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112 鏡の中の聖女3

 フェリクスの手が魔法具に届く寸前、それを遮ったのはバルリング兄弟だった。


「貴様ら! 属国の分際で、俺の邪魔をする気か! その意味を解っているのだろうな!」

「はい。存じております。しかしながら、こちらは我が国の公女殿下に関する重要な証拠でございますゆえ、近衛騎士団長としてお守りする義務がございます」


 カルステンはあっという間に、フェリクスを腕で拘束してしまった。魔法が使えないフェリクスは、意外とあっけない。とリズは驚く。

 それに加えて、拘束されたフェリクスを助けようとする者がいないことにも驚いた。皆それよりも、映像に夢中のようだ。


 そうこうしている間に映像では、紫のオーラがリズ達を水面まで浮き上がらせ、エディットを甲板へと救出するところまできた。


(この後、フェリクスは魔法を解除するんだよね……)


 リズはあの時のことを思い出す。

 けれどリズが感じていた感覚とは異なり、オーラが消えることは無かった。


 オーラは再びリズを、水中へと引きずり込んだのだ。


 アレクシスがリズを助けるために再び潜り、二人が水面に顔を出したところで映像は終了した。

 大神殿内は、婚約式とは思えないほど重苦しい雰囲気に包まれる。


「こちらは紛れもなく、殺人未遂です。王族の殺害は未遂であっても死罪。これはどの国でも同じはずです。法律を厳守なさる王太子殿下でしたら、ご理解いただけますよね?」


 アレクシスが淡々と述べると、後を追うように口を開いたのはエディットの隣にいたフラル国王だった。

 今日はこの後、エディットとの婚約式も行う予定だったので、フラル国王は招待されていたのだ。


 しかし今の映像を見たフラル国王は、娘を嫁がせようなどという気はとっくに消え去っていた。今のはリズに対する殺人未遂の証拠だけではなく、エディットにも危害が及んだ映像だったのだから。


「これは誠ですか! 側室でさえ受け入れがたい話でしたが、もう我慢の限界ですぞ!」

「黙れ、フラル国王! 今は側室の話などどうでもよい!」


 今のフェリクスにとってエディットとの結婚は、二の次、三の次、破棄されても良いくらいの気持ちだった。

 何よりも先に弁解しなければならないのはリズだ。彼女に嫉妬させるつもりが、心が完全に離れてしまうかもしれない事態に陥っている。


 何とかカルステンを突き飛ばしてリズへと視線を向けると、リズは悲しそうな表情でフェリクスを見つめていた。ヒロイン補正のおかげで誰もが同情してしまいそうなほど、儚げで可哀そうな雰囲気を醸し出している。


「……フェリクス。私を殺そうとしていたんですか?」

「違う! 断じてそなたを殺めるつもりではなかった!」

「私、あの時のフェリクスの表情は今でも覚えています。私を再び引きずり落とした時に、笑っていましたよね」


 リズはあの時、動けなくなるほど恐怖を感じていた。リズを見限って魔法を解除したと思っていただけでも怖かったのに、故意に引きずり込んでいたとなれば、恐怖を通り越して悲しくなってくる。なぜ彼は、大切なはずの聖女の魂にこのようなことができるのか。


「誤解だ! あの時は、そなたに嫉妬してほしくて……」


 彼の言葉は真実なのだろう。エディットを傍に置きながらも、彼は今でもリズに執着している。けれど、彼の気持ちを満足させるだけのために、何度も危険な目に遭うのはごめんだ。


「嫉妬させるために私の命を危険に晒すような人とは、結婚できません」


 フェリクスとは結婚したくない。


 ずっと言いたかった言葉を、リズはやっと本人に言えた。

 けれど、心に秘めてきた気持ちを伝えられても、嬉しいという気持ちは湧いてこない。リズはもうフェリクスにうんざりしており、さっさと終わらせたいという気持ちしかなかった。

 

 冷え切った視線をフェリクスに向けると、彼は絶望したように顔をこわばらせた。


「……すまない。罪は償う。死刑でもなんでも受け入れよう。――だが、死ぬ前に結婚だけはしてくれ。そして、人生を共にやり直そう」


(……やり直すって、どういう意味?)


 フェリクスにとって人生をやり直すとは、文字どおり転生してやり直すということだろう。それを共に(・・)ということは、リズも一緒に今の人生を終わらせなければならない。


 身の危険を感じたリズは、恐怖で身体が震えてきた。それを気遣うように、フェリクスは笑みを浮かべる。その笑みすら、リズの恐怖を増幅させた。


「怯えるなリゼット。俺に任せれば全て上手くいく。今までもそうしてきただろう?」

「そんなの覚えてません……」


 リズは怖くて一歩、後ずさった。

 すると、フェリクスの顔が急変する。神にでも必死に縋るような切迫した表情を浮かべると、リズの元へと走り出した。


「リゼット、逃げないでくれ!」


「やだ……アレクシス!」

「リズ!」


 リズがアレクシスに助けを求める声と、アレクシスがリズの元へ駆け出すのはほぼ同時だった。

 リズの元へとたどり着く寸前で、アレクシスはフェリクスを取り押さえた。

 後から駆け付けたバルリング兄弟によって、フェリクスはリズから遠ざけられる。


「リズ、大丈夫?」

「アレクシスぅ……」


 泣きそうになりながら、リズがアレクシスに抱きついた瞬間。

 なぜか、目の前にあった前世を映す鏡は、まばゆい光を放った。


残り4話くらい、木曜日辺りに完結予定です。

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