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01 逃亡魔女1

 魔女の村に警報の鐘が鳴り響く中、リズは慌ただしく母の看病に励んでいた。

 今年で十七歳になるリズは、修行を終えたばかりの新米魔女。

 母は身体が弱いが、魔女としての技術は村で一番であり、そんな母に魔女としての技術を叩き込まれたおかげで、リズは他の魔女見習いよりも早く、修行を終えることができた。

 リズに父はおらず、母が唯一の肉親。まだまだ母には教わりたいことがあるし、生活面で母の助けになりたい。そして、たまには甘えたりもしたい。けれど母との別れは、刻一刻と迫っている。


 母に飲み薬を飲ませ終えたリズは、家の外から聞こえてくる村人の騒がしさを感じながら焦っていた。


「リズ、母さんのことはもういいから。早く行きなさい」

「うん……。ごめんね、ゆっくりと挨拶もできなくて。パンは焼いておいたし、お鍋にはシチューもあるよ。薬もたくさん作っておいたから、しっかりと飲んでね。それから――」


 テーブルの上に置いてある黒いローブを羽織り、同じく黒いとんがり帽子をかぶりながら、リズは家の中のことを説明していくが、母はそれを遮るように微笑む。


「この村にいれば、誰かが助けてくれるわ。それよりも、リズが心配よ。無事に逃げ延びてちょうだいね」

「私は大丈夫。なんたって前世の記憶があるんだから、なんとかなるよ。お母さんも元気でね、今まで育ててくれてありがとう!」


 お別れの挨拶として母の頬にキスをすると、母もリズの頬に返す。

 それから師匠らしい顔つきになった母は「魔女として誇りを、忘れてはいけないよ」と、力強くリズの手を握った。

 リズは真剣にうなずくと、名残惜しいが母の手から離れる。そして、テーブルに立てかけてある『相棒』に視線を向けた。


「メルヒオール、行くよ!」


 メルヒオールと呼ばれた『魔女のほうき』は、ふよふよと荷物をぶら下げながら、リズのもとへとやってきた。

 旅の準備は、昨日のうちに済ませてある。荷物の中身は、着替え一式と毛布、それと数日分のパンと、飲み水を入れた瓶。貴重品と言えるものは、コツコツと魔女の薬を売って貯めた、お金が少しだけ。

 前世では一泊旅行ですら、キャリーケースにぎっちりと荷物を詰め込んでいたけれど、魔女としてのリズに大荷物など必要ない。あまりに持っていく物がないので、昨夜のリズは部屋で一人、苦笑してしまったほどだ。


「それじゃお母さん、行ってきます! いつか、きっと帰ってくるから!」


 努めて明るく微笑んだリズは、テーブルの上にあるランタンを手に取り、玄関の扉へと駆けていく。

 ほうきのメルヒオールは、律義にもほうきの柄を傾けて母にお辞儀をしてから、リズのあとを追った。


「どうか、命だけは助かって……」


 リズの母が願うように呟くと同時に、玄関の扉はバタンと閉じられた。




 外へと飛び出したリズは、すでに騎士達が村へと入り込んでいることに気がつき、どきりと心臓が動いた。

 村を囲うようにランタンの光がいくつも見えていて、冷や汗が滲んでくる。


(予想以上に、騎士の数が多い……)


 素早くランタンの火を消したリズは、こっそりと灯りが少ないほうへと移動を始める。

 しかし、少し離れた所から野太い声が聞こえてきて、びくりと身体を震わせた。


「ピンクの髪の魔女がいたぞ!」


(私のバカ……、この髪は目立つのよ!)


 夜は、黒より白い服のほうが見えやすいように、この薄いピンクの髪の毛も、それなりに目立つ。それも、ウェーブがかった長い髪の毛は背中全体を覆っているのだから、とても目立っているはず。

 昨日の時点では、髪の毛は束ねてローブの中に隠そうとリズは計画していたが、今日は朝から母の体調が悪かったので、すっかりと忘れていた。

 これでは黒いローブと帽子で、闇夜に紛れる計画が台無しだ。


 こうなったら、無理やりにでも包囲網を突破して、森を抜けるしかない。メルヒオールを掴んだリズは、彼にまたがり、森に向かって飛び出した。


「森へ向かったぞ! 捕まえろ!」


 後ろから騎士達が追いかけてくるが、空飛ぶほうきに追いつけるはずもない。リズは難なく、彼らを振り切ることができた。

 そのまま森へ入るが、そこにも騎士達は点在している。それを避けつつ、木にも激突しないように飛ぶとなると、あまり速度は出せない。

 焦る気持ちを抑えつつ、振り落とされないようリズはほうきにしがみつく。


「メルヒオール! もっと高く飛べないの?」

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