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30 公女魔女1

「今日もお美しいです。リズ様」

「ふふ。ありがとう。ローラントも、今日もお世辞が上手だね」

「今日も、本心ですよ」


 夕方の散歩の際に、ローラントは必ずと言って良いほど、リズを褒める。朝から彼とは顔を合わせているが、皆の前で褒めるのは恥ずかしいらしい。故に、いつも二人きりの時に限って、このような会話が繰り広げられていた。


(忠誠を誓った騎士としては、一日一回は褒めておきたいのかな)


 騎士とは、単に剣術に長けているだけでは務まらないようだ。ローラントも大変だなと思いながら、リズは微笑んだ。

 ローラント曰く、「リズ様の笑顔はご褒美」なのだとか。騎士は主人に気を遣う仕事のようなので、せめてローラントが気持ちよく仕事ができるよう、リズも笑顔は絶やさないようにしたいと思っている。

 それにリズが微笑めば、ローラントは蕩けてしまいそうなほど、柔らかい笑みを返してくれるのだ。自分の笑顔一つで、極上のイケメンを見られるのだから、リズとしてはむしろ得した気分だ。


「今日も帰りに、ハーブを採りに行こう」

「はい。毎日、リズ様にスープを作ってただけるとは、公子殿下は本当に幸せなお方ですね」

「そうかな? 少しでも、アレクシスの役に立っているなら嬉しいな」


 あの夜。リズが作ったスープを、アレクシスは何度も「美味しい」と、身体に染み込ませるように呟きながら飲んでくれた。すっかりリズのスープが気に入ったアレクシスは毎日、夜食をねだるようになっていたのだ。


「リズ様のスープは、美味しい上に、不思議と身体の疲れが取れる気がします。料理長も、何度もリズ様を真似てブーケガルニを配合してみたそうですが、同じようには仕上がらなかったそうですよ」

「そっ……そうなんだ。混ぜ方に、コツがいるからかなぁ……」


 魔法薬のレシピで作ったとなれば、あらぬ誤解も生まれそうなので、リズは秘密にしたままでいる。しかし、疲労回復の噂が広まってしまったらしく、日に日に味見をしたがる使用人が増えているのだ。

 今ではその需要を満たすべく大鍋にどっさりと作り、皆にも分け与えている。張り切っている使用人達が下ごしらえをしてくれるので、リズはブーケガルニを作って煮込むだけの楽な役回りだ。


「それに……。リズ様が公子殿下を想ってお作りになる姿が、本当に羨ましいです……」


 ローラントは立ち止まると、エスコートしているリズの手をぎゅっと握りながら、そう呟く。

 アレクシスが『義務に関係なく、優しくしてくれる人がいなかった』と告白した時と同じくらい、ローラントは寂しそうな顔を見せた。


(この二人は幼馴染として育ったのに、どうしてこんなに寂しさを抱え合っているんだろう……)


 幼馴染としての信頼関係があれば、少なくともアレクシスは孤独に満ちた顔はしなかったはずだ。

 ローラントの寂しさの理由はわからないが、アレクシスに対して何かしらの感情があるように見える。


(そういえば、初めてスープを作った時も、ローラントは「公子殿下が羨ましい」って言ってたよね)


 理由はわからないが、スープを作ってもらえるアレクシスが羨ましいようだ。それくらいなら、リズでもなんとかできる。


「そうだ! 今日は、ローラントの分だけ別のお鍋で作るね。ローラントの好きな具材だけを入れた、スペシャルなスープにしようよ」

「騎士の俺に、そこまでしていただくわけには……」


 ローラントはそう否定をしながら、口元に手を当てる。しかし、否定をしながらも嬉しそうな表情なのが、手で隠してもバレバレだ。


(ローラント可愛い)


「これも日頃の護衛に対する、労いってことで」

「そういうことでしたら……」


 ローラントはその場に膝まづくと、リズの手を取った。感謝の印として、手の甲に口づけしたいのだろう。労いに対する感謝とはおかしな話だが、リズは彼の気持ちを受け取ることにした。


 しかし、ローラントの唇が触れる瞬間、ガサリと地面を踏む音がした。そして迷路庭の角から人影が姿を現す。


「リズ。こんな人目につかない場所で、何をしていたのかな?」


(アレクシス! なんでこんなところに……?)


 突然現れたアレクシスは、目を細めてじっとリズの手に視線を向ける。

 きっとまた誤解を受けていると察したリズは、手を引っ込めようとした。しかしそれを阻むように、ローラントにがっちりと握られてしまう。


「リズ様の護衛騎士として、感謝を行動で示していたところです」


 リズよりも先にそう述べたローラントは、そのままリズの手の甲へ口づけた。それからリズに向けて顔を上げたローラントは、いつものようにイケメンスマイルを満開に咲かせる。


(うっ、眩しい。でも今は、状況が悪いよ……)


 アレクシスの誤解が大きくなっている気がしたリズは、恐る恐るアレクシスへと視線を向ける。するとアレクシスは、なんの感情もないような無表情で、リズに近づいたかと思うと、「リズ、行こう」と言いながらリズの肩を抱いて歩き出した。


(無表情って、一番怖いんだけど……)


「アレクシス? たぶん誤解してると思うよ?」

「今のはただ(・・)の挨拶だろう? どんな誤解が生じると?」

「いえ……。今のは、ただの挨拶です……」


 それ以上は何も言い出せない雰囲気のまま、リズはアレクシスに押し出さるようにして迷路庭を進んだ。

 そしてたどり着いたのは、いつもとは違うリゼットの庭だった。なぜか、庭の中央にはソファとテーブル。そしてお茶の準備が整えられている。


「これは、アレクシスが……?」

「たまには、庭でお茶でもと思って」

「そうだったんだ……」


 突然現れたのかと思えば、アレクシスはリズを誘うために探している途中だったようだ。

 ソファに並んで座るとアレクシスは、後ろからついてきていたローラントに視線を向ける。


「ローラントはそちらに座って」

「俺は護衛中ですので……」

「いいから、座りなさい」

「はい……」


 リズ達の向かい側にローラントが腰を下ろすと、アレクシスの侍従がお茶を淹れた。準備を整えた侍従二人は、逃げるように下がっていく。

 辺りがシンっと静まりかえる中、重苦しいお茶会が始まると、三人は無言でそれぞれお茶に口を付けた。


(なんなの。この、三者面談みたいな雰囲気……)

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