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11 怖い魔女4

 アレクシスは何を言っているのだろうと、リズは首を傾げたが、アレクシスは申し訳なさでいっぱいの表情を向ける。


「僕の宮殿で、こんな目に遭わせるつもりはなかったんだ。すぐにでも処罰するから、安心して」


 アレクシスは、リズに付けた侍女達を呼ぶよう侍従に指示してから、リズを連れてソファへと腰を下ろした。

 何がそれほど、アレクシスの逆鱗に触れたのだろう。リズが考えている間にも、今朝の侍女三名が部屋へと入ってくる。


「お前達は、僕の可愛い妹を虐めていたようだね」


 淡々とした口調ではあるが、アレクシスに威圧的なオーラを向けられ、三人は身体をびくりと震わせた。


「決して……そのようなことは……!」

「そうですわ……。湯浴みの準備も、させていただきましたしたもの」

「私達は、誠心誠意お世話させていただきました……」


 初めは本当に虐めるつもりだった三人だが、怖い魔女だと気がついた瞬間に、そんな考えなど吹き飛んでいた。

 恐怖しながらも、彼女達なりにリズの世話をしたことを訴えると、アレクシスはため息をついた。

 そして、アレクシスはリズの肩を抱いたかと思うと、ぐいっと引き寄せてリズを自身の胸の中に納める。


(へっ! 急になに!?)


 突然の事態に驚いたリズは、「公子様!?」と声を上げるも、アレクシスはリズに視線を向けることなく、侍女達に冷たい視線を向けた。


「それじゃ、この不格好な編み上げは、どういうことなのかな?」


 アレクシスは、リズの背中を見せるために抱き寄せたようだ。


(いやあ~! それは、私の不器用な結果です~!)


 リズとしてはそれなりに整えたつもりだったが、アレクシスの目には不合格だったようだ。

 恥ずかしさのあまりリズは、今すぐにでもドレスの編み上げを隠したいと思ったが、アレクシスががっちりとリズを抱き込んでいるので、びくとも動かない。


「申し訳ございません!」


 侍女達は、一人では着用しにくいドレスを渡してしまったことを後悔しながら謝る。

 その謝罪を無視したアレクシスは、次に部屋を見渡した。


「それに、今は掃除をおこなう時間のはずだ。リズのほうきに掃除を押し付けて、お前達はサボっていたのか?」


 彼女達は、リズが朝食を食べている間に、掃除を済ませるつもりで作業していた。しかし部屋に突然、動くほうきが入ってきたかと思うと掃除を始めるではないか。気味が悪くなり、部屋から逃げ出してしまったのだ。

 それを思い出したのか、三人は手と手を取り合って震え出す。


 一方メルヒオールは、自分のせいで揉めているようなので、気になってそろりと柱の陰から姿を現した。

 だがそれは、侍女達の恐怖心に追い打ちをかけることになってしまった。侍女達は、「きゃ~! おばけ~!」と叫びながらその場にうずくまってしまう。


 その様子を眺めていたアレクシスは、疲れたようにため息をつく。事前に、リズとメルヒオールについての説明は受けさせ、偏見なく接するよう命じたはずだが、侍女達にはまるで伝わっていなかったようだ。


「お前達の無礼を、許すわけにはいかない。十日間、幽閉塔での謹慎を命じる」

「そんな……、幽閉塔だけはどうか、お許しくださいませ……!」


 侍女達のすすり泣く声を聞きながらリズは、幽閉塔はそれほど行きたくない場所なのだろうかと考えた。

 小説でも幽閉塔送りは、重罪を犯した者が入るような場所のように描写されていたのを思い出す。


「あの……、公子様」

「強く抱きしめすぎたかな。ごめんね」


 大切なものでも扱うかのように、優しく頭をなでながらアレクシスは謝る。


(アレクシスは少し、過保護じゃないかな……)


 彼をこうさせているのは、馬車でのリズの姿がよほど衝撃的だったからなのか。

 公子の彼なら、人がひどい目に遭う姿をあまり見たことがないのかもしれない。


 心配させないよう微笑みつつ、リズはアレクシスから離れた。


「大丈夫ですよ。それより皆さんは単に、魔女とほうきが怖いだけなんだと思います」


『魔女は悪魔の末裔』という認識が国中に広がっているので、仕方ないことだとはリズも理解している。

 そんな噂に惑わされている人々を、処罰しているだけではキリがない。

 まずは、本当の魔女がどういった存在なのかを、知ってもらうところから始めなければ。

 それでも偏見や迫害をする者には、それなりの対処も必要だが。


「怖いという感情だけで仕事を放棄するような者には、宮仕えは務まらないよ。宮殿内の秩序を保つためにも、処罰は必要なんだ」

「ですが私はまだ、皆さんに魔女やほうきを知ってもらう努力をしていません。公子様は、そんな努力は必要ないとお考えかもしれませんが、少しだけ私に機会を与えていただけませんか?」

「リズが、そこまで言うなら……」

「ありがとうございます!」


 納得はしていない様子だが、アレクシスはリズに任せてくれるようだ。リズは張り切ってソファから立ち上がると、「メルヒオールおいで」と相棒を呼び寄せた。

 ふよふよと、リズの前まで飛んでくるほうきを見て、侍女達は再び恐怖に震えているようだ。リズは構わずに、侍女やアレクシスの侍従達を見回した。


「皆さんは、ほうきが動く原理をご存じないと思いますので、ご説明させていただきますね。この子はメルヒオールという名前なのですが、メルヒオールは元々『ただのほうき』だったんです。私のご先祖様が、彼に魔力を吹き込んだことで、メルヒオールは『魔法具のほうき』となりました。皆さんも、魔法具には馴染みがありますよね?」


 その問いには、アレクシスも含めてこの場にいる全員がうなずいた。どうやら、魔女やほうきに恐怖しつつも、未知の存在に興味はあるようだ。リズは少し嬉しくなりつつ、続けた。

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◆作者ページ◆

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