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53 お出かけ魔女2

 リズとアレクシス、それからローラントを乗せた馬車は、公宮の門を抜けて街の中心部へと向かう。

 馬車の中では、三人で他愛もないおしゃべりに花を咲かせていた。今までのローラントなら、職務に専念すると言って御者台に乗っていたので、リズとしては少し不思議な感覚でもある。

 しかしこの二人が幼馴染らしく会話している姿は、見ていて気持ちが良いものだ。


 舞踏会を終えた、次の日。二日酔いに苦しむローラントに、リズがスープを作ってあげた際、ローラントは話してくれた。リズの後押しのおかげで、今まで抱えていた感情をアレクシスに伝えられたと。

 伝えた言葉は、決して良い感情ではなかったけれど、アレクシスが受け止めてくれたことに感謝しているようだった。


 ちなみに、アレクシスやリズに抱きついた件は、本人は覚えていなかったらしい。後から知って慌てる姿は、なかなか可愛いものであったと、リズは思い出して思わず微笑む。


「リズどうしたの? なにか、嬉しいことでもあった?」

「ううん。二人が仲良さそうに話しているから、舞踏会を思い出しちゃった」

「リゼット殿下……。あの日の俺のことは、どうか記憶から消し去ってください……」


 ローラントは、がくりと項垂れると大きな手で顔を隠す。しかし、隠し損ねた耳が真っ赤だ。自分の護衛騎士は可愛いと、つくづく実感するリズだが、甘えている姿を忘れてほしいという気持ちは、実によくわかる。


「ごめんね。もう思い出しても、顔に出さないよう努力するから」

「リゼット殿下がまた、思い出してしまわれるかもと思うだけで、俺は死んでしまいそうです……」


(ええ……。そこまで?)


「公子殿下が羨ましい」と訴えてみたり、手を繋いでほしそうにしてみたりと、ローラントは元々、甘えたがりな性格に見えるが。それでもあの日の甘えは、本人的にはアウトだったようだ。


「もう思い出さないから、安心してよ。ローラント」


 なだめるようにリズがそう伝えると、なぜか隣に座っているアレクシスが、リズの両肩を掴み、目を合わせてくる。


「そうだよ、リズ。あんなことを覚えておくなんて、記憶の無駄遣いだ」


(なんでアレクシスまで、忘れたがっているんだろ……?)


 リズが首を傾げていると、馬車は目的地へと到着したようだ。


 


「ここが、目的地だよ」


 アレクシスに手を貸してもらいながら馬車から降りたリズは、目の前にある大きな建物に目を向けた。一階はお店のようだが、今はまだ工事中。そこから視線を上に向けたリズは、目を見開いた。


「魔法薬の店……リゼット……。え、待って。何これ、聞いてないよ?」

「魔女の薬は、万能薬の他にもさまざまな種類があるんだろう? 万能薬以外は商会で買ってもらえないから、個人取引していると聞いてね。それで、お店を作ってみようってことになったんだ」


 魔女の森にいる魔女達は、身体の異常を治す一般向けな薬から、媚薬のような特殊な薬まで、さまざまな薬を研究開発している。基本的に魔女の薬は、切実に必要としている者が、人目を盗んで魔女の森まで買いに来るものだ。

 どうやらアレクシスは、そんな魔女の薬を手軽に売買できるお店を作ってくれたようだ。


「わぁ……、すごい。この件も、うちのお母さんとの手紙で?」

「うん。リズのお母さんには、魔女達との橋渡し役になってもらったから、今度お礼をしなければね」


 リズが知らぬ間に、アレクシスと母の間でこのような計画まで進んでいたらしい。アレクシスの行動力に、リズは改めて感心する。


「でも、お店を作っても、お客さんは来るのかな……」


 魔女の店に出入りしていると知られれば、周りから噂される懸念があるはず。だからこそ人々は、こっそりと魔女の森へと来るのだ。リズが心配しながらそう呟くと、アレクシスはリズを店内へとエスコートしながら微笑む。


「公宮から医者を派遣して、症状にあった薬を提供するつもりだから、薬が安全であることの保障になる。騎士も常駐させるから、嫌がらせを受けることもないはずだ。公国が後援しているとわかれば、人々も安心して訪れると思うよ」

「そんなことまでしてもらって、大丈夫なの?」

「すでに公王の許可も、取ってあるんだ。万能薬の供給を五倍に増やすには、それなりの設備が必要だと話したら、すぐに予算を割いてくれたよ」

「あっ。舞踏会の時の約束……。だからお店の名前が『リゼット』なの?」


 公王がリズに、『リゼット』と名乗ることを許可してくれたのは、リズが国を健康面で支えてきたという実績を認められたからだ。


「うん。リズの名前を店名にすることで、公王が養女を大切にしていると見せられるしね」


 実際に、リズを可愛がっているのはアレクシスだが、国民の目には『公王が魔女である養女に、店まで持たせてやった』と見えるのだろう。


 すでに建物を確保し工事を始めているということは、アレクシスは舞踏会の前からこれを準備していたことになる。アレクシスはよほど、公王との交渉に自信があったようだ。


 リズが、感心することしかできないでいると、店の奥から「第二公子殿下、公女殿下、ようこそおいでくださいました!」との声と共に、商会長であるバルト男爵がやってきた。

 なぜ商会長がここにいるのか。リズが首を傾げると、アレクシスがリズに向けて微笑んだ。


「リズ。この建物の買収と工事費用は、バルト男爵が善意(・・)で出してくれたんだよ。そして、店の管理から、魔法薬に必要な物資調達まで、全て商会が低額(・・)で請け負ってくれるそうだ」


(お金に執着している商会長が、善意でそんなことをしてくれるなんて……)


 リズは、疑いの目で商会長を見る。すると商会長は、リズの考えを察したかのように、照れ笑いした。


「いやぁ! 公女殿下にはこれまでお世話になりましたので、少しでも御恩をお返ししたいと思っております!」


 相変わらず調子のいい商会長を見て、リズはふと舞踏会でのアレクシスの発言を思い出す。

 アレクシスは確か、商会長には報いを受けさせると言っていた。きっと、これが報いなのだろう。


 ここは、街の一等地のような場所だ。建物の買収には、さぞお金がかかったはず。

 お金儲けが大好きな商会長にとっては、厳しい罰になったようだ。

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