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57 留守番魔女1

 アレクシス達の見送りを終えたリズは、臨時の護衛騎士となったカルステンと共に、公宮の敷地内にある図書館へと向かっていた。

 天気が良いので散歩がてら歩いてきたが、先ほどから世間話をしているカルステンの横で、リズは浮かない顔で歩いている。

 とうとう見かねたカルステンは、リズの顔を覗き込んだ。


「公女殿下。アレクシス殿下が旅立ってしまわれて、もうお寂しいのですか?」

「あっ……。話しかけてくれていたのに、ごめんね……」

「それはよろしいのですが、今からこのような状態では心配です。僭越ながら俺が、アレクシス殿下の代わりに兄役を務めましょうか?」


 にかっと笑みを浮かべたカルステンは、どうやらリズがアレクシスと離れて落ち込んでいると思っているようだ。

 カルステンの予想どおり、アレクシスがいなくてリズは少し不安に思っている。今朝は、相談したいことがあったのだが、出がけに心配させるわけにはいかないので、アレクシスには話せないまま別れてしまったのだ。


「心配させちゃって、ごめんね。実は、変な夢を見ちゃったから、気になってて」

「怖い夢でも、ご覧になったのですか?」

「怖い夢ではないけれど、この本のヒロインになったような夢だったの」


 リズは、返却するために持参してきた『鏡の中の聖女』の本を、カルステンに見せた。


 夢の中に出てきたのは確かに、この本に出てくるヒロインとヒーローだったが、小説よりも歳を取った三十代くらいに見えた。


『あなたの玩具になるのは、もう嫌なんです……。私の魂をあなたから、開放してください……』

『あの魔術師から何を聞いたのか知らないが、言いがかりはよせ。俺はどの世でも、お前の魂を愛している』

『あなたのそれは、愛とは呼ばないわ。私の魂を弄んで、楽しんでいるだけじゃない』

『意味がよくわからないな。俺はどの世でも、お前を不幸から救い出し、幸せな結婚をさせてやっている。そんな俺を、好きだと言ったのはお前だろう』


 このような場面は、この本になかった。

 小説の中では、幸せな結婚をしてハッピーエンドを迎えたというのに、なぜ夢の中のヒロインは悲しんでいるのか。

 単なる夢に意味はないが、この本のヒロインはリズの前前世でもある。つい、夢の内容に意味を求めてしまうのだ。


 カルステンは本をじっと見つめると、何かを察したように微笑んだ。


「婚約式までは、王太子殿下とお会いできませんからね。待ち遠しくて、そのような夢を見られたのですか?」


 呑気にそのような推測をするカルステンは、リズについての事情を、アレクシスやローラントからは聞いていないようだ。それならばリズも、余計なことは言うつもりはない。


「そうかもしれない。騎士団長は、王太子殿下にお会いしたことある?」

「ございますよ。かなりの男前なので、期待していてください」

「わぁ。そうなんだぁ」


(そういえば、小説の展開が変わったからヒーローとはいつ頃、出会うんだろ?)


 小説ではこの時期、舞踏会に使節団として参加していた密偵が、ヒロインを虐めていた者の調査をしている頃だ。その調査が終わってからヒーローは、予定になかった公国訪問をおこなう。


(公国へ来るのは、今から二ヶ月後くらいの予定だけれど、私は虐められていないから、来ない可能性のほうが高いよね?)


 リズがそう考えていると、カルステンはわざとらしく悩むように腕を組んだ。


「公女殿下がそれほど、婚約式を楽しみにしておられるのでしたら、俺は今からアレクシス殿下への、お慰めの言葉を練っておく必要がありますね」

「慰め?」

「公女殿下が王国へ嫁がれたら、さぞ悲しまれて、寝込むかと思いますので」

「ハハハ……。その時は、アレクシスをよろしくね……」


 リズは嫁ぐ予定はないけれど、もしそうなったらアレクシスは本当に寝込みそうだ。さすが幼馴染は、アレクシスをよく理解している。



 カルステンと話したおかげで、リズは少し気分が晴れた。それでも、なんとなく夢の内容が気になるので、『鏡の中の聖女』シリーズをさらに三冊ほど、図書館で借りてみた。

 リズは前世でもそうだったように、最新巻から読む癖がある。今回借りたのは、リズにとっては前前世よりもさらに前、三~五回ほど前の人生についての話だ。




 その夜。リズは侍女達に誘われて、リズの部屋で寝間着パーティーなるものを体験した。

 皆で寝間着で集まり、お菓子などを広げて会話を楽しむ。お茶会よりも、リラックスした雰囲気の会だ。この国の貴族令嬢達は、よくこのような集まりをするらしい。


 普段のリズは、アレクシスのために夜食を作り、その後は寝る時間までアレクシスと一緒に過ごすことが多い。そんなリズが寂しくないよう、侍女達は気を遣ってくれたのだろう。


 初めはリズを虐めようとしていた侍女達が、いつの間にかここまでリズを心配してくれるようになった。リズは彼女達の気持ちに感謝しつつ、楽しませてもらうことにした。


「公女殿下、『鏡の中の聖女』はいかがでしたか?」

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