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44 公女魔女14

「実は薬のことで、リズのお母さんと手紙のやり取りをしているうちに気がついたんだけど、リズが作った量に比べて、公宮へ納品される数が極端に少なかったんだ」


(アレクシスがお母さんと……?)


 リズが知らぬ間に、アレクシスと母は随分と親しくなっていたらしい。母はリズの代わりに、万能薬についての詳細をアレクシスに話してくれたようだ。


「それで調べているうちに、商会が万能薬の九割を、違法に他国へ売りさばいていたことが発覚したんだ」

「えっ。九割も……?」


 ジトっと商会長を見やると、彼は照れたように頭を掻く。


(そこ、照れるとこじゃないから!)


 母の国民を思いやる気持ちを考えれば、横流しはひどい裏切りだ。 


「それで五倍に増やしても、余裕ってことなのね……」

「うん。違法とはいえ、他国への供給を切るのは影響が大きいから、五倍で手を打つことにしたんだ。今後は正式な手続きをおこなって、取引してもらうつもりだよ。商会には、他にも報いを受けてもらうつもりだから、安心して」


 つまり商会長は、アレクシスに弱みを握られたために、ここに引きずり出されて協力する羽目になったようだ。

 商会長はいつも『気味の悪い魔女の薬を買ってやっている』と、事あるごとに値切ろうとしていたが、その裏では私腹を肥やしていたらしい。

 今までのやり取りを思い出すと、リズは怒りしか湧きおこらないが、こういうことに厳しいアレクシスなら、きっといいようにしてくれるだろう。


「不正まで暴いてくれて、ありがとうアレクシス。お母さんの頑張りも少しは報われるよ」

「リズ、お礼を言うのはまだ早いよ。本番はこれからだ」


 アレクシスの言うとおり、リズの名前についての議論が残っている。

 万能薬と引き換えに、公王はリズに名前を授けてくれるのだろうか。リズは、公王に視線を戻してみる。

 壇上では、公王に呼び寄せられた宰相が、ひそひそと公王と打ち合わせをしているところだった。


 その打ち合わせが終わると、公王は再びアレクシスへと視線を戻した。


「お前の言い分はよくわかった。万能薬作りで功績を残した一族の娘に、国花の名である『リゼット』を贈りたいということだな」

「はい、父上」

「うむ。本来ならば、勲章に値する功績だ。国花の名を贈ることでその代わりとなるならば、名を贈ることに異存はないが。皆は、どうだろうか」


 公王は、同意を求めるように貴族達を見回した。貴族達としても、名を贈るだけで万能薬が五倍になるなら、安いもの。誰も反対する者はいなかった。ぽつり、ぽつりと拍手が起こり、次第に盛大な拍手へと変わっていく。


「貴族の同意も得られたようだ。ならば正式に娘の名を――」


 公王がそうまとめかけたその時、アレクシスは割って入るように言葉を発した。


「僕からもう一つ、提案がございます。先ほどの入場の際、彼女に対する貴族の対応は目に余るものでした。公女となる彼女に対して、このような差別は許されるべきではありません。今こそ、父上が温められてきた『魔女に対する差別撤廃法案』を、制定させる時ではございませんか」


 にこりと微笑む息子に対して、公王は唖然としたまま言葉が出てこなかった。


 公王は『魔女に対する差別撤廃法案』など、考えたことはない。

 けれど、アレクシスが幼い頃。公王はアレクシスに「おじさんは、どんなしごとをしているの?」と尋ねられたことがある。


 当時はまだ、父親だとは名乗れなかった公王はいつも、仕事でこの村に滞在していると言い訳をしていた。その姿を不思議に思った様子の息子に、「おじさんはね、貴族も、庶民も、皆が平等に暮らせるよう、努力しているんだよ」と答えたのを覚えている。

 事実、公王はその時期、庶民の娘との間に生まれたアレクシスを自分の息子だと認められるよう、悪戦苦闘していたのだ。


 時が経ち、公王として独立してからは、アレクシスが貴族と渡り合えるよう、厳しく育てることにばかり気を取られていた。『貴族も庶民も平等に』などという考えはすっかりと忘れていたが、息子はそれを覚えていたようだ。


 しかも父を利用する形で、息子は自らの願いを叶えようとしている。公宮で目立たぬよう、ひっそりと暮らしていたと思っていた息子が、いつの間にそのような(したた)かさを手に入れたのか。

 公王は、そんなアレクシスの変貌ぶりが嬉しくて、一人で大声を出して笑い出した。


「良かろう。その法案は必ず、議会を通すことを約束しようではないか」

「陛下……。そのような独断は貴族の反感を……」


 公王といえども、貴族の声は無視できない。宰相は心配してそう声をあげるも、公王は笑いを収めたばかりの明るい声で返す。


「まさか我が国に、『薬は欲しいが、差別は止めたくない』などという、浅ましい考えの者がいるとは思えんな。そうであろう? 誇り高き、貴族達よ」


 先ほど盛大に拍手したばかりの貴族達は、公王にそう持ち上げられてしまえば反論できるはずがない。

 少々気に入らなくとも、誇りと体裁を守りたがるのが貴族というもの。再び賛同する拍手が湧き起った。


「アレクシス。娘をこちらへ連れて来なさい」

「はい。父上」


 全てがアレクシスの思いどおりに運び、アレクシスは上機嫌な様子で、リズを壇上へと案内する。

 緊張しながらリズが公王の隣に立つと、公王はリズの肩を力強く抱き寄せた。


「皆に、新たな我が娘『リゼット』を紹介しよう。公国を陰から支えてきた一族の娘を、養女として迎え入れられたことを、誇りに思う。皆、公女に敬意を払って接するように」


 会場にいる貴族達は、一斉に壇上に向かって礼をした。小説とはあまりに違う光景だ。

 アレクシスと二人でリズの家へ行った日、彼は「一緒に頑張ろう」と言ってくれたが、結局はほぼ全てを、アレクシスが一人でやってのけてしまった。

 妹愛の力は計り知れない。リズはひたすら感心するしかなかった。

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