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77 打ち明け大会魔女1


「えっ!? これはその……フェリクスが……。断る隙も与えてもらえずに……」

「へぇ……。そういえば、名前で呼び合っているんだね。僕がいない間に、随分あいつと仲良くなったみたいだ」

「それはお鍋の対価というか……、成り行きでどうしようもなく……」


 言い訳にしか聞こえない事実を聞いたアレクシスは、ぶすっと顔を歪めるとリズの両肩を掴んだ。


「気に入らない。今すぐ、それを脱がしても良い?」

「ばっ……馬鹿! なにってんのよ!」


 シャンパンで酔ったわけでもないだろうに、アレクシスの目は完全に座っている。危機を感じたリズは、アレクシスの腕を掴んで抵抗した。


 そんな兄妹の様子を、横から笑う者がいた。


「帰国して早々、兄妹喧嘩ですか?」

「あっ。ローラントとカルステン!」


 アレクシスが帰ってきたということは当然、一緒にいたローラントも帰ってきたのだ。彼も、兄であるカルステンとの再会を果たしていたようだ。


 リズは笑顔で迎えるも、なぜかアレクシスとローラントは同時にため息をついた。


「やはり手遅れみたいですよ、殿下……」

「だから、最速で帰りたかったんだ……」


 二人が落ち込んでいる理由が、全くわからない。リズは困りながらカルステンへと視線を向ける。カルステンはバツが悪そうに、小声でリズに話しかけた。


「俺はまだ、死にたくないって言いましたよね」

「うん……? それは覚えてるけど」


 あの時カルステンは、それまでの行いをアレクシスには秘密にしてほしいと願っていた。そして名前呼びは、彼が望んだこと。つまりリズは、カルステンを名前で呼んではいけなかったのだ。


「わぁぁごめんなさい。そこまで考えが、及ばなかったよ……」

「いえ……。事前にお止めしなかった俺も悪いので、お気になさらず。ただもうお会いできそうにないので、永遠の別れを告げさせてください……」


 リズの前に並んでいる三人が、ずっしり重い空気を背負っている。

 名前を呼んだだけでどうしてこうなったのかと、リズは頭を抱えた。




 困ったリズは、三人と順番に踊りながら事情を聞き出すことにした。

 アレクシスとローラントの主張としては、剣などの勝負で、今まで一度もカルステンに勝てたことがないらしく、カルステンとは勝負したくないのだとか。

 そしてカルステンとしては、アレクシスを応援したいが、アレクシスはカルステンに対して冷たいので、上手くいかないらしい。


 事情を聞いてもますますよくわからないが、つまりリズがカルステンの名前を呼んだことで、カルステンを応援していると取られたようだ。


「みんなを平等に応援するから、安心して!」とリズは慰めてみたが、アレクシスとローラントは頭を抱えてため息をつくばかり。


「俺の気持ちにはすぐに気が付かれたのに、なぜ今は気が付けないんですか?」

「だって、剣の勝負はよくわからないし……」


 そうリズが答えると、カルステンもため息をついた。


 ちなみにローラントはダンス中に、リズに足を踏まれなかったこともショックだったのだとか。特殊な嗜好を持ち合わせているのは、アレクシスだけではなかったようだ。


 泥酔に続いての特殊嗜好の発覚。リズの中でのローラントのイメージは、大きく変わったのだった。






 波乱に満ちた宴はなんとか終了し、客人用宮殿へと戻ったリズ達。この宮殿の管理者であるヘルマン伯爵夫人が捕らえられてしまったので、宮殿内は重苦しい雰囲気が漂っていた。


(フェリクスは、私のお願いを聞いてくれるのかな……)


 真相を解明させるために求めた彼の交換条件は、リズと婚約し王国へ連れ帰ることだった。けれど結局は、半分しかフェリクスの望みは叶っていない。


 リズの考えが正しければ、フェリクスはストーリーどおりに進むよう操作している。そんな彼からヘルマン伯爵夫人の無実を勝ち取るには、リズが彼に歩み寄るしかなさそうだ。


(明日のお茶会で、フェリクスを満足させなきゃだよね……)


 不本意ではあるが、前世を映す鏡を見るまでは、彼と良好な関係を築いていたほうが得策だ。これ以上ストーリーを変えたことで、誰が不幸にならないためにも。





「さぁ、みんな。夜食のスープでも飲んで、元気出してよ!」


 今日はリズも疲れたし、三人もよくわからない理由でお疲れのようだ。

 疲れている時は、コレに限る。『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』をせっせと作ったリズは、三人を部屋へと招待して振る舞った。


「リズのスープ。ずっと飲みたかったんだ……」


 アレクシスは瞳をうるうるとさせながら、丁寧にスープをすくったスプーンを口へと運ぶと、嬉しそうに「美味しい」と微笑んだ。


(ふふ。アレクシスってば、いつもおおげさなんだから)


 そこが、この兄の可愛いところでもある。リズもニコニコしながら、アレクシスがスープを飲む姿を観察する。


「リゼット殿下のお傍に帰ってこられたと、実感が湧きますね。スープがない日々は、本当に苦痛でした」


 ローラントとアレクシスは、ずっとリズのスープを飲めなかったことで、疲れが取れなかったのだとか。

 二人は、「リズの愛情が入っているからだ」と喜んでいるが、実際にこれは魔法薬のレシピで作ったもの。そういえば二人にはまだ話していなかったと、リズは思い出す。


 しかし、この状況では真実を話しにくい。リズは苦笑いを浮かべながら、カルステンに視線を向けた。

 彼は、我関せずという感じで黙々とスープを飲み、おかわりに手を付けようとしたところを、アレクシスに睨まれた。


「ところで、隣国訪問はどうだったの? 連絡が取れないほど、忙しかったの?」


 リズが尋ねると、アレクシスはぴたりとスープを飲んでいた手を止めた。


「それより僕は、リズとカルステンがどう過ごしていたかのほうが気になるよ。詳しく、教えてくれるかな?」


(あ……。まだこの話、続くんだ……)

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◆作者ページ◆

~短編~

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溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

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