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22 新生活魔女1

 翌日の午後。幽閉塔にて、一日反省をしていた侍女達やローラントが釈放され、リズの部屋へとやってきた。

 リズは騎士団の刑期も、一日に減らすようアレクシスにお願いしていたので、副団長を除いた騎士団も無事に釈放されたようだ。


 釈放された侍女三名と、昨夜から先ほどまでリズの世話をしてくれた侍女三名。計六名を並ばせたアレクシスは、「これでリズの侍女が、全員揃ったね」と微笑んだ。


「アレクシス……、少し多すぎない?」

「そうかな。普通だと思うよ」

「アレクシスにも、侍従が六人いるの?」

「僕は二人かな」

「やっぱり多いじゃない!」


 まだ、正式に養女にもなっていない庶民に、侍女を六名も付けるのはやりすぎだ。リズは、呆気にとられながらアレクシスに抗議をしたが、アレクシスはリズを諭すようにリズの肩に手を乗せる。


「まぁまぁ。彼女らは、自ら志願したんだ。受け入れてあげてよ」

「えっ、志願?」


 幽閉塔で罰を受けた三名はわからないでもないが、後の三名が志願する理由がわからない。

 リズが首を傾げると、侍女の一人が発言の許しを願い出た。


「私達三名の家族はそれぞれ、魔女の万能薬によって危険な状態から助かりました。万能薬を、魔女様がお作りになったとお聞きしたもので、少しでも恩返しをさせていただきたく、志願いたしました」


(ここにも、感謝してくれる人がいるんだ……)


「そういうことでしたら……こちらこそ、よろしくお願いします」


 魔女を好意的に見てくれる人なら、リズとしてもありがたい。人数の多さは諦めて、全員を受け入れることにした。


 それからアレクシスは、『使用人に敬語は不要』だとか『気に入らない者は首』だとか、あれこれと注意事項を並べ立て始めた。

 侍女達との最初のやり取りに問題があったせいで、心配する気持ちもわからないでもないが、アレクシスは心配性すぎる。

 せっかく志願してくれたのに、侍女達のやる気が削がれないか心配になったリズは、「困ったらアレクシスに相談するから、もう仕事に戻って!」と、アレクシスを部屋から押し出した。


 部屋が静かになり、「ふぅ」と溜息をついたリスだが、なぜか今度は侍女達に囲まれてしまう。 


「……みんな、どうしたの?」

「魔女様は、公子殿下からたくさんのドレスやアクセサリーを、受け取られたとか。魔女様のお好みを知りたいですし、お衣装合わせをいたしませんか?」


 やたらと目を輝かせる侍女達。リズはすぐに、彼女達の意図することを察した。


(要は、私を着せ替え人形にして楽しみたいのね……)


 今朝はドレスを自分で選んだが、衣装室へついてきた侍女達がそわそわしていたのを、リズは思い出す。

 しかし、アレクシスとの買い物でその件は散々味わったので、リズとしては二度も同じ目に遭うのはごめんだ。


「あの……。悪いけど私、お庭を散歩しようと思っていたの」

「そうでしたか。つい、出しゃばってしまい申し訳ありません……」


 リズが散歩を言い訳に断ると、六人はしょんぼりとしてしまう。


(うっ。そんな顔をされると、心が痛むじゃない……)


 アレクシスの、けん制のような注意事項を聞かされたばかりの彼女達には、楽しみも必要だったかもしれない。考え直したリズは、ふと小説の内容を思い出した。


(そういえば侍女達には、それぞれ担当があったはず)


 衣装係や、美容係に、付き添い係。リズにはあまり関係ないが、執務補佐や、社交補佐などもある。


(確かヒロインは、衣装係からのいじめで、似合わない色のドレスばかり着せられていたのよね)


 彼女達はもう、リズをいじめようという考えはないだろうが、侍女達が提案したように、好みを知ってもらうのは大切かもしれない。


「……その代わり、みんなが考えたコーディネートを、後で見せてほしいの。一番趣味が合いそうな方を、衣装係にしたいと思います」


 リズがそう提案すると、項垂れていた侍女達が一斉に顔を上げる。瞳の輝きが戻ってきたので、どうやら喜んでもらえたようだ。


「魔女様のお心遣いに感謝申し上げます。魔女様にご満足いただけるよう精一杯、知恵を絞らせていただきますわ」




 侍女達との話を終えて部屋から出たリズは、護衛騎士となったローラントと一緒に、庭の散歩へと向かった。

 部屋の窓から見える庭は、生垣が迷路のようになっていたので、リズはそこが気になっていたのだ。


「あっちの、迷路みたいなお庭へ行ってみましょう」


 外へ出てそう提案すると、ローラントは優しく微笑みながらうなずいた。


「庭園は足元が不安定ですので、僭越ながらエスコートさせていただいても、よろしいでしょうか」


 紳士らしく優雅な仕草で、ローラントは手を差し出す。

 リズはその手を取るべきか、悩みながら見つめた。この庭よりも、格段に足場の悪い魔女の森で暮らしてきたリズに、エスコートなど正直必要ない。

 魔女の森へ迎えにきたローラントならわかりそうなものだが、彼はそれでもリズをエスコートしたいらしい。

 先ほどは、侍女達をしょんぼりとさせてしまったばかりなので、同じ失敗は繰り返したくないリズは、悩んだ末にローラントの手を取った。


「はい……。お願いします、ローラント様」

「俺はもう、リズ様の護衛騎士ですので、ローラントとお呼びください。侍女達同様に、敬語も結構です」

「うん。そうさせてもらうね、ローラント」


 イケメンにエスコートされるという状況は、実にヒロインらしい。ヒロインに生まれはしたが、ヒロインらしくない人生を歩んできたリズとしては、気恥ずかしさがこみ上げてくる。

 しかも、それを冷やかすように、相棒が背中を突いてくるのだ。

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◆作者ページ◆

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