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28 新生活魔女7

 厨房へと移動したリズとローラントは、料理長にお願いして料理を作らせてもらうことにした。


「リズ様、何をお作りになるのですか?」

「夜食だし、お腹に負担がかからないよう、ブーケガルニのスープにしようかと思って」

「美味しそうですね。俺もお手伝いしたいですが、料理は経験がないもので……」

「大丈夫。ローラントは見学してて」


 料理長に食材を見せてもらったリズは、スープの具になりそうな鶏肉や根菜・キノコなどを選ぶ。それから、厨房を出てすぐ目の前にある菜園から、数種類のハーブを採取してきた。

 それらのハーブを糸で束ねると、ブーケガルニになる。リズがせっせと束ねていると、料理長がじっとリズの手元を見つめていることに気がついた。

 普通は、パセリ・ローリエ・タイム辺りを使うが、リズはそれ以上にいくつものハーブを使っているからだろう。中には、前世の世界にはなかったハーブなんかもあったりする。


「何種類も使うのが、魔女流なの」

「……さようでございますか」


 無口そうで、いかにも職人のような雰囲気の料理長だが、リズの手順には興味があるようだ。料理長はすぐに自分の仕事に戻るも、チラチラとリズを気にしている。


 そんな料理長の視線は気にせず、リズはスープ作りを続けた。全ての具材を鍋に投入したリズは、ヘラでゆっくりと鍋の中をかき混ぜ始める。


「魔女様……、そんなにかき混ぜては……」


 具材が煮崩れすると、料理長は言いたいのだろう。


「これも魔女流なの」

「さようで……」


 素人の料理だと判断したのか、料理長は興味を無くしたように洗い物を始めてしまった。

 しかしリズには、こうしている理由がある。実は、鍋の中をかき混ぜながら、しれっと魔力を流していたのだ。ブーケガルニの材料が、魔法薬に使うものだということは、この場でリズしか知る由もない。


(ふふ。これで、疲労回復効果抜群のスープが完成するんだから)



 完成したスープは、なんとも食欲がそそる香りで、ローラントは目が釘付けになってしまった。


「本当に美味しそうですね。公子殿下が羨ましいです」

「たくさん作ったから、後で侍従さんと一緒に食べて」


 二人とも兄弟のことで悩んでいるようなので、これを食べれば少しは元気がでるだろう。リズはそう思いつつローラントにスープを勧めてから、料理長へと視線を移した。


「料理長も良かったら、味見してね」

「ゴホンッ……。恐れ入ります、魔女様」


 香りに誘われたのか、再び料理長はスープが気になっていたようだ。





『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』をワゴンに乗せたリズは、アレクシスの執務室へと向かった。


「アレクシス、入っても良い?」


 いつものように扉からひょこっと顔を覗かせると、アレクシスは即座に立ち上がってリズの元へとやってきた。


「リズ! きっと、来てくれると思っていたよ。もしかして、僕の夜食を届けてくれたのかな?」

「あ……うん」


(あれ? 侍従さんが話しちゃったのかな……)


 ちらりと侍従に視線を向けてみるが、侍従は小さく首を左右に振る。どうやら、彼が話したわけではないらしい。


(やっぱりアレクシスは鋭いから、わかっちゃったのかな……?)


 サプライズは失敗したようだが、アレクシスは大喜びしている。リズは良しとすることにした。


「侍従さん達の分も厨房にあるんだけど、食べに行ってもらっても良い?」

「うん。構わないよ。――二人とも、しばらく(・・・・)戻らなくて良いから。ゆっくりと(・・・・・)食べておいで」


 気のせいか、ところどころ語調の強い箇所があったようだが、アレクシスはこころよく侍従二人を送り出してくれた。

 リズがほっとしている間にも、アレクシスは自らワゴンを押しながらテーブルへと向かう。


「なんだか、いつもより美味しそうな香りがするね。もしかして、リズが作ってくれたのかな?」

「え……、そうだけど?」


 リズがそう答えると、なぜかアレクシスは動きを止める。


(あれ? 気がついていたんじゃないの?)


「……本当に、リズが作ってくれたの?」

「うん……。日頃の感謝を込めて、作ってみたんだけど……」


 話す順番がちぐはぐになってしまったが、リズは本来の目的を伝える。すると、アレクシスは黙ってしまった。

 何か問題があったのかと、リズが心配しながらアレクシスを見つめていると、彼の瞳からはじわりと、涙が溢れてくる。


「えっ……待って、何で泣くの……!」

「リズが僕のために、なにかをしてくれるとは思っていなかったから、嬉しくて……」

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