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24 新生活魔女3

 夕方。リズは、アレクシスの執務室へと向かっていた。先ほど自室へ戻った際、侍女達がそれぞれ考えてくれたコーディネートを見せてくれたが、どれも素敵だったのでリズには決められなかった。そもそも、リズに似合うものばかりをアレクシスが厳選したので、どう組み合わせてもそれなりに完成度が高い。

 そこで、衣装の購入者であるアレクシスにも意見をもらおうと思ったのだ。


「こちらが、公子殿下の執務室です」

「ありがとう、ローラント」


(確か、気軽に入って良いって言ってたよね)


 宮殿内を案内してくれた際に、アレクシスはそんなことを言っていたと、リズは思い出す。気軽に、いつでも、何度でも、訪問して良いのだとか。要は妹に、遊びに来てほしいらしい。


 リズはノックをしてから扉を開けて、「アレクシス。今、忙しい?」と室内を覗いてみる。

 すると、正面の執務机に座っているアレクシスは、文官らしき人物と話をしているところだった。


「すみませんっ……。出直してきます」


 タイミングが悪かったようなので、リズは退室しようとしたが、アレクシスはガタっと椅子から立ち上がると「待って!」と、リズを呼び止めた。


「すぐに終わるから、座って待っていてくれる?」

「うん……」


 室内で待っていても邪魔にはならないようなので、お言葉に甘えてリズは、手前にあるソファへと腰を下ろした。


 文官との会話に戻ったアレクシスは、文官に仕事の指示を出しているようだ。資料を確認しながらアレクシスが指示した内容を、文官が書きとめている。


(わぁ……。仕事をしているアレクシスが、別人みたい……)


 リズと接する際の『妹を可愛がりたい欲』丸出しとは異なり、真面目に仕事する姿は実に魅力的。

 思わぬところで良いものを見れたと、リズは満足しながらアレクシスの仕事姿を眺めた。


 しばらくして文官が執務室を退室すると、アレクシスは「お待たせ」と微笑みながらリズの隣に腰を下ろした。


「リズが遊びにきてくれて、嬉しいよ。ティータイムにしようか。それとも、もうすぐ夕食だし外食でもする? それか――」


 リズと一緒に何かをしたいらしいアレクシスは、矢継ぎ早に提案をするが、リズの髪の毛に目を止めたアレクシスは、言葉が止まった。


「……リズ、その花は?」

「あっ、これ? さっきローラントと一緒に、リゼットの庭をお散歩してきたの。その時にローラントが……」


 イケメンなエピソードを話そうとしたが、リズは話を続けにくくなってしまった。なぜならアレクシスの手が、リズの頬に触れたから。


「……リズ。僕は君に、望みの結婚をさせてあげると言ったけれど、一つだけ条件があるよ」

「条件……?」

「いくらリズが好きな相手であろうと、僕が認めた相手でなければ結婚は承諾できない」

「……うん。それがどうかしたの?」


 リズとしては、火あぶりさえ回避できれば満足だ。そのためにアレクシスや公国が守ってくれるなら、リズは公国の利益となるような政略結婚でも良いと思っている。

 急になぜそんな話をするのかと思いながらリズが聞き返すと、アレクシスは真剣な表情で続けた。


「リズは、ローラントを気に入ったの?」


「……へ?」と、間抜けな声を上げたリズは、すぐさまアレクシスの勘違いに気がつく。


「ちょっ……。そんなつもりで、お花を受け取ったわけじゃないよ! 主従の親睦を深めただけなのに、変な勘違いしないで……」


 しかしあの時は、勘違いされてもおかしくはないシチュエーションではあった。リズは急に恥ずかしくなり、うつむく。するとアレクシスは、むにむにとリズの頬を弄び始めた。


「それなら、良かった。リズには当分、『お兄ちゃん大好き』なままでいてほしいから」


(お兄ちゃん大好きなんて、言ったことないけど……)


 反論しようとしたリズだが、アレクシスならばこの機に乗じて言わせようとしてくるかもしれない。これ以上、アレクシスのペースに呑まれたくないリズは、ムッと口を噤んだ。




 アレクシスを連れてリズの部屋へと戻ると、アレクシスはすぐさま侍女達のコーディネートを審査し始めた。

 実物を見るだけでは足りないのか、コーディネートのコンセプトやこだわった部分などを、丁寧に詳しく侍女達から聞き取る。

 そんなアレクシスの姿は、先ほどの仕事よりもさらに真剣さが増している。『妹の衣装係選び』という事実さえ知らなければ、リズも見惚れていたかもしれない。


 夕食の時間を大幅にオーバーしたところで、やっとリズの衣装係は決定した。これなら、侍女達の着せ替え人形になったほうが、短時間で済んだかもしれないと思いながら、リズはソファから立ち上がる。


「アレクシスも、みんなもありがとう! 遅くなっちゃったし、ご飯食べにいこう!」


 お腹がぺこぺこのリズは、アレクシスを食堂へ誘導しようとしたが、「待って。リズ」と呼び止められてしまう。


「まだ、何か……?」

「今回の企画は、とても良かったよ。次はリズの、美容係を決めようか」

「……うん。アレクシスに任せるよ」


 アレクシスだけではなく、侍女達も期待に満ちた顔をしているので、リズはそう返す選択肢しかない。

 美容係の企画を練り始めたアレクシスと侍女達を、蚊帳の外状態で眺めていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「はい?」

「リズ様。先ほどのリゼットをお持ちいたしました」

「わぁ! ありがとう、ローラント!」


 ローラントが手にしていたのは、花瓶にこんもりと生けたリゼット。花壇のリゼットもきれいだったが、花瓶に挿したリゼットも華やかで素敵だ。リズは、ローラントのもとへ駆け寄ろうとするも、視線を感じてぴたりと動きが止まる。

 振り返ってみると、疑うように目を細めながらアレクシスが、リズを見つめているではないか。


(うっ。また疑われてる……)


「アレクシス、これは違うの……」


 言い訳をしようとしたリズに、アレクシスは意味ありげに微笑む。


「僕はそれよりも、もっと大きなリゼットの花束を、リズに贈るから。楽しみに待っていてね」

「うん……楽しみだなぁ……」


 リズにはよくわからないが、ここの人達はリゼットの花束を贈りたがるようだ。小説にはなかったが、貴族の風習だろうかとリズは首をひねる。

 そして、この兄の考える『大きな花束』とは、一体どれほどの大きさなのだろう。リズは想像しようとしたが、途中で恐ろしくなって思考を停止させた。

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◆作者ページ◆

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