑む。彼女は表情を隠すように再び扇子を広げたが、その手が震えているのをアレクシスは見逃さなかった。


 騎士を下がらせたことから見ても、今回の件はあくまで国王と王女が秘密裏に画策したことのようだ。


「ローラント。報告を頼む」

「はい、公子殿下。殿下もご存知のとおりこの者は、公女殿下のお披露目がおこなわれた舞踏会の際に、ドルレーツ王国から派遣された使節団の者です。昨夜、手紙の配達員とこの者が、林の中で手紙の受け渡しをしている場面を目撃しました。不審な点があったので、取り押さえたところ――」


 ローラントは懐から、手紙の束を取り出した。手紙にはしっかりと、アレクシスの印章で封がされている。


「それは僕が、妹へ送った手紙のようだね。――王女殿下に、お尋ね致します。フラル王国では、王族の手紙が盗難に遭うほど、治安が悪いのでしょうか?」

「いえ……。そのようなはずは……」


 エディットは声を震わせながら、伏目がちにそう答える。


「では、この事件は特殊な例のようですね。この者が他国でスパイ活動をしていたことは、ご存知でしたか?」

「…………」


 それにつては、答えたくないようだ。

 アレクシスはローラントに目で合図して、話を続けさせる。


「公子殿下の手紙は、フラル王宮の者が配達員へ、直接手渡していました。王宮内にスパイの協力者がいるのは、確実のようです。顔は覚えておりますので、すぐにでも調べられます。確か、殿下が国王陛下へ謁見した際におられたような……」


 ローラントはちらりと、エディットに視線を向ける。目が合ったエディットは、びくりと身体を震わせてうつむいた。


「国王陛下に近しい者が、ドルレーツのスパイと通じていたなんて。僕はこの国がとても心配だ。王女殿下もそうでしょう?」

「…………」


 これでもエディットは、話したくないようだ。

 ローラントなら確実に口を割らせる手段を持ってきてくれただろうと思い、アレクシスは再びローラントに視線を向ける。


「スパイ活動は重罪です。フラル王国の情報も盗まれているのではと心配になった私は、この者のアジトも捜索しました。幸い、国に関する情報は盗まれていないようでしたが、公子殿下と同じ被害に遭われた方がおられたようです」


 ローラントは懐からまた手紙の束を取り出すと、アレクシスへと差し出した。手紙を受け取ったアレクシスは宛先を確認すると、獲物を捕らえたような目つきでエディットを見据えた。


「ドルレーツの王太子殿下へ宛てた手紙のようですね。王女殿下」

「どうしてそれが……!」


 エディットは、恨むようにドルレーツの密偵を睨みつけたが、彼は無言を貫くつもりなのか、ずっとうつむいたままだ。

 それを見ていたアレクシスは、わざとらしく大きなため息をついた。


「手紙を盗まれた王女殿下は、さぞお辛いことでしょう。ですが、僕もとても悲しいです。こちらの手紙は、綺麗な装飾の封筒にリボンまでかけられている……、僕へ送ってくださった求婚の手紙とは、大違いですね」

「そっそれは……。深い意味などございませんわ……」

「そうでしょうか。将来、貴女の夫になるかもしれない僕としては、今から心配です。嫉妬に狂って、この手紙を読んでしまいそうだ」

「嫌ぁ~! 止めてぇ~!!」


 顔を真っ赤にさせて立ち上がったエディットは、よほど恥ずかしい内容を書いたようだ。からかいがいがある人だと思いながら、アレクシスは穏やかに微笑む。


「僕なら、王太子殿下と王女殿下が結ばれるよう、お手伝いできますよ。正直に全て話してくれたら、ですけどね」


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