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27 新生活魔女6

 夕食後。アレクシスの執務室が見える廊下の陰に、リズとローラントは身を潜めていた。


「リズ様……。こうして待ち伏せせずとも、侍従を呼び出せばよろしいのではございませんか?」

「アレクシスは、すご~~~く感が鋭いんだから。侍従を呼び出したら、すぐにバレちゃうよ」

「しかし、リズ様にご不便をおかけする訳には……。侍従が執務室を出ましたら、俺が連れて行きますので。リズ様はどうか、お部屋でお待ちください」

「いいの、いいの。侍従さんの戻りが遅くなったら、それこそアレクシスが怪しむもん」


 廊下の陰で、ひそひそと主従がやり取りをしていると、執務室の扉がカチャリと開いて、侍従が廊下へと出てきた。


「あっ! 出てきたよ。お~い、侍従さ~ん!」


 リズが小声で呼びかけると、侍従は廊下の角へと視線を向けた。


「魔女様。公子殿下に御用でございますか?」

「し~! アレクシスに聞こえちゃうよ。こっちの陰で話そう」

「はい……」


 リズに手招きされ、廊下の角を曲がった侍従は、不思議そうな顔でリズとローラントを交互に見つめた。


「お二人そろって、どうなさったのですか?」

「あのね……。実は……、アレクシスにはいつもお世話になっているから、お礼がしたいの。何をしたら、アレクシスは喜ぶかな?」


 照れながらも、兄のために何かしたいというその姿は、ヒロイン補正のおかげか、この上なく健気な美少女に見える。この場にいる男性二人の心には、『羨ましい』という言葉が浮かばずにはいられなかった。


「くっ……。このような妹君を迎えられて、公子殿下はなんと幸せなお方なのでしょう」


(侍従さんはなぜ、悔しそうなの? 妹なら侍従さんにもいたよね……)


「そうですよね。俺もいつかは、公子殿下を『義兄』と呼びたいものです」


(ローラントは、カルステンが大好きなんじゃなかったの……?)


「二人とも……。兄弟のことで悩みがあるなら、いつでも相談してね?」

「魔女様のお心遣いだけで、私は十分に幸せですっ……」


 どうみても悔しさが滲みでているような表情の侍従に、大丈夫かな? とリズが首を傾げていると、侍従は話を元に戻した。


「……それより、公子殿下にお礼をなさりたいとのことですが。ちょうどこれから、殿下の夜食を頼みに行くところでしたので、魔女様がメニューを考えられてはいかがでしょうか」

「私が勝手に決めて良いの?」

「いつもは料理人に任せきりですので、魔女様が考えられたとお知りになれば、きっと殿下はお喜びになるかと思います」


 妹のことに関してはやたらとこだわるアレクシスだが、自分自身については意外と無頓着のようだ。


「メニューね……。それって、私が作っても良いのかな?」

「魔女様にそこまで、お手を煩わせるわけには……」


 使用人の仕事を、リズにさせるわけにはいかないと思った侍従は、慌ててそう申し出てみるも、リズは笑顔で首を横に振る。


「私なら気にしないで。こう見えて料理は結構、得意なの」



 この国では、高貴な身分の娘は料理などしない。故に侍従も、妹の料理を食べたことがなかった。やはり羨ましいと思いながら、侍従は執務室へと戻った。


「ただいま戻りました、公子殿下。本日の夜食は、スペシャルメニューだそうですよ」

「へぇ。それよりも先ほど、リズの声が聞こえた気がするんだけど?」


 夜食には全く興味がない様子のアレクシスは、やはり今日も妹のことで頭の中がいっぱいの様子。あの小声を聞き取ったとは恐ろしい耳をしていると、侍従は驚く。


「廊下でお会いしましたので、ご挨拶させていただきました」

「そう……。ここまで来たなら、僕にも会いに来てほしかったな……。もしかしてリズは、僕の夜食を作りたいとか言っていなかった?」


 リズと別れる際に、「アレクシスは鋭いから、気づかれないようにしてね」と侍従は念を押されている。しかしアレクシスのこの発言は、鋭いというよりも、妄想だろうと確信した。

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