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10 怖い魔女3

 食堂へ入ると、アレクシスがわざわざ椅子を引いてリズを座らせてくれた。生まれてこのかた、前世も含めて、男性に紳士的な仕草を取られたことがないリズは、不覚にも少しときめいてしまった。


(さすが公子様、紳士的な態度が絵になるわ。それにしても……)


 食堂内が妙な雰囲気だ。給仕の男性達が、緊張した様子でアレクシスやリズの一挙一動に、注目しているように見える。公子の給仕は、それほど緊張するのだろうか。


 こんな状況での食事は遠慮したいと思ったリズは、あることを閃いた。


(私だって、ヒロインの端くれ。この場の雰囲気を和ませるのは、私の仕事よね)


『ヒロインが微笑めば、誰もが彼女に心を奪われる』小説でのヒロインは、そういう美貌を持ち合わせていた。


 早速、スープを配膳してくれた給仕に「ありがとう」と微笑んでみると、彼は「ひぃっ!」とわずかに顔を怯えさせながら、半歩ほど下がった。


(あれ……。今のって、悲鳴……?)


 同じヒロインなのに、どうして印象が違うのだろう。真剣に考え込んだリズだったが、彼女は知らない。

 リズが湯浴みをしていた間に、『彼女は怖い魔女』だと宮殿中に知れ渡ってしまったことを。


「君、その態度は何?」

「申し訳ございません。公子殿下……」

「不愉快だ。下がりなさい」


 アレクシスにお叱りを受けて、リズに配膳した給仕が下がると、室内はさらに緊張した雰囲気に包まれる。

 良かれと思ってしたことが裏目に出てしまい、リズが申し訳なく思っていると、アレクシスがリズに向けて微笑んだ。


「リズは公女になるんだから、使用人に気を遣う必要はないんだよ」

「はい……、公子様。余計なことをしてしまいました」

「怒っているわけではないからね。君の笑顔は、僕に向けてほしいな。今は僕との朝食だから」


 アレクシスの柔らかい雰囲気で安心をしたのか、給仕達の表情が和らいでいる。アレクシスのフォローに感謝しながら、リズも「はい」と微笑んだ。




 それからアレクシスは、これからのリズの生活について教えてくれた。

 まずは養女となるために、公王へ挨拶に行かなければならないそうだが、庶民であり魔女でもあるリズは、貴族の礼儀作法からみっちり覚えなければならないらしい。


(小説のヒロインは、その教育でめちゃくちゃ虐められるのよね)


 ドアマットのごとく、使用人や先生に虐められたあとに、ヒーローである王太子によって助け出されるという展開だ。


(でも、大丈夫。虐められないように、しっかりと予習してあるんだから!)


 リズも、逃げることばかり考えていたわけではない。逃げ切れなかった時には、少しでも環境を良くしたいと思い、礼儀作法なども勉強してきた。今現在も、その成果を発揮している最中だ。

 貴族顔負けの優雅さで食事をしているリズを目にして、アレクシスは「リズに教育は、必要なさそうだけれどね」と付け加えた。


 リズは街で貴族の姿を目にするたびに、目を皿のようにして動作を学んだり、前世でのマナーを参考にしてきた。アレクシスの目からは合格に見えるようなので、リズはほっとする。

 リズが礼儀作法を身につけていることを疑問に思わないのは、前世の記憶があるからだと彼は判断したようだ。


(よしっ。これで、虐められルートは回避できる!)


 リズが近い未来に希望が持てたところで、アレクシスが再び口を開いた。


「それから、リズの護衛騎士を選ばなければね」


(護衛騎士? 小説にはなかった展開だわ)


 この時点での小説のヒロインは、誰にも庇護されていなかったので、護衛騎士をつけようと思う者もいなかった。

 持つべきものは、優しい兄だと思いながら、リズは瞳を輝かせた。


「それなら、ローラント様が良いです! 彼は、村の魔女達にも親切にしてくれたんです」

「そう。ならば、護衛騎士はローラントにしよう」


(これで、逃げる方法も確保できたんじゃない?)


 


 朝食を食べ終え廊下へと出たリズは、自分の部屋はどこだっただろうかと考えた。

 とりあえず歩き始めなければ、迷子がバレてしまう。そう思ったリズは一歩、足を踏み出してみたが、「リズの部屋はこちらだよ」と、アレクシスに逆方向を指さされた。


「あ……そうでしたよね!」

「宮殿は広いから、覚えるのが大変でしょう。部屋まで送るよ」

「ふふ……助かります、公子様」


 アレクシスに案内されて部屋に戻ると、先に部屋へ戻っていたメルヒオールが、ちょうど床の掃き掃除をしているところだった。

 リズの家ではそれが彼の日課だったので、家は変われど、日課をこなしていたようだ。


「メルヒオール、お掃除してくれていたの? ありがとう!」


 リズがお礼を述べると、メルヒールはご機嫌な様子で柄の先をフリフリさせた。ほうきである彼にとっては、乗り物として役立つことも嬉しいが、本来の目的で使用されるのも、また喜び。

 感謝されて嬉しいメルヒオールは、再び掃き掃除を始めた。


 しかしリズの背後では、アレクシスが怒りを露わにした表情をほうきに向けている。

 それに気がついたメルヒオールは、怯えながらベッドの天蓋を支えている柱の陰に逃げ込んだ。ほうきだからこそ可能な、細い隠れ場所である。


「メルヒオール……?」


 相棒の様子がおかしい。どうしたのだろうと思いながらリズは近づこうとしたが、それを遮るようにしてアレクシスに肩を掴まれる。


「リズ。君だけではなく、君の相棒にまで苦労をかけさせてしまったようだ」

「へ?」

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