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13 困惑魔女1

「公子様、どちらへ行かれるんですか?」

「宝物庫だよ。リズのドレスを探そうと思って」


 馬車に乗せられたリズは、アレクシスと二人で公宮の敷地内を移動している。ちなみにメルヒオールは、掃除がしたいようなのでお留守番。宮殿内は広くて掃除のし甲斐がありそうなので、メルヒオールにとっては宝の山のように見えるようだ。


「ありがとうございます。できれば露出度が少なくて、動きやすいドレスだと嬉しいです」

「僕が、リズにぴったりの可愛いドレスを選んであげるね」


 アレクシスの話によると、普段使わない衣装や家具、美術品やら宝石に至るまで、公家の所持品をなんでもかんでも保管してある場所らしい。

 リズが着ているドレスも、侍女がそこから探してきたようだ。


「一階は家具類、二階は衣類や小物類、地下は宝石や希少価値があるものが保管されているんだ。一階と二階のものは、自由に使って良いから」

「助かります」


 宝物庫へ入ったアレクシスは、説明をしながら二階へとリズを案内する。ドレス室と書かれた部屋に入ると、大きな室内にずらりとドレスが並んでいた。


「わぁ……。たくさんありますね」


 リズは歓喜ではなく、疑問を感じながら声をあげた。この国の成り立ちを考えると、ドレスの数が多すぎるのだ。

 その様子に気がついたアレクシスは、「建国して十年の国にしては、多すぎると思った?」と尋ねる。


「あっ……、はい」

「この宝物庫にあるものの大半は、ドルレーツ王国からの寄贈品なんだ」


 ここベルーリルム公国は、十年前にドルレーツ王国から統治権を与えられた属国だ。公王は国王の弟で、この小説のヒーローとアレクシスは、従兄弟同士に当たる。


「国王陛下はよほど、公王陛下を大切になさっているようですね」

「国まで与えてしまう、困った伯父だよ。まぁ……そのおかげで、僕は公子なんだけどね」


 困ったように、アレクシスは微笑んだ。アレクシスについての事情は、この国の者なら誰でも知っている。


 アレクシスの父はかつて、男爵家の娘と恋に落ちた。男爵令嬢はアレクシスを身籠ったが、身分差の問題で結婚は許されず。アレクシスの父は泣く泣く、公爵令嬢と政略結婚した。


 しかし、男爵令嬢を忘れられなかったアレクシスの父は、側室として男爵令嬢を迎え入れたいと思うようになるが、ドルレーツ王国では側室を認めていない。

 次第に塞ぎ込むようになった弟を見ていられなかったドルレーツ王が、『ならば自分の国を作って、側室を認めれば良い』と提案した。


 弟を溺愛するあまり、国中から非難されかねない安易な提案をしたドルレーツ王だが、国民はそれを手放しで喜んだ。

 なぜなら、アレクシスの父が所有していた領地には、『魔女の森』があったから。

 国にとって目の上のたんこぶのような存在だった魔女が、国から消える。国土が減ることよりも、国民は魔女がいなくなるほうを選んだのだ。


 そんな経緯でアレクシスは、十歳の時に母とともに公家の一員となり、第二公子の地位を与えられた。

 公王と正妻の間に生まれた公子は、アレクシスよりも二歳下だが、アレクシスが第一公子の地位を与えられなかったのは、側室の子だからだと言われている。


「公子様が公子になってくれたおかげで、私は助けてもらえたんですね」

「リズは優しいね」

 

 アレクシスが公子の権限を行使しなければ、昨夜のリズは本当に危険だった。リズは素直に感謝の気持ちを口にしてみたが、アレクシスはそれを慰めと受け取ったようだ。ありがとうと言いたげに、リズの頭をなでた。


(きっと、小説では語られなかった苦労が、アレクシスにはあるのね)


 侍女達も、アレクシスの事情について気を遣っている様子だったし、副団長に至っては『下賤の分際』などと、あからさまに蔑むような態度を取っていた。

 貴族の間でも、アレクシス親子については意見が割れていることが伺える。


(それにしても、『下賤』はひどすぎるよね)


 下位貴族の男爵家といえども、貴族は貴族だ。副団長のほうが爵位が上だからといって、今現在は公子であるアレクシスを侮って良いはずがない。

 今になって怒りがこみ上げてきたリズは、ぶすっと頬を膨らませた。


「どうしたの? リズ」

「あっ……、いえ。昨夜のことを思い出したらつい」


 リズが慌てて笑顔で取り繕った直後、ドレス室の入口から「殿下。昨夜の魔女様護衛についての、報告書が到着いたしました」と声が聞こえてきた。


「今、確認する。――ごめんね、リズ。先にドレスを見ていて」

「はい、お構いなく」


(昨夜の報告書ってことは、ローラントが書いたのかな?)


 ローラントは事後処理を任されていたようなので、報告書も書いた可能性が高い。彼が書いたなら、魔女を悪くは書いていないだろう。

 副団長への怒りを一旦収めたリズは、気を取り直してドレスを見学することにした。


 ドレスは一着一着、トルソーに着せて美しく飾られている。衣装倉庫というよりは美術館のようだ。トルソーには説明書きも添えられており、ドルレーツ王国歴代の妃や王女の、誰が所有していたものかも記載されている。

 それらを見て回ったリズは、あってもおかしくないものが無いことに気がついた。


(エリザベートのドレスが、一着もないのね)


『エリザベート』とは、ドルレーツ王国建国時に活躍した聖女の名前。つまりリズの魂の名前だ。何世代にも渡り、王太子の妻となった聖女は、いつも名前をエリザベートに改名していた。

 小説でも、ヒロインと王太子が出会った際に、王太子みずからヒロインにエリザベートという名を贈っている。


 そのため、エリザベートが着用したドレスは大量にあるはずだが、ここには一着もないようだ。


(王太子が、大切に保管してるのかな?)


 リズ自身の魂が、どのようなドレスを着用していたのか。少し興味があったリズだが、残念ながら今は見られないようだ。

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