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52 お出かけ魔女1

 リズの部屋にて。書類を読んでいるアレクシスの横で、リズは読書に励んでいた。

 以前、「アレクシスの隣が一番安心できる」と言ったリズの言葉を、拡大解釈したアレクシスは、仕事場を執務室からリズの部屋へと移動させ、一日中リズの部屋に入り浸っている。

 リズもそんな兄を受け入れ、最近は隣で読書するのが日課となっていた。


 最近、読み始めたのは、リズが転生したこの小説の世界を舞台にした『鏡の中の聖女』。リズがヒロインの巻はさすがにないが、その前までの巻はこの世界にも全て揃っている。今後の役に立てばと思い、こうして読み進めていた。


「ねぇ、リズ」

「なぁに?」

「先ほどから僕は、リズのクッションになっている気がするんだけど」

「えへへ。そうだよー」


 アレクシスは、どれほど甘えても嫌な顔ひとつしないので、リズも最近では甘え放題に甘えている。アレクシスにぴったりとくっついて読書すると、彼の安らぐ香りに包まれてとても心地良いし、温かいのだ。


 しかし、アレクシスが指摘したということは、体重がかかって重かったのかもしれない。

 リズは兄から離れようとしたが、なぜかアレクシスによって身体を持ち上げられ、膝の上に乗せられてしまう。来年には成人であるリズを、軽々と持ち上げたことに驚きつつ、リズはアレクシスを見た。


「急に、なに……」

「僕と一緒にいるのに、あいつの本を読むのは止めてほしいな」


 アレクシスは、リズの手から小説と取り上げる。


(なにそれ……。当て馬役の本能?)


「わかったから。下ろして……」

「リズが兄をクッションにするなら、僕だって妹をクッションにする権利があるよね?」


 目的は、そちらだったようだ。アレクシスは、リズをクッションの如く、ぎゅっと抱きしめる。


「そっ、そうだけど……。もうクッションにしないから、許して……」


 アレクシスが何も言わないからといって、さすがに甘えすぎていたようだ。仕返しされてリズはやっと気がついたが、アレクシスは離してくれない。


「しばらく会えないから、もう少しこのままでいさせて」

「え……。どこかへ出かけるの?」

「用事で、隣国へ行かなければならないんだ。すぐに戻るから、良い子で留守番していてね」

「うん……。気をつけて行ってきてね」


(しばらく、アレクシスに会えないのか……)


 宮殿に住み始めてからアレクシスとは、一日も離れたことなどない。急に寂しさがこみ上げてきたリズは、アレクシスの背中に腕を回して、自らも彼に抱きついた。アレクシスは、仕返しをしたわけではない。別れを惜しんでいたいたのだ。

 アレクシスの温もりを忘れないようにと全身で感じていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「ひゃいっ!」


 驚いたリズは、跳びはねるようにして、アレクシスから離れて立ち上がった。その様子がおかしかったのか、アレクシスにクスクスと笑われてしまう。


「リズ、慌てすぎ」

「だっ、だって……」


 アレクシスは、私生活を使用人に見られることは慣れているだろうが、リズはそうではない。ましてや、べったりと兄に甘えている場面など、他人には絶対に見せられない。

 余裕な態度のアレクシスに、悔しさを感じながらリズがソファに座り直すと、アレクシスの侍従が部屋へと入ってきた。


「公子殿下。店側から、『見学は問題ない』との返答が参りました。馬車の準備も、すでに整えてございます」

「ありがとう。すぐに出かける」


(また、出かけちゃうのか……)


 午前中もアレクシスは本宮へ行っていたようだし、今日の彼は忙しそうだ。リズは少し寂しく感じる。

 しかし、立ち上がったアレクシスは、リズへと手を差し出した。


「リズに、見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの……?」

「本当は、完成してから見せるつもりだったけれど、僕がいない間の気晴らしになればと思ってね」

「わぁ……! なんだろう」

「とにかく、ついてきてよ」


 アレクシスは、いない間のリズのことまで考えていてくれたようだ。リズ胸の高揚を感じながら、兄の手を握って立ち上がった。


次話は、日曜の夜に更新となります。

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