表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/117

110 鏡の中の聖女1

 翌日。白いドレスに身を包んだリズは、大神殿の控え室にてフェリクスとの対面を果たしていた。

 彼も今日は、白い正装をまとっている。挿絵で見た時は、身もだえるほどカッコイイと思っていたが、今はそのような感情は欠片も沸いてこない。


「約束は、守ってくれないんですよね……」

「すまないな。そなたが聖女の魂でないと証明できるならば、開放してやれるのだが」


 リズの魂は紛れもなく聖女のもの。そのような証明などできるはずがない。

 リズが口を噤むと、フェリクスは悲しそうな表情でリズの顔を覗き込んできた。


「今日くらいは、俺にも笑顔を見せてはくれないか。そなたにとっては苦痛かもしれないが、俺にとっては聖女の魂との大切な儀式なんだ」


 フェリクスの気持ちを考えると、心が痛まないわけではない。彼はひたすら聖女の魂を愛しており、何世にも渡って彼女達と恋をしてきた。

 リズに嫌われたら、フェリクスは落ち込み悲しむ。それは理解しているが、今のリズの心はリズだけのものであり、誰を好きになるかはリズの自由なはずだ。


「フェリクスが私を笑顔にさせる方法は、一つだけ…………っ!」


 そう返事をした瞬間、リズの視界はぐらりと揺れた。神聖力と魔力のバランスが乱れたようだ。

 フラッと倒れそうになったリズを、フェリクスはしっかりと抱きとめた。


「笑顔にはできないようだが、そなたには俺が必要だ。今はそれだけで我慢しよう。そなたが俺に身を委ねているというだけでも、気分が良い」


 抱きしめられたフェリクスの腕から温かさが伝わってきて、眩暈と気持ち悪さが解消されていく。

 しかしリズの心は晴れない。フェリクスに頼らなければならないこの状況が、苦痛で仕方なかった。


「ありがとうございます……。そろそろ式が始まりますよ。早く行きましょう」


 リズは両腕を突き出して、無理やりフェリクスから離れた。





 大神殿の儀式場には、急きょ集まったとは思えないほど大勢の貴族達が参列していた。

 祭壇には、挿絵で見たのと同じ巨大な鏡。その横には昨日、リズの状態を説明してくれた神官が立っていた。王太子の婚約式を任されるということは、地位の高い神官のようだ。


 大神殿で婚約式をおこなう場合の流れは、前世を映す鏡で調べてから、再度お互いの意思を確認し、それから婚約式がおこなわれる。

 一般の国民が、鏡に前世の姿が映ることは稀だが、婚約式前の余興のようなものとして国民には親しまれている。


「鏡に映ったものを真実として受け止めることを、誓いますか」


 神官に問われて、リズとフェリクスはそれぞれ「誓います」と宣言した。


「それでは、鏡の前に立とうか」


 フェリクスは甘い表情で、リズに微笑みかけた。彼にとっては待ちに待った瞬間なのだろう。


 彼にエスコートされて、鏡の前へと立ったリズ。大きく深呼吸してから、鏡を見上げた。


 しかし当然のことながら、鏡には何の反応も見られない。

 そのことに驚いたのは、本人たちよりも参列者のほうだった。


「鏡が反応しないぞ! どういうことだ?」

「公女殿下は聖女の魂をお持ちではないの?」

「聖女の力は発現したじゃないか!」


 フェリクスはその声を聞きながら、冷たい笑みをリズへと向けた。


「まさか、本当に映らないとはな。予防線を張っておいて良かった」

「えっ……」


 リズはそれを聞いて、ドキリと心臓が跳ねた。

 昨夜のダンスの時にフェリクスが言っていた「法律は重視させてもらう」という言葉と、今の発言が通じたように思えたのだ。

 そして法律を盾に、リズと結婚する方法は。


「……まさか。フェリクスが、聖女の力を発現させたんですか?」

「証拠でもあるのか?」

「それは……」


 証拠などない。しかし、ストーリーを元に戻そうとしたり、自分に都合の良い展開にできる人など、フェリクス以外に考えられない。

 リズはいつも、彼の手のひらの上で転がされている気分だ。


「皆、静粛に」


 フェリクスは参列者へと身体を向けると、よく通る声で貴族達を静めた。


「これには、事情がある。前世の彼女は若くして亡くなっており、俺は国を安定させるために後を追うことができなかった。おそらくその間に彼女は、どこかに転生してしまったのだろう。しかし神は、俺達を引き離そうとはなさらなかった。聖女の力を発現させることで、リゼットが聖女の魂であることを証明してくださったのだ」


 転生についてはフェリクスの推測どおりだが、後半は都合の良いこじつけだとリズは思った。


(そもそも、私が日本に転生したのは……)


 リズは何かを思い出せそうな気がしたが、それは空中分解するように消えてしまった。大切なことだった気がするのに、よく思い出せない。


「――よって、リゼットを聖女の魂と認め、予定どおり婚約式を執り行う」


 フェリクスはそう結論づけると、続けて婚約式をおこなうよう神官に指示を出した。それからリズを連れて、フェリクスは鏡の前から移動しようとしたが。

 その時、儀式場にアレクシスの声が響き渡った。

 

「お待ちください。ベルーリルム公国は、この婚約の破棄を申し立てます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ