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41 公女魔女11


「ところで、公子の証を見せることは、それほど重要な意味があるの?」

「この証には一定の権限が与えられているから、本来は王に認められた後継者候補の意味があるんだ」

「え……。それじゃ第一公子殿下は……」


 リズは驚いて、そう尋ねた。するとアレクシスは、少し困ったような顔つきになる。


「ドルレーツ王国では慣例として、実子全員に与えているけれど、公王は実力主義の国を作りたいと思っているんだ。僕は後継者としての条件を満たしているとして与えられたけれど、第一公子はまだ……」


(うわ……。それってめちゃくちゃ、気まずい話じゃない! そりゃアレクシスも、隠したがるよ……)


 公王の長男であるにも関わらず、第一公子を名乗れなかったアレクシスにとっては酷な話だ。バルリング伯爵の言葉を、リズは思い出す。


『公宮での公子殿下のお立場は、とても難しいのです。今までは、目立たぬよう努力なさっておいででしたわ』


 私生児であることが理由だとリズは思っていたが、内情は思ったより複雑なようだ。

 先ほど、アレクシスが公子の証を身に着けるために、儀式めいたことまでしたのは、それなりに意味があってのことだったのだ。


「ってことは、『アレクシスが後継者として名乗りを上げた』と、みんなは思っているんじゃ……」

「そうだろうね」

「アレクシスは、王位を継ぎたいと思っているの?」

「今より忙しくなると、リズを愛でる時間が減ってしまうから、できれば遠慮したいな」

「あ……うん」


 アレクシスらしい答えに、リズは気が抜けてしまう。しかし、目立たぬよう努力してきたアレクシスが、王位を望んでいないことは確かなようだ。


「けれどリズが、僕に王位を望むなら話は別だよ」


 アレクシスは、急に真剣な顔つきでそう答える。


(私……、アレクシスにどれだけの覚悟をさせちゃったんだろう……)


 リズはこの世界に転生してから今までずっと、火あぶりになる未来に恐怖しながら生きてきた。けれどアレクシスと出会い、彼は全力でリズを守ってくれた。今まで感じたことの無い安心した環境の中で、火あぶりに対する恐怖も和らいでしまっていた。


 けれど、リズが安心感を得ている裏では、アレクシスに大きな負担が掛かっていたのかもしれない。


「……私としては、アレクシスが幸せになれるなら、どんな地位でも気にしないよ。でも……、私のためだけにその証を身に着けるのは、アレクシスに負担が掛かりすぎるよ……。貴族にはもう侮られないだろうし、公子の証は外したほうが……」

「僕を心配してくれているんだね。でもこれは、僕自身が望んでしていることだし、今は外すわけにはいかないんだ」

「どうして……?」

「公王に意見するには、公子の証が必要だから」


(それって……、公子の証を身に着けていないと、聞く耳を持ってもらえないってこと……?)


 アレクシスの周りは、本当に義務によって成り立つ関係の者ばかりのようだ。まさか父親までそのような関係だったとは、リズは思いも寄らなかった。


「さて、そろそろ時間のようだね。僕達も準備しようか」


 楽団が準備を始めているのを確認したアレクシスは、リズからグラスを受け取りテーブルに戻すと、リズを連れて玉座の近くへと移動を始めた。


 玉座がある壇上の隅には、すでに第一公子が控えており、壇の下には近衛騎士団長であるカルステンの姿が。どうやら壇に上がれるのは、公家の者だけのようだ。

 しかしアレクシスは、リズを連れてカルステンの隣に陣取った。


「アレクシスも壇に上がるんでしょう?」

「僕は、リズを公王に紹介しなければならないから、一緒にいるよ」

「そっか。一人になるかと思って、ちょっとドキドキしちゃった」


 アレクシスが残ってくれることに、リズが安心をしていると、アレクシスの横からカルステンが顔を出してきた。


「リズ様、お久しぶりです」


 にかっと微笑んだカルステンは、出会った時の盗賊のような雰囲気は微塵も感じられない。気がいいお兄ちゃんといった印象だ。


「お久しぶりです。騎士団長」

「その節は、大変ご迷惑をお掛け致しました。直接、謝罪に伺いたかったのですが……、っておい! アレクシス殿下、何やってんですか!」

「うるさい。黙って。リズの耳が穢れるだろう」

「あの……」


 カルステンが話している途中で、リズの視界は突然、暗闇に覆われてしまう。頻繁にアレクシスに顔を弄ばれているので、すぐに誰の手かリズはわかったが、どうやらアレクシスは耳も塞ぎたかったようだ。


「謝罪の機会くらい、与えてくれたっていいじゃないですか!」

「一生、許さないから必要ない」

「そりゃないですよ殿下……。第二公子宮殿は出入り禁止にされるし、遅い反抗期かなんかですか!」

「いいから、職務に専念して」


 同じ幼馴染だというのに、ローラントの時とは随分と接し方が違うようだ。一見、仲が悪そうに見える二人だが、お互いに言いたいことを言い合えている関係は、むしろ親しい証拠に見える。


(こんなカルステンとも、『義務だけの関係』だとアレクシスは思ってるのかな……)


 アレクシスについては疑問が尽きない。リズが不思議に思っていると、楽団の演奏が、盛大に始まる。リズの目からアレクシスの手が離れると、ちょうど扉が開かれる場面が目に入った。

 公王は、両手で正妻と側室をエスコートしながら、玉座へと向かってくる。


(銀髪の綺麗な人が、アレクシスのお母さんだよね)


 正妻に比べると、アレクシスの母は控えめなデザインのドレスを身にまとっているが、それでも見劣りしないほどの美しさを兼ね備えている。


 公王と妻達が壇に上がると公王は玉座へと座り、妻二人は左右に控えた。

 貴族全員が公王に向けて挨拶をおこなうと、公王はアレクシスのようによく通る声を上げる。


「今宵は、公家の新たな家族のために駆けつけてくれて、感謝する。先日、ドルレーツ王国でお告げがあり、聖女の生まれ代わりである娘を、公家の養女として迎えることとなった。今よりこの場で、披露目をおこなう」

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