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14 困惑魔女2

 次にリズは、ドレスを着ていないトルソーが目に入る。


(きっとあそこに、このマーメイドドレスがあったのね)


 一体誰の所有物だったのだろうと興味が沸いたリズは、一直線にそちらへ向かった。が、説明書きを読むと、がっくりと肩を落とした。


(やっぱり魔女だよ……。それも、悪い魔女!)


 説明書きには、百年ほど前に世間を騒がせた魔女からの、寄贈品<呪い解除済み>と記されている。

 今すぐこのドレスを脱ぎ捨てたい気分になったリズは、着替えても良いか尋ねようとアレクシスに視線を向けた。

 しかしアレクシスは、報告書を持った手をぶるぶると震わせながら、鋭い視線を侍従に向けていた。


「今すぐ昨日の騎士団全員を、幽閉塔送りにして」


 口調こそ穏やかだが、怒りを抑えている様子がよくわかる声色。侍従が足早に去っていくのを見届けてから、リズはアレクシスのもとへ駆け寄った。


「公子様! 報告書に何が書かれていたんですか?」

「リズには何度、謝罪をしても足りないよ……。本当に辛い思いをさせてしまって、ごめんね」

「え?」


 リズは首を傾げながら、報告書を見せてもらう。報告書の作成者は、予想通りローラントだ。


 それによると、騎士団長カルステンは当初、少数で魔女の森へ行くつもりだったようだ。しかし、罠を見つけた副団長が勝手に援軍を呼んだことで、時間を取られたと書かれている。


(それで到着時間が、大幅に遅れたのね……)


 罠に手こずったのだとリズは考えていたが、援軍の到着に大幅な時間を取られたようだ。


 援軍が到着し、罠もなんとか抜けて魔女の村へ到着。カルステンは魔女達を怯えさせないように、少数で村の中へ入った。

 しかしそれでは甘いと判断した副団長は、村を囲むようにして騎士を配置させた。

 おかげで、魔女達が驚いて警報の鐘が鳴ったりして、大騒ぎになったようだ。


 どうやら、リズが逃げ損ねた理由は、副団長の用意周到さによるものだったようだ。リズは思わず「はは……」と渇いた笑いをあげる。


(それにしてもこの報告書、意図的に騎士団を悪く書いているような……)


 作戦の失敗点や、副団長の暴走具合については事細かく書かれているが、リズがどのような罠を仕掛けたかについてなどは、どこにも書かれていない。ローラントなりに、リズへ配慮してくれたことが伺える。


 ローラントの優しさはありがたいが、一方的にリズが被害者に見えるのはフェアじゃない。


「あの……、公子様」

「他にも嫌な事をされたなら、遠慮なく言って」

「そうじゃないんです……。私には前世の記憶があるので、王太子妃になることは事前に知っていたんです」


 小説の世界だということは伏せたリズは、王太子妃になりたくないので罠を仕掛けて逃げようとしたことを、アレクシスに告白した。

 リズは一方的な被害者ではなく、それなりに騎士団とやり合った末の結果であると告げると、優しい視線を向けていたアレクシスの瞳が、徐々に冷めていく様子がありありと観察できた。


 それは、アレクシスの心に築かれていた『可哀そうな魔女』像が崩れ去った瞬間だった。


(どうしよう……、アレクシスに見捨てられたら、また虐められるかも……。でも、黙って被害者ぶるのも嫌だし……)


 戦々恐々としながら、リズがアレクシスの反応を伺ていると、アレクシスは大きくため息をついてから、リズを見つめた。その目は、完全に呆れの色に染まっている。


「僕も少し、疑問に思っていたんだ。リズを迎えにいく任務は極秘のはずだったのに、なぜメルヒオールに、旅の荷物が括りつけてあったのかな?」

「えっと……、それは……」

「前世の記憶があるだけでは、迎えが来る日までは想定できないよね?」

「そっそうですよね……」

「他にもまだ、隠していることがあるんじゃないの?」


(うぅ……。アレクシスが、鋭すぎる!)


 どう言い訳しようかと思いながら、リズは視線をそらしたが、アレクシスはそれを許してはくれなかった。

 リズの頬を両手で挟んだアレクシスは、ぐいっとリズの顔を引き戻す。


「ひゃめれくらひゃい!」

「リズが正直に話すまでは、離してあげないよ」


 アレクシスは怒った表情で、子供でも叱るようにリズへ顔を近づけてきた。


(ちょっ、やめて! イケメンを近づけないで!)


 この状況に反して顔の火照りを感じたリズは、恥ずかしさのあまりアレクシスから逃れようとして腕を掴んだが、彼の腕はぴくりとも動かない。


「可愛い。それがリズの全力?」


 子供と力比べでもしているかのような、余裕を見せつけるアレクシス。


(完全に遊ばれてる……、アレクシスめ!)


 しかし、リズの視界いっぱいに広がったアレクシスの笑顔は、全てを許してしまいたくなるほどの尊さがある。

 リズは悔しく思いながらも、アレクシスの腕から手を放した。


 大人しくなったリズの頬を、むにむにと弄んだアレクシスは「話してくれる気になった?」と微笑みかける。


(そんな可愛く聞かれたら、うなずくしかないじゃない……)


 こくりとリズがうなずくと、アレクシスはやっと、リズの頬を開放してくれた。


「もう……。レディの頬を弄ぶなんて、失礼ですよ」

「レディは、森に罠なんて仕掛けないと思うな」

「うっ……」


 アレクシスは思い出したように、くすくすと笑い出す。どうやら罠を仕掛けた件は、おもしろエピソードとして捉えられてしまったようだ。


「それで。なぜ、騎士団が迎えに来る日を知っていたの?」

「実は私、前世は異世界で暮らしていたんです」


 リズの返答が意外過ぎたのか、アレクシスは目を見開いでリズを見つめる。


「お告げは絶対だと聞いていたけれど……、リズの魂は聖女ではないの?」

「私の魂が聖女であることは、確かです」

「根拠は?」

「異世界で暮らしていた時に読んだ小説が、この世界と一致しているんです。ヒロインはリズという名の魔女で、ヒーローは王太子フェリクス。ヒロインは公家の養女となり、ヒーローと婚約するんです。婚約式では、前世を映す鏡を使って、お互いが前世の伴侶だと証明する物語でした。小説の題名は『鏡の中の聖女』」


 信じてくれるか心配になりながらもリズが話すと、アレクシスは考え込むような仕草を取った。

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◆作者ページ◆

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