33 公女魔女3
お茶会での話が終わり、ローラントが見えなくなったのを確認すると、アレクシスは疲れたように、リズにもたれかかった。
「アレクシス。心配をかけてしまったみたいで、ごめんなさい」
「リズのせいではないよ。僕がもっと、目を光らせておくべきだった。――それより、リズに聞いておきたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「小説でヒロインに想いを寄せるのは、王太子、カルステン、僕の三人で合っているよね?」
「うん、それがどうかしたの?」
「それにしては、ローラントとリズの距離が近すぎると思ってね。ローラントは本当に無関係な人間なの?」
そう尋ねられて、リズは「あっ」と思い出した。
「ローラントもヒロインを好きになるけど、カルステンにヒロインへの想いを告げられたことで、自分は諦めてカルステンの協力をするんだよ」
「へぇ……。そういう大事なことは、先に言っておいてほしかったな。カルステンとリズが関わっていないなら、ローラントはリズを好きなままなんじゃないのかな?」
アレクシスは、問い詰めながらリズに体重をかけてくるので、リズも負けじとアレクシスを押し返そうと、肩に力を入れる。
「小説どおりとは限らないじゃない。アレクシスだって、私のことを好きなわけじゃないでしょう」
ローラントはリズの騎士として、主人を大切にしたいようだし、そもそも『ヒロインと性格が違うのでは』と指摘したのはアレクシスだ。そう思いながら、リズは頬を膨らませる。
「……リズはもう少し、危機感を持って」
リズの言葉になぜだかイラっとしたアレクシスは、リズの頬を滅茶苦茶に弄んだのだった。
(もう……。アレクシスってば、私の頬をなんだと思っているのよ……)
夕食後。ローラントを伴って、アレクシスの執務室へと向かっていたリズは、頬を両手で押さえながらため息をついていた。アレクシスは妹愛に溢れているので、リズの頬にダメージがあるような触れ方はしない。けれど、長時間に渡り弄ばれたので、未だにアレクシスに触れられているような気分になる。
「リズ様、どうかなされたのですか?」
「う……ううん。なんでもないよ。それよりまた話があるらしいけど、なんだろうね。もしかして、また何か注意されちゃうのかな……?」
公子であるアレクシスの目から見たら、リズの言動は注意したいことだらけだろう。自分の頬が心配になったリズは、再び両手で頬を押さえながらため息をついた。
(あれ……、ローラントの反応が薄いなぁ……)
尋ねてきた割に、ローラントは黙ってしまう。リズは彼を横目に見ながら、首を傾げた。
「さっきのこと、まだ気にしてる?」
「はい……。自分の不甲斐なさに、憤りを感じていたところです」
「ローラントばかり、責任を感じる必要はないよ。元々は、私が誘ったんだし。たまには、ほうきに乗れる機会を作るから、そんなに落ち込まないで」
元気を出してもらおうとリズは、にこりと微笑んだ。しかしローラントは、ぽかんとした顔でリズを見つめたかと思えば、次の瞬間。リズから顔を反らして、こらえるように笑い出す。
(え……。なんで、ここで笑うの……)
やはりリズの笑顔は、ヒロイン補正が効かないようだ。複雑の気分でローラントを見つめていると、彼は再びリズに視線を戻した。
「メルヒオール殿はいつも、このような気持ちなのかもしれません」
「どういう意味?」
「リズ様のお傍にいると、楽しいということです」
(おもしろキャラの自覚はないんだけどなぁ……)
やはりローラントの中で、リズはヒロインとして認識されていないらしい。アレクシスは『危機感を持て』と言っていたが、そんな必要はなさそうだ。
アレクシスの執務室へと入ったリズとローラントは、勧められるままにソファへと腰かけた。先ほどと同じく、リズとアレクシスが並んで座り、その向かいにローラントという配置。また叱られるのかと身構えたリズだが、どうやらそのような雰囲気ではない。
アレクシスはお仕事モードな顔つきで、リズを見つめた。
「公王に、挨拶する日が決まったよ」
次話は日曜日の夜の更新となります。





